八幕 【西・決勝「再戦」】



「ついにここまで来ましたね」


「おかげさまでな」


 向える西決勝戦。

 俺達の相手は強敵きょうてきヘルメスとその眷属けんぞく千里せんりだ。


 ヘルメス達の二つの試合を見ても圧倒的あっとうてきな強さをほこっているのがよくわかる。

 そして俺とありすにはヘルメス達にまわされた恐怖きょうふもあるのだ。


 だが、俺達の力がどこまで通用するかわからなくても戦わなくてはならない。

 そして先へ進むんだ。


悠真ゆうま、大丈夫?」


「ありすこそあせかいてるじゃねぇか」


「こ、これはただ熱いだけよ」


「今回のフィールドは砂漠さばくでも密林みつりんでもないぞ?」


「それでも熱いのよ」


茶番ちゃばんはそこら辺でいいかしら。そろそろはじめましょう」


 千里にめられ、俺達に一層いっそう緊張感きんちょうかんす。

 ヘルメスは後方こうほう支援しえんで来るはずだ。


 まずはいかに千里を倒すか・・・




   6章 8幕【西・決勝戦「再戦」】




「はぁ・・・先が思いやられるわね。ヘルメス様、私達ではあの二人と戦力差せんりょくさがありすぎます。ここはとりあえず、いつだかの再戦として私一人にまかせてもらってもかまいませんか?」


「そうですねぇ。ではかる腕試うでだめしといきましょうかねぇ」


「ありがとうございます。部分ぶぶん兵装へいそう奥義おうぎ夜叉やしゃ分裂ぶんれつ】」


 千里の技の一つ、夜叉分裂。

 大会中も見ていたが、やはりこの技の発動中は動くことはできない。


 おそらく技を邪魔じゃまされないため仕掛しかけがあるのだろう。

 ヘルメスはとりあえず手を出してこないつもりなら、一対一のガチ勝負になるわけだ。


「「さあ、始めましょう」」


 同じ声で同じ言葉を寸分すんぶんたがわずはっする光景こうけいにはやはり畏怖いふを感じる。

 だが前の時とは違う。


「いくぞ!」


「えぇ!」


 二人の千里、俺とありす、全員がいきおいよく前に進み出て戦いは始まった。

 分断ぶんだんされている状況じょうきょうは同じだが、前より距離きょりは近い。


 これならばすきをついて片方ずつ倒す事も可能だろう。

 だが、片方をたおした所でまた分裂される可能性かのうせいはある。


「ブルーランス!」


 俺は千里に逃げ場をうしなうようにブルーランスを展開てんかいする。

 いくら千里と言えどもブルーランスをけながら俺の攻撃を回避かいひするのは一苦労ひとくろうだろう。


「見え見えの魂胆こんたんね。あなたはいつも甘すぎる」


「なっ」


 千里は俺の攻撃に同様どうよう一つ見せずに全てをさばききってしまった。

 それどころか隙を突かれて俺に一撃を与えてくる。


「くっ・・・ブルーランス!風力ふうりき!」


 次はブルーランスと風力を合わせて速さを合わせて攻撃にうつる。

 だがそれも意味はなく、グングニルは空を切るばかり。


「あなた達に特訓とっくんをつけたのが誰か忘れたのかしら?あなたの行動や攻撃方法などは全てわかっているのよ。そんな見えいた手よりも奥の手を出した方がまだ戦えるんじゃないかしら」


