第6話 最初のお仕事は、お着替えのお手伝い
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琥珀様の背丈はボクより低い。
顔の位置は、ちょうどボクの胸辺りだ。
ただしこの兜、縦にすんごく長い。
五十センチはある。
それに、この装飾品の多さ。
表面のエングレービングも凄く凝ってる。
多分これ、ゲームかマンガかアニメのキャラクターだよね。
ボクは、その作品を知らないけど、っと⋯⋯
何これ、凄く重いんですけど。
ボクが支えてるのを確認した琥珀様が、兜の緒を解いた途端に、ボクの両手にずっしりと重さがのし掛かって来た。
これ三キロ、いや五キロはあるよ。
何なのこの人。
普段から首の筋トレでもしてんの?
とんだマッスルモンスターだ。
ボクは受け取った兜を取りあえずテーブルの上に置いた。
その間に、琥珀さまは細かな鎖で編まれた頭巾の留め紐を解いて、それをボクに渡した。
これも重い。
ずっしりと重い。
顔を覆っていたお面(なんて言うんだっけこれ)を取り、髪の毛をまとめてた布製の頭巾を脱いで頭を振った。
少し癖のある長い青い髪がパァッと広がって、フローラルな香りがボクの鼻に届いた。
「はぁ~、すっとしたぞえ」
えっ!?
お面を受け取ったボクは呆気に取られた。
さっきまでと全然声が違う。
少しハスキーだけど、可愛らしい女の子の声だ。
今まで聴いてた
「声が……」
ボクは、思わず声に出した。
「うんっ?」
ふりむいた琥珀様の顔を見て、ボクの眼は釘付けにされた。
「上樹先輩……!?」
呆然と彼女の顔に見惚れてしまった。
あ、違う。
良く見ると全然違う。
琥珀様の方が若いし、なにより
上樹先輩はボクと同じで黒い瞳をしてるけど、琥珀さまはオレンジ色の瞳をしてる。
こんなに瞳の赤い人初めて見た。
多分、コンシェルジュさんと一緒でカラコンだよね?
「何じゃ!?」
呆気に取られたボクを、琥珀様が上目遣いに見た。
あ、やめて。
その目つきは、凄い反則だ。
「声が変わってるな~と……」
「ああ、この声かえ。わらわの声は迫力がないゆえ。
ああ、このお面、面頬ってあうのか。
鷲の嘴とライオンの顎を足して二で割ったような、不思議な形をした面頬の裏を見たけど、琥珀様言う所のぼいすちぇんじゃは見あたらない。
「魔式裏って?」
「なんじゃ魔式裏も知らんのか?」
知りませ~ん。
コスプレ専門の仕立屋かなんかなのかな?
凄い本格的なんですけど、これ。
ボクは琥珀さまの背後に回って後ろから鎧を支えた。
前後二枚重ねになってる鎧は、片側だけでも凄い重量がある。
留め金を外し、ひーひー言いながらテーブルに置いた。
腕当てを外し、臑当てを外し、ようやく雅な模様が入った着物が露わになった。
こーして見ると、凄い美人なんだよね~
ちょっぴり薄汚れてるけど。
刀を受け取ったボクは、これをどこに置こうか頭を悩ませた。
これ見た目と違って、ずっと重たい。
竹光じゃないんだ。
真剣じゃないとは想うけど、間違い無く竹光じゃない。
模造刀!?
なんにしても危ない物だと想う。
「それは、ほれ。そこに置くのじゃよ」
琥珀様が指差した先にラックがあった。
この部屋に越して来た時から、これに何を掛けるのか気になってたんだけど、ようやく使い道が分かった。
じゃあ、この隣にある何倍も大きなラックには、何が掛かるんだろ?
考えると恐いから、考えるのやめよう。
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