第8話 これが役得だとしたら


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 うん悪くない。

 何てったって美女と混浴だ。

 確かに役得だ。

 琥珀様はシャワーを使わず、手桶を使って湯船からお湯を汲んで身体に掛けた。

 琥珀様の豊かな青い髪の毛は、器用に結い上げられ、一滴の水飛沫みずしぶきも掛かってない。

 湯煙に浮かぶ柔らかなシルエットが、たまらなくそそる。

 ボクは琥珀様の背後に回ると、ナイロンタオルにボディーソープをたっぷりと注いで、両手で泡立ててから琥珀の背中を洗い出した。

 なんだろう、これ?

 良く見ると、全身傷だらけだ。

 これ特殊メイクじゃないよな。

 指先で触れてみたけど、本物の疵痕だ。

 もしかして、DVの被害者なのか!?

 だとしたら許せない。

 こんな可愛い子を傷つけて喜んでる変態野郎を、ぶちのめしてやる。

 って、一瞬怒りに燃えたんだけど、こんな傷、普通に出来ないような。

 右肩から左腰に掛けて走る三本の傷なんて、どうしたら着くの?

 それに左肩の噛み跡。

 これサイズの歯形って、熊とかライオンとかに噛まれないと絶対に着かないよね。

「コハクさま」

「なんじゃ」

「つかぬ事を訊きますけど。この傷は、どーやってついたんですか?」

「うん?」

 バスチェアに座った姿勢のまま、くるりと回った琥珀様が、

「これか?」

 と、肩の傷を指さした。

 ああ!!

 駄目、見えちゃう、見えちゃう。

 って、見えやしない。

 全身泡まみれだ。

 ホッとしたような、残念なような。

 いや凄く残念だ。

「これはな十三の時に曼丁蛟まんていこうに食らいつかれた時の傷じゃ」

「マンテイコウ?」

「そうじゃ身の丈二丈はある大物でな、わらわは危うく死ぬ所であった」

「じゃあ背中のは?」

「これは昨年鬼迷羅きまいら狩りをした時の名誉の負傷じゃよ」

 そう言った琥珀様は、おもむろにお湯をかぶって立ち上がった。

「この傷もそうじゃな」

 そういって右腰当たりに走る傷跡を指さしたんだけど、そんな所を見る余裕なんて、ボクには全くなかった。

 ボクの眼の前に、琥珀の大切な部分がドドーンって感じで迫っていたからだ。

 長湯もしてないのに、ボクは早々にのぼせ上がった。



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