十幕 【天界一武闘会決勝「強敵」】


 ◆◆◆


「・・・」


 天界一てんかいいち武闘会ぶとうかい決勝けっしょう

 俺達、オーディンチームとロキを圧倒あっとうしたヌアザとの戦い。


 大会最後の試合しあいを前に、俺とありすは一応いちおう用意しましたと言わんばかりの粗末そまつ控室ひかえしつすわっていた。

 大会前に集中しゅうちゅうしているわけではない。


 ただ、これから戦う相手に勝つ算段さんだんが何も見えずうなだれているのだ。

 わかっていた。


 こうなる事はわかっていたのだ。

 実力じつりょくとぼしい俺達がそもそも決勝に来たと言うだけでおかしな話なのだ。


 これは俺達の実力じゃない。

 一戦目をつらくも勝利し、二戦目をまぐれ、三戦目を温情おんじょうで勝利してきた。


 一戦目のアポロン達だってありすの決死けっし覚悟かくごとたまたま作戦がうまくいっただけ。

 しかも完全な打倒だとうではなく、アポロンが降参こうさんしたから勝っただけ。


 あのまま試合を続ければ負けていたのは俺達の方だったかもしれない。

 ヘルメスの思惑おもわくどおりに先に進んだ今の状況じょうきょうに強くなろうと決心けっしんはした。


 単純たんじゅんくやしかったのだ。

 だが、これ以上自分たちの失態しったいをさらし、たして俺達の協力者なんてものはあらわれるのだろうか。


 いや、そもそも協力してもらう事は正解せいかいなのだろうか。

 それ以前にやる事がたくさんあるのでは―


「うだうだ考えてんじゃねぇよゴミが」


「・・・ロキ」


「考えがだだれだ。いい加減かげんかくすすべくらい身につけろ。後な、そのやる事のために協力者を探して守ってもらうんだろうが。てめえはなすがままで本質ほんしつを知らずにここに来たみてぇだな」


 ロキの言うとおり、俺にはそこまでの考えはなかった。

 ただ目の前の事、今はありすの事に精一杯せいいっぱいになってただけだ。


 この大会に参加する意味なんてちゃんと考えてなかったんだろう。

 そもそもここにいる時点じてんで俺達は自分の失態をさらけ出しに来ているに他ならないのだから。


「すまん。未熟みじゅくすぎた」


「だから貴様きさまはこれからまれて強くならなきゃいけないんだろうが。俺様を軽くほふってくれたやつだ。貴様らに万に一の勝ち目もねぇ。だがこの大会中はゼウスの力でどんな死に目でも死なねぇんだ。実際じっさいヌアザの攻撃で本来ほんらいなら俺は死んでる」


