第4話 今、ボクの部屋に鎧武者がいる
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全身真っ赤っかの鎧武者が。
兜に、鎧に、マントも、何もかんも真っ赤っかな鎧武者が、ボクのミーたんを抱っこして、ボクの部屋を占拠してる。
なにこれ、
なにこれ、
なんだこれ!!
なんなんだこれ!?
ドッキリ番組なの!!
なんなのよ。
待て、落ち着け
まずは深呼吸だ。
ゆっくり鼻で吸って。
大きく口で吐いて。
ゆっくり鼻で吸って。
大きく口で吐いて。
ボクは携帯を手に取って緊急ダイヤルをコールした。
呼び出し音が、耳の奥で焦れったい。
はやく、はやく、はやく、はやく、なにしてんの!!
『ハイ、緊急ダイヤル』
女性オペレーターの声が、天使の声に聞こえた。
「あっ、もしもし……」
勢い込んで話し掛けた所で言葉に詰まった。
この状況をなんて説明したら良いんだ?
家に帰ったら鎧武者がいて、ぼくの子猫を人質に取って立て籠もってるんですって?
イタズラと想われるのが関の山だ。
それか酔っぱらってるか、ドラッグやってラリってるかのどちらかだ。
もし師村や嘉藤が、こんな時間に、こんな電話掛けて来たらボクだって、
「お前、酔っぱらってんのか?」
と、言うに違いない。
『もしもし、もしもし……』
と、繰り返すオペレーターの声を遠くに聴きながら、ボクは電話を切った。
そっとドアを開いて中を覗いた。
相変わらず鎧武者はミーたんを胸に抱っこしてる。
〈なにしてんのミーたん!!〉
ミーたんは抱っこか嫌いな猫さんだ。
膝の上には乗っかって来るし、なでなでも普通に出来るけど、抱っこだけは強硬に嫌がる。
ボクが抱き上げると、両手両脚を突っ張って逃げようとする。
無理して抱き続けると、しまいには爪を立てて引っ掻いて来る始末だ。
でも、そんな様子は微塵も見られない。
ミーたん・・・
ボクは爪を噛んで鎧武者を嫉妬した。
と。
鎧武者と眼があった。
「そなた、さっきから何をしておる?」
気づかれた。
大慌てでドアを閉めたボクは、背中でドアを抑えつけた。
いや駄目だ。
鍵、鍵、鍵、鍵どこだ? どこ? どこ!? どこ!!
「何をそんなに慌てておる。入って来ぬのか?」
すぐ側で声が聞こえた。
ヒィィィィィィィィィィ
ドアのすぐ向こう側に鎧武者がいる。
咄嗟に頭に思い浮かんだのは、腰差した二本の刀だ。
多分だけど、いや間違い無く偽物だろうけど、もしあれが本物の日本刀なら、こんなドアなんて簡単に貫けるんじゃないの!?
ゾワゾワゾワ~
と、全身に鳥肌が立った。
鍵、鍵どこだ、鍵!?
ジーンズ、Gパン、Gパンのポケット。
Gパン、Gパン、Gパンどこだ?
プールの側だよ、デッキチェアーの上だ!!
「アアアアアアアア」
馬鹿!!
調子に乗ってプールなんかに飛び込むからだよ。
両手でドアを押さえながら、アンティークなクニョンと曲がったドアノブが動かないのを願った。
今のうち、今のうちにダッシュで鍵を取って来て、鎧武者をなかに閉じ込めてしまえば・・・
って、鍵穴こっち側だし。
向こう側から開け邦題だし。
もう、もう、もう!!
どうすりゃ良いの。
どうしたら良いの。
ボクに、どうしろっての!?
そうだ、そうだ、そうだ、そうだ!!
この靴箱をずらして、ドアの前に置いて閉じ込めよう。
とりあえずイス、イスを置いてドアノブが下げられないようにして。
次は靴箱を、
「クォォォォォォ、重い」
なんで出来てんの、鋼鉄製なの、ねえ、誰か答えてよ。
「もう」
ボクは声に出して怒鳴った。
「なにごとじゃ?」
ドアの向こうから声がした。
聴かれてる。
ヘタっと腰が抜けそうになった。
もう終わりだ。
これで終わりだ。
まだ25なのに~
うなだれたボクの眼に、あるモノが光輝いて見えた。
内線電話だ。
コンシェルジュさんに繋がる直通電話だ。
ボク慌てて受話器を取った。
ダイヤルもしてないのにコール音がした。
プルルルル、プルルルル、プルルルル・・・
遅い!!
「はい」
「コンシェルジュさん、コンシェルジュさん、コンシェルジュさん」
「桐生様、いかがなさいました」
コンシェルジュさんの落ち着いた声が、神の声に聞こえた。
「不審者です。不審者が、ボクの、ボクの、ボクの部屋にいるんですゥゥゥゥゥ」
それだけ言って、ボクはだらしなくその場にへたり込んだ。
「もしもし、もしもし桐生様。不審者ですか]
「不審者です。不審すぎる人です。どーみても妖しさ百パーセントの何かです」
「どんな格好をされてますか?」
どんな格好って、そんなの何の意味があるっての?
「鎧着てます」
「鎧? それは西洋の甲冑ですか? それとも……」
「鎧兜ですよ!! 時代劇に出てくるような」
「色は?」
「真っ赤っかです。兜も真っ赤、鎧も真っ赤、マントまで真っ赤かです。ロボットアニメの悪役だって、あんな派手なのいませんよ」
「ああ、琥珀様ですね。今からすぐに参ります。少しお待ちください」
そう言い残して、コンシェルジュさんは電話を切った。
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