6.
「なんか帰りたそうな感じだね?
そのように訊いてきたのは、いつのまにか間近に立っていた
彼女は明るい髪のサイドテールをくるっと揺らして、
「いーじゃない? もうここまで来ちゃったんだからさ、素直に協力しちゃってよ! ほらね、クラスのためにも、
そんなことを言う。
「い、いやでも僕は……」
烏目さんの爛々とした瞳に迫られ僕は後ずさる。
苦し紛れにちらと横目に見た
*
「ああその……、やっぱり僕にはみんなの気持ちなんて分からないし……、協力って言われても……」
「またまたー。ねっ、ほら、みんなも応援してるよ!」
僕の
「そうだな! 暮樫なら何とかしてくれるよな!」
「怪異のことで何とかしてくれる人なんて、他にいないでしょ!」
「頼りにしてるよ!」
「頑張って、暮樫君!」
呼びかけられた皆々、活発に即応する。
まるで定型句の練習のように、ポジティブな文句が飛び交った。
「いやいや、だから僕は……」
*
こういう集団参加を促す雰囲気は断固拒否したい。
しかし、四方を固められてしまっては抗うにも抗い難く、また自己のコミュニケーション能力の欠如がそれを助長する。帰りたい。
「もうちょっとだ、やってやろうぜ!」
「みんなの力を合わせれば、きっと出来るよ!」
僕の感情に反し、教室内の声援は過熱する。
何が出来るというのか。また僕のあずかり知らぬところで話が進んでいる。
*
「それにさ暮樫、共同幻想の力だけじゃあない」
そして、
「従来の催眠術――それは勿論あるが、今此処で発動しているのはさ、我々、
洞ノ木君は殊更に思い入れがあることを伺わせるような口振りで、特別な、という語句を強調して繰り返す。こちらはこちらで共感し難い。
「で、でもっ……」
困惑する僕をよそに、
「でも、だからといって――……催眠術を多少工夫したからといって、こんな大勢を制御するなんて……っ、けほ……っ」
苦しいのであれば、どうか必要以上の無理をしないでほしい。
「なるほど、ごもっともだね」
洞ノ木君が頷く。
いや、頷いている場合ではない。長々と会話を展開する前に、目の前の妹のことをもっと心配してはくれないだろうか……こんなにも、見るからに苦しそうであるというのに。
*
「学校の教室という同調圧力の働きやすい空間に共存せざるを得ない彼らは、半常態的に催眠術にかかりやすい状態にある」
「そ、それがどうしたというのよ……」
言鳥と洞ノ木君。
両者の間では、どうやら何か切羽詰まった問答が繰り広げられているらしかった。
が、会話内容の要点が不明なことに重ね、洞ノ木君の傍らにはニコニコとした表情の烏目さんと、落ち着かない様子で目を泳がせる須奧さんが並んでいるのが視界に入り、またその周りを応援団のようなクラスメイトたちが密集しており――状況を飲み込めず、漫然と眺めているしかない僕からすると、場の
*
「従来の催眠術、交霊術、そして長年の研究蓄積の成果に加えて――、今回は〝山の魔の力〟を加味させてもらったんだ」
洞ノ木君の相変わらず謎めいた説明に、しかし言鳥はぴくりと顔を引きつらせた。
「山の魔の力、ですって!?」
「ああ」
「それはあなた、もしかして……」
「ふむ、さすが察しがいいね」
言鳥と洞ノ木君とは何やらお互いの言葉を推察し合って話しているようだった。
「そうさ、その山の魔の力というのはさ――、暮樫一族由来のモノだ」
「私たちの……」
言鳥がごくり、と
「暮樫一族が代々擁する、偉大なる山の魔のエネルギー。それをちょいと拝借してね。いやあ、当地最大の超自然の力を従来技術と併せ、調整するのはそれなりに苦労したが、抜群の威力を発揮したね。はっはっはっ!」
「あァ、あなたたち、なんてことを……」
*
洞ノ木君の自信と高揚に満ちた話を、僕は全く理解できてはいなかった。
理解する余裕がなかった。
ただ隣で愕然としている言鳥に向けて、何と声をかければよいのか分からない自分を不甲斐なく思った。
「あとはそうさね、聞けば、暮樫一族の近くにいる人間は、ただそれだけで
そこまで語ると、洞ノ木君はぐるりと周囲のクラスメイトの面々を見渡す。
「――――この交霊会は完成した」
溜めが長い。
*
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