「そんな相手にどう戦えって言うんだ」


「だから勝てねぇんだよ。今の貴様らにはな。だからってこの試合をてるってのか?」


「・・・それは」


「目の前に勝てねぇ相手、自分らは死なねぇ。じゃあ何をするんだ貴様は」


悠真ゆうま。私達に必要なのは経験けいけんえるしかないわ」


「ありす・・・」


 今さっきまでうなだれていたように見えたありす。

 だがちがった。


 ありすは今この状況をどうかすか本気で考えていたんだ。

 まだまだ俺は人としても神としても未熟みじゅくだ。


「すまん。不甲斐ふがいなかったな。こんなとこで立ち止まっちゃあおに怒られちまう」


「えぇ。全力をくしましょう。今後の為に」


「あぁ」


 俺の決心がかたまった、いや、決意しなおしたその瞬間しゅんかん、待っていましたと光が俺とありすをつつむ。

 俺とありすはお互いを見つめ、うなずき合い、強敵きょうてきヌアザとの戦いにいどみに行くのであった。


 ◆◆◆


「・・・ちっ。世話せわのかかる」


「やっぱりロキってやさしいよね」


「ヘルか。どっから入ってきやがった」


「ずっとかげの中にいたよ」


「・・・いつから。まあいい。何度も言うがあいつらに肩入かたいれするのは俺様おれさま自身じしんの為だ」


「ロキってほんとツンデレ」


「どう思おうが勝手かってだが、のんびりしているのも今のうちだ」


「どういうこと?」


「あのオーディンを中心に事がこりはじめるという事だ。ガキのけんもあるしな」


「・・・それって悠真君にまた協力するからいそがしくなるって事?」


結果的けっかてきにはな。あのオーディンは今世こんぜ特異点とくいてんだ。その近くにいれば俺様の力となりえる」


「ふーん。まあいいことする分には私も協力するけど」


 いいことねぇ。

 あのオーディンにとってその結果がいい事とはかぎらねぇんだけどな。


 どのみち俺様の計画のためにひと役買ってもらわなければいけねぇ。

 その為の協力ならしまねぇさ。


「くくっ。今はな・・・」




6章 10幕【天界一武闘会決勝「強敵」】




 ◆◆◆


「ここは・・・」


観客席かんきゃくせきだった広い闘技場とうぎじょうね。最後の戦いはここってわけか」


 観客席から見ているのとその場に立ってみるのではまったくもって広さの感覚かんかくちがう。

 いや、試合用に拡張かくちょうされているのかもしれないが。


 おそらくこういうフィールドと言うわけではなく、本物の闘技場だろう。

 遠目とおめ縷々るる君丈きみたけも見える。


「さあ試合も大詰おおづめ。まわりの観客の事は一切気にせず戦うのじゃ。わしの防御ぼうぎょ魔法まほうがたんまりと展開てんかいしておるでな」


 ただただ大きくひびく声。

 おそらくは一際ひときわ大きい観客席に座っているゼウスのものだろう。


 ゼウスの名にふさわしい白の衣装いしょう立派りっぱひげ、そして大きなつえを持っている。

 今まで会った神の中でもっとも神らしい神。


 話したことはないから見た目だけの話しだが。

 全長何メートルくらいあるのだろうか。


悠真ゆうま、行くよ」


「あ、あぁ」


 ゼウスに気をとられているうちにいつの間にかあらわれたヌアザはすでに空中にいた。

 神と言うのは何かと空にかびたがるのだろうか。


「オーディン。貴様きさまがなぜここまでのぼってきたかはおおよそ見当けんとうがついている。ヘルメスの思惑おもわくなのだろう?」


「・・・だとしたらなんだ」


「そう敵意てきいけるな。私もその思惑にってやろうと言うのだ」


「どういう事だ。まさかわざと負けるとでも言うのか」


勘違かんちがいしてもらってはこまる。そちらではない。私は今となっては戦いにしか興味きょうみがない愚鈍ぐどんな神だ。貴様が今後私をたせる存在そんざいとなるようにここで稽古けいこをつけてやろうと言うだけの話し」


「・・・それはどうも」


 ヘルメスからあらかじめ聞いてはいた。

 ヌアザは戦いにしか興味がなく、実力はゼウスのうでとなる力がある。


 ロキにすら勝てるイメージがつかなかったのにそのロキを圧倒する相手だ。

 ヘルメスもゼウスの右腕と呼ばれているが、そのヘルメスが自分より力は上だと言う。


 絶対ぜったいに勝てない相手。

 しかもその相手が稽古をつけてやると言うのだ。


「さあ来るがいい。眷属けんぞくには手出てだしはさせぬ。全力を見せて見ろ」


「ぐっ・・・」


 威圧いあつ

 ただただ暴力的ぼうりょくてきな威圧。


 稽古をつけると言うのは教えるという事ではない。

 える力をつけろと言う意味なんだ。


「ありす・・・行くぞ!」


「えぇ」


「「兵装へいそう!」」


 俺とありすは兵装し、二人でヌアザにかかっていった。

 ヌアザの手には一振ひとふりのけん


 両側りょうがわからえず攻撃をし続ければ多少のすきは生まれるかもしれない。

 やりの長所は直接ちょくせつ攻撃こうげきけずらい所だ。


 神の防御があると言っても今のヌアザの攻撃に一発もえられる自信はない。

 ならば槍の長所を生かして―


想像そうぞう以上いじょうにぬるいな」


「なっ―」


 俺達が攻撃を仕掛しかけけようとした瞬間しゅんかん、ヌアザは剣を一振りした。

 その一振りで俺とありすはかるくふっとばされてしまう。


「私が今の貴様きさまらにとってかなわぬてきだという事はわかっているはずだ。そんな小手先こてさきの攻撃でどうにかなるきざしがあると思うのならそんな甘い考えはけ」


 甘い?