「くそ、オーディンシステム起動きどう!」


 俺の体にインストールされたオーディンシステムが起動する。

 まだまだ使いどころがわからないが、オーディンの本来の力を発揮はっきするための物とロキは言っていた。


 これで千里の弱点なりがわかってくれればいいのだが。

 とにかく、前回のように内なる力の声を聞けば何かがわかるかもしれない。


「・・・変化はなしか」


「ロキがくれたSAえすえーチップね。私が見るかぎり、それの根本的こんぽんてきな使い方を間違まちがっていると思うわ」


「根本的な使い方・・・?」


「と言っても今のあなたにはわからないでしょうけど。さ、次は私の方から行かせてもらうわ」


 そう言って千里は素早すばやくこちらに近づいてきた。

 千里の得意の足技が俺にせまる。


 俺はそれをなんとかグングニルでふせぐが、攻撃にてんずるひまがない。

 それほどまでに千里の足技は強力だった。


「風力!」


無駄むだよ」


「ぐっ!」


 風力で動きを変えようとしてもそれに応じて攻撃を変えてくる。

 千里が強いのはよくわかっていたがあまりにも実力が違いすぎる。


 ブルーランスも風力も全てはあちらの手の内だ。

 こちらの行動は全て読まれている。


 裏をかくどころか隙の一つもない。

 アレスみたいな無敵むてきっぷりは無いはずなのにどう頑張がんばっても勝てる未来が浮かばない。


 ここはやはり各個撃破するしかないだろう。

 俺は千里の攻撃をはじき、一旦いったんありすの方をうかがった。


 ありすも自慢じまんの素早さで攻撃するも全てを上手くやり過ごされているようだった。


「ありす!」


「おっけ!」


 一旦二人で合流した俺とありす。

 それを千里せんりめることはなかった。


「「はぁ・・・だから大会に出すのは早すぎると言ったんですよ。実力がとぼしすぎる」」


「まぁまぁ。この大会の目的はそこではありませんしねぇ」


 そう言って千里は二つの体を一つにもどしていった。

 ヘルメスは相変あいかわらず何もしてくる様子ようすはない。


「なんのつもりだ」


「わからないかしら。あなた達の意図いとんであげたのよ。どうせ二体一ならとか思ってるんでしょ。それなら望み通り二対一で相手してあげようって事よ」


「その余裕よゆう、へし折ってやるわよ。悠真ゆうまいくよ!」


「おう!絆力はんりょく解放かいほう!」


 俺とありすは一瞬いっしゅんの光ののち、俺の手には二つの短いグングニルを持つ。

 絆力解放時の方が二人のコンビネーションは息が合っているのは特訓の時に実証じっしょうみだ。


「はぁぁぁぁぁ!」


 いきおいよく前に出るありす。

 それに続いて俺もありすをフォローするように攻撃をしかける。


 ありすの方が速さは格段かくだんに速い為、ありすが主に攻撃を仕掛しかけけて俺がその隙をついて攻撃するのが絆力解放時の俺達の基本的な戦い方だ。


らえ!ブルーランス!」


 二人の攻撃だけでは力が足りないと判断はんだんし、100以上のブルーランスを全て千里に向けてはなつ。

 さすがに千里でもこの攻撃の数はけきれないはずだ。


「悪くはない。でもまだ甘いわ。ブレイズシュート!」


 攻撃が通る!そう思った瞬間。

 ありすの攻撃を強力なりで弾き、残ったブルーランスを炎をまとった足技で全てとしてしまった。


うそだろ・・・」


「悠真、もう一回!風力全開!」


 ありすは再び千里の元へ突撃とつげきしていく。

 風力を使って自身の素早さを上げ、相手の動きに抑制よくせいをかける。


「ブルーランス!全、開!」


 俺は現在出せる最大の300近くのブルーランスを千里に向けて放つ。

 細かく動かせるのは絆力解放状態で100近くだが、相手の動きをありすが釘付きぎづけにしてくれているおかげでほぼそのねらいは固定できると言っていい。


 ならばあやつるまでもなく千里に向けて発射すればいいだけだ。

 さらに追い打ちで俺も攻撃に加わる事にした。


「風力全開!」


 俺の風力も合わさって千里は一段とやりづらくなるはずだ。

