九幕 【東・決勝戦「銀腕のヌアザ」】



 ◆◆◆




「フェンリル、今回は最初さいしょから本気ほんきで行くぞ」


「あ?なんだよロキ、びびってんのか?」


「てめえやっぱり聞いてなかったな」


「何を?」


「今回の相手は毎度まいど大会で優勝ゆうしょうしてる神だ。実力はそこらへん雑魚ざことはちがう」


「ロキがそんな事言うなんてめずらしいな」


「・・・さっきも言ったけどな」


「ま、僕とロキなら余裕よゆうでしょ」


「だといいんだけどな」




   6章 9幕【東・決勝戦「銀腕のヌアザ」】




貴様きさまからそのような評価ひょうかをもらっているとはな」


「うわ!いつの間に目の前に来たんだ!」


 銀腕ぎんうでのヌアザ。

 その異名いみょうどおり、右腕が銀製ぎんせい義手ぎしゅをつけた神。


 たたかう事、いや、強者きょうしゃにしか興味きょうみがなく、毎回大会に出て優勝をかっさらってく神。

 実力はゼウスの右腕にも左腕にもなれるはずだがヌアザは興味がないらしい。


 ただひたすらに強いものと戦いたい。

 昔は違ったのだろうが最近はそれしか頭にない脳筋のうきん野郎やろうだと聞いている。


「はっ!別に貴様の事を評価したわけじゃねぇ。俺様の眷属けんぞく簡単かんたんにやられたんじゃかっこがつかないから忠告ちゅうこくしてるだけだ」


「貴様はいつ見てもいさましい。その心意気こころいききらいじゃない」


「ロキ、あの神様の眷属って・・・」


「あぁ、よこにいる犬っころだ」


 ヌアザは眷属に人間をえらばない。

 理由は知らないが実力は神と同様どうようの眷属だ。


「なんか動物虐待ぎゃくたいみたいで気が引けるなぁ」


「そんな甘っちょろいもんじゃねぇ。あの犬っころは眷属じゃなくて神だと思って戦え。それにお前も犬みたいなもんだろ」


「ワンワン!」


「・・・」


 戦いの度に微妙びみょうにテンションが上がってやがるなこいつ。


「さあそろそろはじめよう。今世こんぜの貴様の実力、はからせてもらう」


「ビビってしょんべんたらすんじゃねぇぞ」


 俺様とフェンリルはいきおいよく飛び出したが、ヌアザの野郎やろうどもは動く気配けはいがない。

 それだけ余裕よゆうがあるって事だろうな。


い、レーヴァテイン!」


 俺様はレーヴァテインのチップを展開てんかいしてヌアザに切りかかった。

 ヌアザは魔法も剣も凄腕すごうでだが、基本的に相手のスタイルに合わせるふしがある。


 魔法がふうじられている今の俺様には剣の方ががあるだろうと考えた結果だ。

 フェンリルの方は最高速で突撃とつげきして眷属を空中で押していったまま奥で戦っているみたいだな。


 こいつとの一騎打いっきうちなら全力を出してもこいつが死ぬなんてことは万が一にもないだろ。

 全力のレーヴァテインのためりと行こうじゃねぇか。


炎雷えんらい切り!」


「中々の剣筋けんすじ。私の攻撃がとどかぬな」


「俺様の攻撃をいとも簡単に受けといて言うセリフじゃねぇなぁ!」


 高速の剣戟けんげき

 俺様の攻撃をしっかりと全てさばき切り、反撃はんげきしてくるが俺様も馬鹿ばかじゃねぇ。


 対策たいさくとして二重にじゅう防壁ぼうへきでヌアザの攻撃を受けきっている。

 本来の使い方じゃねぇが攻撃に反応する二重防壁の応用おうようした使い方だ。


 ぎゃくにそうでもしないとこいつの剣捌けんさばきにはついていけねぇからな。

 余裕を見せるのとあなどる事は同義どうぎじゃねぇ。


面白おもしろい。魔法を封じられていると聞き、どんな茶番ちゃばんの試合になるかとも思ったが、やはり貴様は面白い」


「そりゃ、どうも、ありがとよ!炎雷えんらい爆滅ばくめつ!」


水陣すいじん


 ほのおかみなりが水のたてにぶつかり、あたりには水蒸気すいじょうきにより爆発ばくはつこった。

 その瞬間しゅんかんに俺様は距離きょりをとる。