 確かに甘い。


 だが甘い考えでんだわけではない。

 相手の弱点じゃくてんさぐるための攻撃。


 それすらもさせてくれない相手。

 本当の戦いなら今の一瞬いっしゅんで俺達はやられていた。


「ありす、絆力はんりょく解放かいほうだ!」


「わかった!」


「「絆力解放!」」


 俺とありすはかすかに光をまとう。

 俺のグングニルは二本の小さな槍となる。


 最初に考えていた槍での長所は半減はんげんするが、そのぶん手数てかずが生まれるわけだ。

 だがこれでヌアザに近づけるとは思えない。


ほだしの力か。貴様はその力がどのような物か理解りかいしているか」


「・・・どういう事だ」


疑問ぎもんに思わぬのか。グングニルが二つに分かれ、小さくなっていることを」


 確かに槍の長所を捨てているグングニルがこの形で正しいわけがない。

 だが、グングニルはそもそも投擲用とうてきようの槍だ。


 投げるのが目的ならばみじかくても神の力で誘導ゆうどうできるのだから問題ないと思っていた。

 だが短い事に理由りゆうはあるのだろうか?


 ただ手数がえる。

 槍の長所を捨てるのであれば槍としての意味はなくなるのではないだろうか。


「初めて考えたような顔だな。だから貴様は甘い。そのほだしの力は眷属けんぞくとの相性あいしょう自身じしんの力を発揮はっきするための強化。すなわちその形は貴様がほっした姿なのだ」


