お前ら女児ならなんでも許せるんだろ?

ちびまるフォイ

けしてPTA様にケンカを売る意志はございません!

「なんだこの仕事は! お前、社会人ナメてんのか!!」


「いえ、そんなことは……」


今日も朝から部長の怒号が響く。

実際は大きなミスでこそないものの部長が俺に怒鳴るのは

日々のストレス発散のはけ口になっている。


(佐藤さん、また怒鳴られてるわよ……)

(ホント使えないわよね……)


ひそひそと聞こえる噂話におばさん社員をぶっ飛ばしたくなる。


「おい聞いてるのか!!!!」


「はい……」


 ・

 ・

 ・


その日の夜、終電間近の駅のホームで電車を待っていた。


「はぁ……もういっそここから飛び降りようかな……」


自殺が頭をよぎるも電車のダイヤが狂ってしまうことを心配するあたり

俺はどうしようもなく自分に正直になれないのだと痛感した。


このまま生きていても間違いなく辛い事しか待っていない性格。


電車が到着して車両に入ると、乗客全員が小さな子供で驚いた。


「えっ……終電間近だぞ……!?」


いつもは疲れたサラリーマンや水商売帰りの女が席を連ねているのに

今日はまるで幼稚園の送迎バスのような状態になっている。


「つ、疲れているのかな……」


なんとか常識にすがって理性を保っていたが、

最寄り駅で降りたときにホームに立っているのが男児・女児だけを見てさすがに常識を捨てた。


「ええええええ!! なんかロリ化してるぅぅぅぅ!!」


『まもなく、1番ほーむにでんしゃがまいります』


ちょうど入って来た放送も子供の声で流されていた。



翌日、会社に行くと待っていたのは上司のかわいい説教だった。


「きみはしごとについてのぷらいどがなさすぎるぞ!」


「ええ、ええ。そうですねぇ」


ハゲちらかったおっさんに怒鳴られるのと、

ちびっこに怒鳴られるのとではこちらの受け止める余裕がちがう。


なんだろう。ぜんぜん痛くもかゆくもない。

それどころか愛おしさすら覚える。


「こら! 聞いてるのか!」


「よしよし、聴いてますよ」


「なでるなー!!」


社員も全員ロリ化していた。

会社に来る前の通行人もみんな子供。

テレビでニュースを報道しているのも子供。


見た目が子供になっただけで中身はそのままなのに、

なぜか今まで窮屈に感じていた世界がぐっと過ごしやすくなった。


「不思議だなぁ。みんなちびっこだと、何されても許せちゃう気がする」


「佐藤さん、コーヒーです」


女児が顔のサイズほどもあるお盆で一生懸命にコーヒーを持ってきてくれた。

しまいには抱きしめたくなる。


(最近、佐藤さんってなんか変わったわよね……)

(なんか大人びてるっているか余裕があるというか)

(ひらたくいうと、めっちゃカッコイイって感じじゃない?)


給湯室で固まって話をしている女児たち。

変化の度合いでいえば、ロリ化した向こうの方が大きい気はするが。



「あ、あの! 佐藤さんっ! 私とつきあってください!!」



女児が俺に告白するまではそうかからなかった。

以前にはこんなことドッキリですら起きえなかったのに。


体を緊張で震わせる女児を見て、世界の中心で愛を叫びたくなるも

頭の中をぐるぐると回るさまざまな法律を天秤にかける。


「……悪い、やっぱり……」


俺はそっと口を開いた。


「ダメ……ですか」


顔を上げた女児は今にも泣きそうに涙をためている。

うるんだ瞳を見て俺の中にあった法律という名のタガがはずれた。


「付き合うに決まってんだろぉォォォ!!!!」


自分の気持ちに素直になる。

それこそ、人間が人間らしく生きるのに守るべき法だ。そうにちがいない。


かくして、俺から見ればものすごい歳の差カップルができた。


まるで保育園に送り迎えする親子のような絵面だが俺たちは対等のカップル。

リア充通り越してロリ充だ。


「さーくん、あーんして」


「あーーん」


「おいしい?」

「おいちい!」


女児の可愛さに俺の精神までロリに汚染されていく。

でももうこの生活が幸せすぎて事案待ったなし。


彼女の誕生日になると、子供が喜びそうなケーキを買ってきた。


「ハッピバースデートゥーユー♪」


「わぁ、さーくんありがとう!」


晴れて彼女は大人の階段を一歩登って、ロリの階段から1段下がったわけだが……。

彼女の見た目はまるで変わらない。


1歳でそう変わるもんじゃないと思うが、髪の長さすら変わっていない。


「さーくん? どうしたの?」


「もし……もし、俺だけがおじいちゃんになったらどうする?」


「えーー。別れちゃうかなぁ」



「なんですと!!!」


幸せは唐突に終焉の日取りを決めやがった。


鏡を見ると俺は確かに地球の重力に魂を引かれたような加齢の痕跡が刻まれている。

間違いなく歳をとっている。髪ものびている。


「なんてことだ……ロリだらけのこの世界で、俺だけがみすぼらしく年を取るのか!?」


介護が必要になるほどに動けなくなっても周りにいるのはこどもだけ。

とても俺を支え切れるわけがない。


あげく歳を取らない彼女は汚い老人よりも、若いショタを選ぶだろう。ジーザス。


こうなったら頼るべきはただひとつ。

全財産を銀行から降ろして、近所のお賽銭箱に突っ込んだ。


「おお! 神よ!! どうか私の願いを聞いてください!!」


まばゆい光に包まれて神がやってきた。


「神様! 俺の願いを聞きにきてくれたんですね!」


「いや100万お賽銭にぶっこむイカれ野郎の顔を見ておきたくって」


「このままじゃ俺だけ歳をとってしまうんですよ! 俺もロリ化できませんか!」


「それはできない、諦めるんだな」


「そんな……」


神はときに残酷な現実を突きつける。

神の審判がくだったあとで俺は閃いた。


「いや待てよ……?」


どうして俺がロリ化して周りに合わせる方を考えたのだろうか。

その逆、周りを成長させればいいんじゃないか。


うん。その方がいい。

ちっちゃかったからだが徐々に大きくなる過程を楽しめるとか

朝顔の成長過程を記録するよりも有意義で魅力的だ。


「神様! 俺以外の全員を大きくすることはできますか!」


「それならできるぞ」


「お願いします!!」


神様はお賽銭のお金をふところに入れると空に向けて力を放った。


「お前の望む通り、お前以外の全員を成長させたぞ。さらばだ」


「神様!! ありがとう!!!」


金で解決できないことはない。

俺はスキップしながら愛おしい彼女の待つ家に帰った。


そして、言葉を失った。



「あ……あ……」



街には高層ビルと肩を並べる高さのロリ人間たちがあふれていた。

ロリ巨人たちを見て失敗に気がついた。



「大きくするって……そういうことじゃねぇぇぇーー!!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お前ら女児ならなんでも許せるんだろ? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