 同じタイミングでフェンリルも後退こうたいしてきた。

 戦い始めて数分しかっていないはずだが、フェンリルは若干じゃっかんボロボロになりかけている。


「ロキ、あのワンちゃんめっちゃ強い!」


「だからそう言ってんだろ!」


 何度言わせれば気がすむのか、少しキレ気味ぎみになってしまった。

 だがやはり苦戦くせんしているみたいだな。


「これで終わりではなかろう」


「うるせぇなぁ。最初っから本気じゃ貴様きさまもつまらんだろ」


「あまり手があるとも思えんが」


よろこべ、貴様のために色々と秘策ひさくってきてある」


「それは楽しみだ」


 うそやはったりではない。

 俺様は負けるのは大嫌だいきらいだ。


 たとえくだらない大会だとしても、ヘルメスが新オーディンを目立めだたせるためでも知らねぇ。

 目の前の敵はぶっつぶして俺様が一番になる。


 新オーディンはまだ雑魚ざこだが、ヌアザやヘルメスといずれあたるのは予想よそうみだ。

 SAえすえーチップも今回の為に新しく作ってきている。


「フェンリル、月のなみだを使え」


「おっけー!」


 フェンリルはふところから小さな丸い石を取り出した。

 それをちゅうに投げ、口にくわえるとガリッと言う音とともくだく。


「月の涙・・・獣型けものがたの神や眷属けんぞくを強化する薬か」


「うううう・・・うがあああああああ!」


 目が赤くまり、さらにおおかみっぽくなっていくフェンリル。

 月の涙は神の中では有名な強化薬だが、実際じっさいはただの興奮剤こうふんざいのようなもの。


 自分の力を最大限に引き出すための薬で後遺症こういしょうなども何もない。

 あえて言うなら使った後に疲労ひろうまるくらいだ。


 戦闘にれている者であれば自分の力を引き出す事は容易よういにできる。

 だからこれはあくまで補助薬ほじょやくぎない。


「があああああああああ!」


 一直線にヌアザの眷属にぱしっていくフェンリル。

 眷属の犬は実力は確かに強いが攻撃魔法などを使ってくるわけではない。


 下手へた小細工こざいくよりも力押しするしかないだろう。

 さて、俺様もかくだまを出すとするか。


「次は俺様の番だ。SAチップ発動【技脳ぎのう解放かいほう】」


「・・・何もこったように見えぬが」


「こっからだ」


 俺様はレーヴァテインをチップに戻し、攻撃の準備じゅんびへとうつった。

 三つまでしかチップが発動できないのがいたところだが、とりあえずは工夫くふう次第しだいってやつだ。


「いくぜ。超加速炎弾ファイアーボール!」


「次は魔法か。熱線フレア・レーザー


 俺様の周りにはいくつもの魔方陣まほうじん展開てんかいされ、そこからほのおたまがヌアザめがけて飛んで行った。

 それをヌアザは同じく多数の魔法陣を展開してレーザーでとしていく。


「まだいくぜ。飛翔水流ウォータードラゴン!」


詠唱えいしょうしでその魔法をはなつか。光線龍レイ・ドラゴン


 俺様の水でできたりゅうにたいしてヌアザは光線の龍を撃ってきた。

 熱線の威力いりょくをあげた単一たんいつ魔法まほうか。


 それにしても俺様の攻撃に合わせて撃ってきている所を見るととりあえず様子見ようすみってことだろうな。

 なら今のうちに手数でめる。


貴様きさまも詠唱してねぇだろうが。森羅しんら万象ばんしょう鎌鼬かまいたち!」


陽炎かげろう


 多数のかまいたちを蜃気楼しんきろうによる分身ぶんしんでかわされる。

 ヌアザは風魔法には弱いとふんだが確かにけりゃ変わらねぇか。


「なら広範囲こうはんい魔法だ。怒りの雷鳴サンダークラッシュ!」


 いかづち広範囲こうはんい防御ぼうぎょ破壊はかい魔法まほうだ。

 この魔法は防御破壊と共に多少の捕縛ほばく効果こうかがある。

 これなら避けることも防御もできないだろ。

 

屈折リフレクション


「な・・・」


 魔法で魔法をげやがった!

