第5話 コンシェルジュさんを待つ
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この状況下での、一分一秒は物凄く長い。
一階のエントランスから地下に降りて、それからエレベーターで一分。
長い、長すぎるよ。
「お待たせしました」
着た!!
速っ!!
十秒掛かってないような。
きっと他の階で仕事をしてたんだな。
コンシェルジュさんは大きく眼を見開いて、ボクを上から下まで眺めて、ほんのチョッピリ驚いたように微笑んだ。
右が金で、左が紫の眼が明らかに笑いの形に崩れてる。
ボクの慌てぶりが、よっぽどおかしかったのだろう。
「では参りましょう」
ボクが積み上げたイスを片手で持ち上げたコンシェルジュさんが、左手でドアを押した。
あっ!!
そういや、このドア内側にも外側にも開くタイプだった・・・
それを必死に押してたのか。
馬鹿なボク。
「お久しぶりです琥珀様」
イスを置いたコンシェルジュさんが丁寧にお辞儀した。
「おお!! こんしぇるしゅ殿ひさしいな」
妙なイントネーションでコンシェルジュさんと挨拶を交わした鎧武者が、ボクの方に近寄って来た。
恐っ!!
「そこの者、そなたが新たな管理人かや」
「管理人?」
「左様に御座います、琥珀様」
ボクの疑問符に応える事無く、コンシェルジュさんは琥珀様という鎧武者の言葉を肯定した。
「ちょっと、ちょっと待ってよ。管理人って何の事です?」
「先日契約を結んだ、ペントハウスの管理人契約の事ですが」
「そんな契約結んだ覚えはありませんよ」
「結びましたよ」
「いや結んでない」
「管理人契約は十年と、確かに確認を取っておりますが」
「いや、取ってな~ぃ」
さっきとはうって変わった冷たい視線を送って来たコンシェルジュさんが、どこからともなく契約書の束を取り出した。
マジシャンかよ。
「え~っと、ここですね」
五十枚ほどある契約書の中から一枚を取り出して、ボクに渡した。
「契約事項第234項修正第2項に記してある筈です」
右の者を、ハイタワーマンション・ペントハウス《スカイラウンジ》の管理人に任ずる。
すっごく小さな字で確かにそう書かれてる。
20XX年○月×日桐生暁人。
宛名欄には、ボクの字でボクの署名がされて、その隣ににはボクの親指の指紋が確かに捺印されていた。
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・
社会人になる前に上樹先輩に言われた言葉を思い出した。
『暁人くんは人が良いから騙されないように気をつけないとね。良い、契約書は必ずしっかり眼を通すのよ。一番大切な事って、大抵一番小さな字で書かれてるんだからね』
見事に騙されました、上樹先輩。
創先輩と結婚してカナダに行っちゃったけど、元気にしてるかな~
好きだったな上樹先輩・・・
今想うと、ボクにもワンチャンスあったよな。
「聴いてますか桐生様」
――現実逃避終了――
コンシェルジュさんは、ボクに改めて契約事項を説明すると去って行った。
クーリングオフも出来るみたいだけど、なんかむちゃくちゃな罰則が貸せられるみたいだ。
契約書には、寿命を十年分支払うって書かれてた。
なんの事かサッパリだけど、なんか恐い。
『確かに苦労はありますが、その分役得の多い仕事です。頑張って』
と、コンシェルジュさんは言い残したけど、役得ってなによ?
「――殿、管理人殿」
トントンと肩をつつかれた。
「あ、はいはい」
真後ろに鎧武者が立っていた。
ボクは慌てて返事をする。
機嫌を損ねて腰の刀でバッサリなんてゴメンだ。
多分偽物だけど。
竹光でも、叩かれたら痛いと想う。
「改めて自己紹介させて頂こう。わらわは
「え、あ、
「エア気流アキト。変わった名よの」
「あああ、違います。ただの桐生暁人です」
「桐生暁人殿か。なんと呼べば良い?」
「友達からは、暁人と呼ばれてます」
「では、暁人殿。わらわの事は琥珀と呼んで貰って構わぬ」
「え~っと、こはく、さま?」
なんとなく敬語になった。
「こんしぇるしゅ殿と同じか? まあそれでも良い。早速で悪いが、わらわは長旅で疲れておる。はやく湯浴みがしたいのじゃ。済まぬが鎧を脱ぐのを手伝って貰えぬか」
「あ~、はいはい」
この変な言葉づかいのコスプレイヤーの着替えを手伝う事に、どんな役得があっての?
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