第5話

突然君と帰ることになった私。


学校を出てからどれぐらい経っただろうか。


ただ無言で私と君は駅へ向かって歩いていた。


何か言いたそうで、聞いてほしそうな表情を浮かべている君。


そんな表情をさせながら、口をぎゅっとさせて、言葉を、気持ちを、どこか必死に抑えているようにも見える。


いつもクスッと笑っている君が、どうしてそんな表情をしているのか知りたい。


しかし、私と君はそんな事を言い合える関係では無い。


私はまだ一度も君の名前を呼んだことすらないのだから。


あぁ、どうすればいいのだろうか。


とりあえず、この空気を何とかしなければ…


『あのっ…』


君と被ってしまった…


「被っちゃったね」


「うん。ごめんなさい。」


「何で謝るの?」


さっきまでの辛そうな表情は消え、いつもと同じようにクスッと笑った君。


良かった、笑ってくれた。


「君と被ってしまったから。」


「それはしょうがないことじゃん。変なことを気にするんだね。」


え、私って変なの…?


「今、私って変なの?って思ったでしょ。」


「どうして分かって…」


「〇〇さんの顔って分かりやすいから。」


またクスッと笑った。


「恥ずかしい…」


「どうして?良いことでしょ。僕は〇〇さんが羨ましいよ…」


ふと、さっきの表情に戻ってしまった君がぼそっと呟いた。


「私は君が羨ましいよ。」


つられて私まで呟いた。


「無い物ねだりだね。」


何かをごまかそうと、そんな表情の君を見て私は…


「ねぇ、何かあったんでしょ…?」


なんて、滅多に自分から言わないような事を気づけば口にしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もしも今君が… 浅葱ヒカリ @asagihikari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