 リフレクション、光の高等こうとう魔法。


 ヌアザはおもに炎、光、水の魔法を得意としている。

 使えないとたかをくくったわけじゃねぇが、高等魔法を詠唱無しでここまで完璧かんぺきに使われるとはな。


 さすがゼウスの腕候補うでこうほばれるだけある。

 だがあの魔法はむずかしい魔法のわり威力いりょくの高い魔法にはかないはずだ。


「ちっ。次はこれでどうだ。合体魔法【水流鎌鼬アクアスラッシュ】」


 一瞬いっしゅん飛翔ひしょうのチップを無効化むこうかし、飛翔水流と鎌鼬を同時どうじ発動はつどうする。

 できあがるのは威力いりょくの上がった水の鎌鼬だ。


 これならリフレクションではかえせない。

 しかも飛翔水流は操作系そうさけいの魔法だ。


 けるだけではきりがないはず。

 さあ、どうでる。


「さっき発動した技脳ぎのう解放かいほうとやらは魔法を補助ほじょする魔法のようだな。だがまだよわい。日光サン・レイズ


 ヌアザに次々と向かっていく水の鎌鼬を広範囲の熱光線ねつこうせんはらわれた。

 だが、サンレイズの光と、破壊はかいされ爆発ばくはつした鎌鼬かまいたち一瞬いっしゅん視界しかいは見えなくなる。


「レーヴァテイン!ちょう炎雷えんらいり!」


 俺様にもヌアザの姿は見えないが、けむりごと焼き払えば不意打ふいうちにはなるはずだ。

 レーヴァテインの超炎雷切りは広範囲こうはんい高威力こういりょくわざ

 避けられさえしなければダメージはかならずあるはず。


「いいさくだったが失敗しっぱいだったな。この剣、クラウ・ソラスは炎系ほのおけい光系ひかりけいの魔法をめ無効化する」


「・・・あの一瞬に剣で防御ぼうぎょしたって言うのか」


「貴様が剣を抜けば私も剣を抜こう」


「ちっ。あくまでこっちのスタイルに合わせてボコる気かよ」


 これじゃらちかねぇ。

 魔法の手数にこっちは限度げんどがある。


 技能解放はSAえすえーチップの魔法を効率こうりつよく瞬時しゅんじに発動させるための思考しこう加速かそく魔法まほうにすぎねぇ。

 だがこれを発動してなければ合体魔法はSAチップから出しただけじゃうまく発動しない。


 二種類の魔法と、瞬時に入れ替えてレーヴァテインで攻撃するくらいしか手がねぇってのに。

 せめてフェンリルが眷属をたおしてくれりゃいいが・・・きびしいだろうな。


「あんまり派手はでなことするとヘルメスやゼウスにまた言われるからあんまり使いたくは無かったがしょうがねぇ。てんよ、俺様に力をせ。数多あまたかみなりよ、収束しゅうそくてき穿うがて【あま御霊みたま雷神らいじん招来しょうらい】」


「ほう、ヘルメスがよく使う奥義おうぎか。これほどの大型魔法を短縮たんしゅく詠唱えいしょうするとは」


余裕よゆうぶっこいてんじゃねぇ!」


「私をまもれ、炎陣えんじん光陣こうじん


 空からなくる雷を、炎と光のかべで守り、らしていく。

 だがそれで俺の攻撃は終わりじゃない。


超高速炎弾ファイアーボール森羅しんら万象ばんしょう鎌鼬かまいたち!」


中々なかなか面白おもしろい」


 炎弾えんだんと鎌鼬を防御ぼうぎょ魔法で守り、時に剣で切り落とす。

 その中に俺様は一直線にんでいく。


「合体魔法【超加熱電撃ブレイズライトニング】。来い!レーヴァテイン!」


 炎をびた電撃でんげき、言わば炎雷えんらいりの魔法バージョン、と言った所のブレイズライトニング。

 さらにそこに剣戟けんげきをくわえる。


 上からは強力な雷、多方向たほうこうからの炎弾と鎌鼬、前方からの炎雷と剣。

 これだけ特盛とくもりにすりゃさすがのヌアザも無傷むきずではいれないはずだ。


熱線フレア・レーザー


「ちっ、器用きようなもんだ」


 炎雷を熱線でとしつつ剣の攻撃を易々やすやすけてくる。

 戦い馬鹿ばかとか言うレベルじゃねぇ。


「貴様も器用ではないか。これほどの魔法を展開して操作そうさするなどみの精神力せいしんりょくではない。だが魔法の展開に限度げんどがありそうだ。これを私がふせればもう手はなさそうだな」


「そ、れは!どうだろうな!」


 剣戟の合間あいま余裕よゆうで話している所を見るとこいつの実力はまだそこがあるのだろう。

 だがここで押し切ってしまえば問題はない。


「うおおおおお!」


「さて、そろそろ頃合ころあいか」


 展開した魔法もごくわずかとなった瞬間しゅんかん轟音ごうおんともに地上に土煙つちけむりが上がる。

 おそらくはフェンリルがやられた音だろう。


「ちっ!クソ野郎やろうが!」


終幕しゅうまくだ」


「がっはっ・・・まだ―」


新星爆発ノヴァ・エクスプロージョン


「なっ―」


 爆音ばくおん

 名前の通り星の爆発と同じレベルの超爆発ちょうばくはつ


 ヌアザ、いや、ヌアザの神器じんきの剣、クラウ・ソラスの奥義だ。

 俺様のレーヴァテイン、炎雷えんらい爆滅ばくめつ超強化版ちょうきょうかばん


 威力いりょくだけに多発はできないはずだが、けることができなければほぼ一撃いちげき必殺ひっさつわざ

 俺様はえぐり取られた地面にもれるようによこたわっていた。


 ここが仮想かそう結界けっかいの星でなければ星ごと爆発していただろう。

 ゼウスの力でかされたようなものだ。


WINNERウィナー!ヌアザ!』

 

 遠くで勝者しょうしゃげる声が聞こえる。

 俺様達は無残むざん完敗かんぱいしたのだった。




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