 これで俺の攻撃も合わせれば手数はものすごい量となる。


 さすがの千里もこれを全ていなすのは無理のはず・・・。

 だが俺達の考え、いや、実力は足りていなかったのだと実感させられるのだった。


「ブレイズシュート!風技ふうぎ・ウィンドクロス!」


「これでも駄目なのか・・・」


 俺達の風力は千里の風魔法に相殺そうさつされ、ブルーランスと俺達の攻撃もブレイズシュートでかき消されてしまった。

 ブルーランスも俺のグングニルもあの炎を纏った蹴りには効かないらしい。


 それ自体はヘルメス達からも教えられていた事だった。

 グングニルやブルーランスは当てることが必須ひっす


 だが、武器や技による攻撃は相殺されてしまうのだ。

 その分の手数増やしのブルーランスだったが、それも千里には効かない。


 体力的なものはわからないが、パッと見では千里の使っている魔法は消耗しょうもうが低いだろう。

 だがこちらのブルーランスは現状げんじょう消耗のはげしい技だ。


 まだオーディンの力に馴染なじんでない俺が最大数で出せる回数は2回くらいだろう。

 となると消耗戦にも持ち込めない。


「悠真・・・」


「あぁ・・・俺達はまだまだ無力だ」


 本命のヘルメスにすらたどり着くことができない。

 試合で言うならバステトが唯一ゆいいつ好戦こうせんだっただろう。


 見ている限りの千里の本気と、ヘルメスに魔法まほうを出させていたくらいだ。

 これまでの戦いは運が良かった。


 ただそれだけの事なのだ。

 最初のアポロンとの試合も相手が油断ゆだんしてくれたおかげでなんとか勝てた。


 次のアレス戦にいたっては勝利とは呼べない結果だ。

 こんな状態じょうたいではそもそも俺達に強力しようと思ってくれるものがいるかすらもあやしい。


「これで終わり?余計よけいな事考えてないで全力をくしなさい。それ以外にあなた達ができる事なんてないのだから」


「くそ・・・」


 がむしゃらに戦っても意味がない。

 だからと言って考えても勝利の目が見えない。


 だがここで考えなしに突っ込むのはどう考えても愚策ぐさくだ。

 なにか・・・なにか手は・・・。


千里せんり、いじめるのはあまり感心しませんよぉ」


「・・・まあいいわ。あなた達が少しは成長したのはわかったし。ヘルメス様」


「えぇ。そろそろ頃合ころあいでしょう。ヘルメスチーム、降参こうさんします」


WINNERウィナー!オーディン!』


「は・・・?」


 にせ歓声かんせいつつまれ、俺達は勝者となった。

 だがこんなものは・・・。


「ふざけないで!馬鹿ばかにしているの!」


「ふざけてなんかないわ。どう頑張ってもあなた達じゃ私一人倒す事も出来ないもの。それはもうすでにわかっているでしょ」


「だからと言ってこんなのみとめられないわ!」


 激怒げきどするありす。

 だが千里の言う事はもっともだ。


 勝ち目は万に一つもない。

 相手に隙を見せることの無い二人に対して俺達の全力の攻撃は一つも通らなかった。


「落ち着いてください。私達の目的は勝ち上がる事ではないのですよぉ。あくまであなた方のお披露目ひろめが目的です。私達が参加したのは少しでもあなた方を上位にあげるための露払つゆばらいのためでもあるのですねぇ」


「どうせこの大会中はゼウスの力で殺されたりはしないわ。そしてあなた達に必要なのは経験けいけん。じゃあこの場で私達があなた達に勝って上に上がる理由ってあるのかしら」


「だからと言って、こんなの!」


「口をつつしみなさい。あなたのいきどおりなんて知った事ではないわ。目的を忘れて次の行動がとれない者ほどおろかな者はいないわよ。わかったらこの大会で少しでも経験をむことね」


 ヘルメスと千里はそうして光に包まれて行った。

 俺とありすも光に包まれて控室ひかえしつに飛ばされていく。


「ありす・・・俺達は未熟みじゅくだ」


「・・・」


「今はこの無力を忘れずに行こう」


「・・・えぇ。強くなりましょう。悠真ゆうま



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