第24話 black・parade

二人の男が睨みあっている。


「さぁ始めよう…!食事の前の余興だ……!」


一人は愉快そうにーー


「喰えるもんなら喰ってみやがれ…!!てめぇじゃあ俺には勝てねぇだろうけどよォーーッ」


一人は激しい怒りを胸にーーー。


「ゆ、勇者さま…?どーしたんですか?いきなり大声出して……」


元勇者を心配したリザが声をかけるとーー


「リザぁ……絶対にこっちにくんじゃあねぇぞ……!」


そう元勇者はリザに釘をさした。しかし、当然ながら未だリザは状況を飲み込めていない。


「だ、だからどうしたんですか!なんでそんなこと…!」


リザがまた元勇者に現状を確認すると、元勇者の代わりにエビルズがそれに答える。


「エビルズ様のお出ましだよォー、メスガキ。後で喰ってやるから待ってな…」


激しい悪寒がリザを襲う。

この時初めて、リザは"背筋がゾっとする"

という感覚を知った。

そう、それはまさにーー飢えた獣と丸腰で対峙した時のような圧倒的"絶望"。


ーーこ……声が出ない……出せない……!怖い……怖がっている……私……!


真の恐怖を味わったものはヘビに睨まれたカエルのように動けなくなるだけでなく、声を出すことすら難しくなるというが、リザは今まさにその状態なのだ。


「ンッン~、声が聞こえなくなったなァ~~。ビビっちまったかァ~?」


エビルズがその一言を口にだした瞬間ーー

元勇者の拳がその顔面を捉えた…ッッ!


「ンゲフッッッ!?」


拳を受けたエビルズは大きく後ろに仰け反り、そのまま倒れた。


「てめぇーーッッ!!!ウチの助手を馬鹿にしてんじゃねぇぞコラァーッッ!!!!!!」


そして、元勇者は倒れたエビルズに馬乗りになりーー


「デイドラさんの体にゃすまねぇが!!」


その顔面を殴る。


「てめぇは殴らねぇと気がすまねェーーー!!!!」


だがしかしーーー


「バカスカ殴ってくれるなよ人間ッッ!!!」


されるがままだったエビルズが横に転がり、元勇者もその衝撃で地面に転がった。


「ッつー!?んのやろォー!!!」


すぐに体勢を整え元勇者は素早く起き上がる。エビルズも同様に起き上がり、口に含まれていた血をペッと吐き捨てた。


「……うぃー……人間の体は脆いんだ……もっと丁寧に扱ってくれよ……」


「じゃあさっさとその体から出やがれッ!

やっぱ依頼人の体を傷つけんのは最初からやりたくねェーことだからよォー……」


「ふん……そこはしょうがないのだ。

俺達悪魔は概念体……人間の体にとり憑かなければ物体に干渉することすらできないからな」


「へぇ……そうなのか…で済めばいいんだけどな。てめぇ……俺"達"ってのはどういうことだ?てめぇみてーな奴が何匹もいるっつーことか?」


「いいや、何匹もはいない。俺が知っているかぎりでは5…6程か。勿論、表にはあまり出てこないがな……」


エビルズ達『悪魔』という存在は、子を産み育てるという行為はしない。

家族もいなければ、友もいない。

遠い昔、何らかの理由で生まれた彼らは終わることない無限の時間を生きている。

彼らは自由だ。誰の指図も受けず、究極の自由を堪能している。

ただ、目的がなくてはつまらない。

無限の時間を生きる彼らの悩みはそれだった。

だから、だからこそ彼らはよく"遊ぶ"のだ。

時には人を惑わし、狂わし、絶望へとーー落とす。

それがーーそれこそが彼らの遊び。


「おっと……下らない話が長過ぎた……そろそろ…本気でやろう」


エビルズの体から黒い障気が溢れだす。


ーーなんつー邪悪な気だ……体を傷つける訳にゃいかねぇし……どうしたもんか……


元勇者はそんなことを考えながら、エビルズとの距離をとる。

さっきは思いきり殴っていたような気もするがーーもう過ぎたことはどうにもならない。大事なのはこれからなのだ。


「だがやっぱりよぉ~、その体じゃ戦いにくいぜ……いいのか?遊ぶならお互い本気じゃねーとつまんねーとは思わねーか」


ーーどうだ?のってくるか?