「自分が欲した・・・?だからありすは速度そくどがあがっているだけなのか」


 ありすは槍を充分じゅうぶんあつかえるように訓練くんれんしている。

 だが俺は槍を使ったことなどない。


 戦うなら剣の方が幾分いくぶんあつかいやすそうだと感じた事はある。

 今まではオーディンの力で補正ほせいされて戦えたが、俺はそもそもこの武器に納得なっとくしていなかったんだ。


「気づき、そして私を楽しませろ」


「ありす、俺は後方こうほう支援しえんに回る」


「でもこれでも近づくのは至難しなんわざよ」


「今ヌアザが言ったことをためしてみるのさ。この形の本来の戦い方ってのをな」


「わかった、やってみるわ」


 ありすは自身の速度を何倍にも上げてヌアザに突っ込んでいった。

 俺の役割は後方支援と言うわけではない。


 だが、今の形の最善さいぜんをとるとしたならば後方からありすを支援した方が戦える。

 そのための二本の槍。


「ブルーランス!」


 絆力はんりょくの力もり、力任ちからまかせにブルーランスをはなつ。

 数百本の青い槍がありすとならんで飛んで行った。


 力の制御せいぎょができればブルーランスも無駄むだちをしなくてむが、今の所絆力の力を借りても百ほどのブルーランスしか制御できない。

 後はをさえぎる程度ていどのものだ。


「まだ甘い。だが少しは面白おもしろくなりそうだ。熱線フレア・レーザー陽炎かげろう


 大量のブルーランスを熱線で打ちぬいていく。

 だが、あやつれる物はそれをかわしてヌアザにかっていく、それを陽炎という魔法で分身ぶんしんし、実態じったいをわからなくさせた。


 だがそれを打ちぬくブルーランスは一本でいい。

 のこったものは本体だ。


「はああああ!」


 ありすは瞬時しゅんじに残ったヌアザを見つけ出し、素早すばやく槍で攻撃を開始かいしする。

 さっきのようにばされず攻撃を剣でけるヌアザ。


 見えない槍捌やりさばきと見えない剣捌けんさばき。

 そこに残ったブルーランスをちこむが、ヌアザはそれすらもけ、剣で迎撃げいげきする。


「剣にも何かしらの魔法を付与ふよしてるのか」


 ブルーランスはグングニルの簡易版かんいばん

 つまり防御魔法や結界けっかいたぐい破壊はかいもしくは貫通かんつうする。


 ロキ戦で見せた魔法をそらす魔法を使ってくるかとも思ったが、おそらくあれは結界の一種いっしゅなのだろう。

 だとしたらその魔法はブルーランスで貫通する。


 同様どうように光で魔法を破壊したように見えた魔法も結界と同種どうしゅなのだろう。

 となるとヌアザとの相性あいしょうはいい。


「ブルーランス!」


手数てかずめる。いい戦い方だ。だが私にもそれをふせすべくらいはある」


 ありすを強力な一撃いちげきで引きはがし、魔法をはなとうとするヌアザ。

 それをさせまいとむありすだったが、少しおそいだろう。


「だけど、それくらいは考えてる。いけ!グングニル!」


「ほう」


 ヌアザの後方こうほうには俺があらかじめばして誘導ゆうどうしておいたグングニルが配置はいちみだ。

 ありすを引きはがそうともグングニルはそれより前にヌアザをねらっていた。


 これで魔法をはなつ前にグングニルをけるしかない。

 その一瞬でブルーランスとありすの攻撃が当たれば多少のダメージにはなるはずだ。


新星爆発ノヴァ・エクスプロージョン


「なっ!」


 強力な爆発ばくはつと言う暴力ぼうりょくが全てをつつむ。

 グングニルはび、ブルーランスはかきされる。


 ありすも無事ぶじではないだろう。

 俺は直前に出していたブルーランスが攻撃を緩和かんわしたおかげでなんとかたおれずにいた。


「まさか新生爆発ノヴァ・エクスプロージョンを出さなければいけなくなるとはな。貴様きさま素質そしつはあるようだ」


「くそ、ありす・・・」


 ありすは地面に寝転ねころがっていた。

 負傷ふしょうは大したものではなさそうだが、おそらくゼウスの魔法でまもられただけだろう。


 守られたという事はありすは戦闘せんとう不能ふのう状態じょうたいになったという事だ。

 ありすがたおれた事によって絆力はんりょく解放かいほうも力をうしなった。


 俺一人でヌアザにどうかう。

 万事ばんじきゅうすだ。


「私ももっと楽しんでいたかったのだが、さすがの私でもグングニルがさってしまえばどうすることもできん。だが私もふだを一つ使ったのだ。これはそう何回も発動はつどうできるわざではない」


