第9話 ポンとパロマの栓を抜いて。


 ♠



 あ~、湯上がりのビールは美味い。

 最高!!

 真夏は、さっぱりとした味わいのパロマビールにライムを沈めて飲むのが、何気に最高の贅沢だと思う。

 琥珀様と一緒にお風呂に入って分かった事が幾つかあった。

 琥珀様の青い髪の毛は地毛だって事だ。

 あの後、琥珀様の髪の毛を洗ってる時にそれに気づいた。

 最初は染めてあるのかと思ったけど違った。

 琥珀様の髪の毛は長い。

 腰の辺りまである。

 その腰の辺りまである、青い髪毛の毛先はボロボロだった。

 枝毛に、切れ毛。

 キューティクルケアーなんて知らないみたいにボッサボサだ。

 昨日・今日染めた訳じゃないなら、生え際は地毛の色が出てる筈なのに、琥珀の髪はその根元まで輝く群青だった。

 それに、あのオレンジ色の瞳。

 ボクはお風呂に入る前に、コンタクトを外しましょうって、琥珀様に言ったんだけど。

 琥珀様は、コンタクトレンズの事を何も知らなかった。

 つまり、あの特徴的なオレンジ色の瞳はカラコンじゃないって事だ。

 一体、琥珀様って何なんだ?

「これは、その様にして飲むモノなのかえ?」

 琥珀様が、パロマの瓶をしげしげと眺めながらボクに尋ねた。

「そうです。こうして中にライムを落として瓶に直接口をつけて飲むのが、一番美味しい飲み方です」

「ふ~む、行儀が悪いのう。わらわは器に移して飲むとしよう」

 そう言った琥珀様は慣れた様子でキッチンに向かい、食器棚から杯を持って戻って来た。

 さっきもそうだが琥珀様は、このペントハウスの事を何でも知ってるようだ。

 琥珀様の長い髪をどうして乾かそうか考えてる隙に、バスルームに併設されてる、サウナでも無いなんだか分からない部屋に入ると数秒後には、全身乾かして出てきた。

 これって全身ドライヤーだったのかと、改めて驚いた。

 ボクも使ってみたけど、本当に一瞬で乾いた。

 温風も何も出て来ないのに、一体全体どんな技術なんだろう?

「うむ。サッパリしておる。湯浴みの後には最高の一杯じゃ」

 にっこりと微笑んだ。

「ミャー」

 と、琥珀様の浴衣の脚にすり寄ったミーたんが、ジャンプして膝の上に乗れないものだから、そのまま浴衣に爪を立てて、琥珀様の身体によじ登り始めた。

 ミーたんの得意技だ。

 前の家でボクがキッチンに立ってると、

 寂しいのか? 

 それとも遊んで欲しいのか?

 ボクのジーンズに爪を立てて、ヨジヨジヨジヨジとよじ登って来たんだけど、これが意外に痛い。

 子猫の爪は鋭く尖ってて、それがチクチクと肌に突き刺さるのだ。

「ああ、ダメだよミーたん」

 ボクが引き剥がそうとして手を伸ばすと、琥珀様がそれを止めた。

「よい、よい」

 ヨジヨジと脚を登り、胸元まで来た所で琥珀様の両腕が、ふわりと優しくミーたんを包み込んだ。

「かわゆや。まるで赤子ややこのようではないかえ」

 ボクには決して抱っこさせないのに。

 ミーたんの現金さにムッとしたけど、琥珀様の笑顔が可愛いから許す事にした。

「このけものは、なんというのかや!?」

 一瞬、琥珀様の質問の意味が分からなかったけど、多分そういう事なんだろうな~、と、ボクは思った。

「猫ですよ」

「そうか。よーし、ネコ、ネコ、そなたはネコというのか」

 ミーたんの頭をナデナデしながらネコネコと連呼する琥珀様を見て、ボクは先読みしすぎたと悟った。

「違う、違う、この子の名前はミーたんですよ」

「うん?」

「この動物の、いや獣の名前は猫で、固有名詞がミーたん」

「そなたの言う事は、いまいち良く分からんが、この者の名はミーたんなのじゃな」

「そうです」

「あ、これ」

 琥珀様の手の中でジタバタと暴れたミーたんが、浴衣の襟元から懐に潜り込んだ。

 ミーたんズルいぞ!!


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