「関係ないな……この体がどうなろうと俺の知ったことではない。しかも……」


エビルズが元勇者から殴られたことによってできた頬の傷を撫でると、元から傷など無かったように綺麗に治ってしまった。


「俺とこの体の適応率は高い。再生もスムーズにできる……」


「そ、そりゃあ良かった。これで気兼ねなく戦えるぜ……」


などと元勇者は強がるが


ーーおいおい……再生だぁ…?こいつは驚くほどキツいぜ……


と、内心ではとても焦っていた。


そしてーー

暫くの沈黙の後先に動いたのはエビルズだった。

一瞬ーー元勇者がエビルズの動きを認識する前に、エビルズの拳が元勇者の腹にめり込んでいた。


「ゲフ……ッッ!?」


拳を受けた元勇者は血を吐きながら後ろに吹き飛び壁に激突した。


「ガァ…ッ!!!! グゥ……!」


「どうだぁ?痛いかァ?絶望したかァ~~!?所詮人間なんだよお前は!俺には勝てないんだ。絶対になぁ~」


エビルズは元勇者を嘲笑う。

倒れ伏した元勇者はーー


「……ヘッ!てめーだって今から絶望するんだぜ……!自分自身の間抜けさにな…ッ!」


と挑発し、義手の掌を地面に押し付け魔法を発動させる。

すると、元勇者からエビルズまでの一本道の地面が一瞬にして凍りついた。


「おお……足が……」


「どーだよこのヤローッ!こっからは俺のターンだぜ…ッッ!!」


元勇者はゆらりと立ち上がり、エビルズの元に歩いていく。


「ふん…足が動かないだけで随分余裕ぶってるじゃないか………だから滑稽なのだ。

お前達はーーーッ!」


エビルズが手刀を作り、元勇者に向かって一振りするとーー黒い刃のようなものが元勇者の頬を掠めた。


「ッ!?」


「ほらほら!まだまだまだだァッ!!」


次々に黒い刃が元勇者の体を切り裂いていく。


「……チッ!くそッ!このままだとやべぇな……!!!」


再び元勇者は掌を凍りついた地面に付け、今度は氷の壁を作り出した。


「どうした…!?お前のターンじゃあないのかぁ~!!」


元勇者への挑発を続けながら、エビルズは手刀を振り続ける。


元勇者はその攻撃を氷の壁で防ぎながら、

現状の改善を模索する。


ーーちくしょうどうする?あいつはそんな簡単に倒せるような奴じゃねぇ……久々に"アレ"やるしかねーのか……


「隠れてないで出てこいよォーー!!早く俺を殺して見せろォ!!!」


ーーだー!クソッ!!やってやらぁやってやるぜやりゃあいいんだろ!!!このまま隠れててもじり貧だしなぁ…ッ!!


「今出てってやるぜ…!お望み通りにな!」


元勇者は壁の後ろから飛び出し、エビルズに突進する。


「うおおおおォォォ!!!!!」


「なんだぁ?気でも狂ったのかぁ!?自ら切り刻まれにくるなんてなァッッ!!!」


刃が元勇者の体を次々と切り裂いていく。

しかし、元勇者は止まらない。

そして、


「<壊れゆく体> <崩壊する節制>

<燃ゆる黒き意志> <朽ちゆく明星>…!」


素早く詠唱を完了しーーーエビルズの腹部に義手の掌をつけーー


「<<<壊帝エントラ>>>ッッッ!!!!」


魔法を発動させた…ッッッ!!

すると、エビルズはよろめき、後ずさりをする。


「ぬぅぅぅ……何だ……?眩しいだけか…?」


「ふぅー……それだけな訳ねぇだろうが……」


元勇者の一言の後、エビルズの足元に巨大な魔方陣が現れる。


「なんだこれは……」


「ぶっ壊れちまいな……エビルズ」


そして魔方陣からエビルズを閉じ込めるよに光の結界が出現ーーーー


「う……グ……がァァァ!?……こ……れ……はァッ!?」


閉じ込められたエビルズは突如苦しみ始めた。


「"壊帝"……魔力の消費も激しいしチョー疲れるが……てめーみたいなヤツを倒すにゃうってつけの魔法だぜ……できればそのままくたばってくれると嬉いんだが……」


「がはァっっ!!UGYAAAAAAAッッ!!!!ぎざま!!!ギザマああああああああッッ!!!!」


エビルズは地に伏し、もがき、苦しむ。

しかし、その体は一切傷ついてはいない。

そう、この魔法"壊帝"は、膨大な魔力と体力を引き替えに"使用者の望んだモノ"を破壊する魔法なのだ。


「ふぅ……ふぅ……あぁ……魔力使いすぎた……眠い……」


そう言って、元勇者はその場に座り込む。

もうこれで勝負はついたと思われたが、

エビルズは密かに考えていた。


ーーGuuuuu……まずい……この魔法はいつ解ける……!?だが……まだ何かあるはずだ……何か……!


この状況を打開する方法をーー。


to be continuedッッ!



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義足と義腕の勇者様 @Posted

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