「だからまだ俺は頑張がんばれる。そう言いたいわけか」


「そのとおりだ、あらたなオーディン。貴様きさまの戦い方ではなく、オーディンとしての本来の戦い方にじゅんじて私を楽しませてくれ」


「ちっ。そこまで言うなら最後まで付き合ってもらうぜ。オーディンシステム起動きどう!」


 いまだに使い勝手のわからないオーディンシステム。

 だが少なからず今は俺のオーディンとしての力をあげてくれる。


 そう信じたい。

 自分の中に自分じゃないオーディンをこすのは少し恐怖きょうふもあるが、そんな事を言っていられないのも事実じじつだ。


「ロキの使っていたチップにているな」


「そのロキからもらったオーディンの力を引き上げるチップだ」


「それは楽しみだ」


 俺はヌアザにんでいくと、ヌアザはばそうと剣を一振ひとふりしてきた。

 だがそれは予測よそくみ。


 攻撃方法がわかっていればけられない事はない。

 一段と空気をみ、高くジャンプするように攻撃を避ける。


風力ふうりき!」


 風力で風の流れをあやつり、衝撃波しょうげきはで生み出された風を自身に上乗うわのせ、上方じょうほうからヌアザに切りかかる。

 易々やすやすと剣ではじかえされるが、風力で上乗せされたグングニルの攻撃は止まらない。


「つらぬけぇぇぇぇぇ!」


 槍をもどしてはき、時にはらい、ヌアザの剣戟けんげきけようとする。

 だがヌアザの攻撃は余裕よゆうがあっても油断ゆだんはない。


 全ての攻撃をいなし、反撃はんげきすきうかがっている。

 ヌアザの今までの試合、武器は武器、魔法は魔法でこたえていた。


 基本的には相手のスタイルに合わせて戦ってくる。

 それが唯一ゆいいつの油断だが、それをえてくる強さがある。


 そこを逆手さかてに取ったとして魔法を使わない理由はない。

 ヌアザは武器には武器、魔法には魔法でかならずこたえると言っているわけではないのだから。


 ならば攻撃のい目に魔法をぜて隙をさそうのが一番か。

 やはりブルーランスはヌアザには一番の攻撃こうげき手段しゅだんだ。


「ブルーランス!」


 一瞬のうちに判断はんだんし、ブルーランスを自身の周りから魔方陣まほうじんによって発動はつどう、ヌアザに標的ひょうてきを合わせる。

 ヌアザのすき


 言うなれば先攻せんこうはこちらなのだ。

 防御魔法を使えないとするならば必然的ひつぜんてき手段しゅだんる。


青き銃弾ブルーバレット


 水の銃弾じゅうだんでブルーランスを妨害ぼうがいされる。

 速さはヌアザの方が上手うわてだが、ブルーランスにしか使わないつもりだろう。


『ならばブルーランスを―』


「ブルーランス!」


「させぬ。紫電一閃しでんいっせん


 高速こうそく一撃いちげき

 グングニルめがけたその一撃は、見事にグングニルの切っ先に当たる。


 本来なら攻撃を吸収きゅうしゅうするグングニルだが、ヌアザの一撃は剣の攻撃と魔法の攻撃をそなえたもの。

 光の一閃いっせんによる長距離の剣戟けんげきなのだろう。


 それをグングニルは受け止めたが、剣での攻撃をふせぐことはない。

 俺は見事にその一撃に吹っ飛ばされることになる。


「我が剣、クラウ・ソラスの技をまたもや使わされるとはな。新星爆発ノヴァ・エクスプロージョンちがい、さほど威力いりょくはないが使い勝手の良い技だ。なかなか楽しめた。そろそろ幕引まくひきだ」


「くそ・・・どうあがいても受け止められるのか」


 だが今の一瞬、俺は何をしようとしたのか。

 ヌアザがピンチだと思って紫電一閃を出したとするなら何がピンチだったのだろう。


 直前に俺はブルーランスを・・・どうしようとした?

 ブルーランスを止められ、違う所からはなとうとした・・・?


「貴様には至高しこうの技で最後をむかえさせてやろう。なかなか見る機会きかいはない一撃だ。いつかこの技をえる時が来るのを楽しみにしているぞ」


「なんだ・・・あれ」


 俺は一旦いったん思考しこうえて目の前のヌアザに集中した。

 ヌアザの剣、クラウ・ソラスの上空には小さな太陽と呼べるような物が存在そんざいしている。


 だがオーディンシステムをかいしている今の俺には分かる。

 あれは大規模だいきぼな魔法ではない。


 小さな太陽はクラウ・ソラスの本来の姿と言える強力な術式じゅつしき、いわゆる魔法陣まほうじん

 太陽に見えるのは幾重いくえにもかさなった強力な魔方陣から放たれる光だ。


「くそ、ブルーランス全開ぜんかいやつを止めろ、グングニル!」


 膨大ぼうだいなブルーランス、そしてグングニルがヌアザの剣、クラウ・ソラスを目指めざす。

 だがヌアザの一撃はゆっくりとろされる。


 何者なにものにも邪魔じゃまをされない強力な一撃。

 これを止める事さえできれば勝機しょうきはあったのかもしれない。


 だがこの技を止める力を今の俺は知りえなかった。


かがやけ、クラウ・ソラス」


 膨大な光は何もかもを飲み込んでいく。

 全てをすその光に飲み込まれ、俺は一閃いっせんらう。


 られた後に地面に横たわり、かろうじて意識いしきがあったのはゼウスのおかげだろうか。

 肩から足にかけて本来真っ二つにされたであろう剣筋けんすじが残っている。


 ゼウスの防御魔法だろうがこわれかけているのがわかる。

 ビリビリと剣筋は稲妻いなづまこしているのがその証拠しょうこだ。


天界一てんかいいち武闘会ぶとうかい勝者しょうしゃ銀腕ぎんうでのヌアザ!ヌアザよ、やりすぎと言いたいところだが、わしも久しぶりにお主の本気の技を見た。オーディンへの敬意けいいとしてその一撃はだまっておこうかの」


 ゼウスの発言を聞いた後、俺の意識はうすれて行く。

 神と呼ばれる者の強さ、そして自分の不甲斐ふがいなさを実感じっかんし、天界一武闘会は終幕しゅうまくした。


 俺はまだ神と言う存在そんざいを知りえてない。

 すすべない神達に俺は並ぶことができるのだろうか。




 六章 【完結】




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ヴァルハラの戦神 零楓うらん @reihuuuran

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