第11話 ミャー
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という、ミーたんの声が聞こえてボクは眼を醒ました。
頭が重い、身体もだ。
全身をしっとりとした柔らかな重石に覆われてるような、そんな感じがする。
「ミーたんゴメン。今日日曜日だから、もう少し眠らせて」
ボクは両目を瞑ったまま、枕を抱きしめてそう言った。
『ミーたんじゃないわよ』
あぁ~、凄いエロい夢を見てる。
ボクは夢を見ながら、それが夢だと分かる方の人間だ。
上樹先輩とお風呂に入って流しっこするなんて、まだ未練があるのかな!?
でも、夢のなかなら許してくれるよね。
「そなたが乳が好きなのは分かったから、もう少し力を抜いてくれぬか? ちと息苦しゅうて……」
ボクは上樹先輩の頬に触れた。
凄い。
指先が肌に吸い付いて離れない。
上樹先輩の唇がボクの親指に触れ、上樹先輩の前歯がボクの親指を甘噛みし、上樹先輩の柔らかな舌がボクの指先をちろりと舐めた。
じわっと暖かい戦慄が背中に広がり、経験した事の無い快感が背骨を駆け上がった。
ボクは気がついたら上樹先輩の唇を奪って、ベッドに押し倒していた。
「これ!? まだ朝ぞ」
一瞬だけボクの胸を押した上樹先輩の手は、再び唇を重ねた時にはボクの背中に回っていた・・・
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大きく息をついて、ボクは目を醒ました。
数度瞬きした眼に、まだ見慣れない天井が映りボクはガバッと起き上がった。
頭が重い。
身体も重い。
深酒のせいだな。
布団もシーツもグッチャグチャで、パジャマまで脱ぎ捨ててる。
下着もだ。
あ~、着替えるの面倒くさい。
冷蔵庫を開けて、冷たいミネラルウォーターを喉に流し込んだ。
「なんだこれ?」
凄く美味い。
微かな甘みに、微かな酸味、それに少し不思議な香りがする。
フレーバーウォーターなのかな?
渇いた喉を潤した水は、全身の血管を駆け巡って、身体の隅々まで行き渡った。
ボクは、二リットルを一気に飲み干して銘柄を見た。
「sóma。ソーマって読むのかな?」
知らない銘柄だ。
水をたらふく飲んだお陰か、なんだか頭がスッキリした。
身体も軽くなったような気がする。
ハッと気がつき、ボクは部屋に駆け戻って服を着た。
そうだ琥珀様が居るんだった。
二度も裸を見られたら、それこそ変態扱いだ。
「コハクさま」
ボクは彼女の名を呼んだ。
返事は無い。
「コハクさま!!」
もう一度呼んだ。
やっぱり返事が無い。
ゲストルームを覗いてみた。
ベッドの上にキチンとたたまれた浴衣があった。
バスルームを見た。
居ない。
洗濯機を見た。
着物が無い。
鎧も無い。
もしかして、全部夢だったのか?
きれいに方詰められた酒瓶と、ラックに残された一振りの刀だけが、琥珀様の痕跡として残っていた。
「コハクさま」
名前を呼んだ。
やっぱり返事がない。
シーンと静まり返った部屋で、ボクは鯉口を切って刀を抜いて見た。
一目見て分かった。
真剣だ。
間違いない。
これ本物だ。
慌てて鞘にしまったボクの耳に、
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
と、けたたましい悲鳴が届いた。
「なに!?」
眼をやるとミーたんだった。
「ミーたんが悲鳴!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、た、助けて」
助けて!?
駆け寄って良く見ると、ミーたんの前脚が、テシテシテシと何かを叩いていた。
「うぉ、止めろ、止めぬか、このけだものめぇぇぇぇ」
「小人だ。小人がいる」
「貴様、見ておらんで助けぬかぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ボクは、直通電話でコンシェルジェさんに連絡した。
『いかがなさいましたか桐生様』
「小人です。小人が出ました」
『それはどんな小人様ですか? 洋服? それとも和服?』
「洋服です。なんていえか中世ヨーロッパのカボチャみたいなパンツ履いたおじさんです」
「電話なんぞしとらんで、助けぬかぁぁぁ。止めろ。やめろう。やめて、やめて、やめて」
「あ~ダメダメ、ミーたん噛みつくのはダメ」
『エーデルワイス公フリッツ・エリアス・イグナシオ・ティーデ六世様ですね。すぐに向かいます』
コンシェルジュさんを待ちながら、ボクはミーたんと小人さんの格闘を眺めていた。
「笑っておらぬで、助けぬかぁぁぁぁぁ」
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