5.
姫カットの黒髪をなびかせ、一直線に保健室を闊歩してくる。
「どうしたんだい言鳥。具合が悪いのだったら保健の先生は今、席を空けているみたいで――」
「兄さん、また厄介な事に首を突っ込んでいるの」
僕の心配も聞かず、言鳥は一方的に疑惑を突きつけてくる。
「厄介な事って……ちょっと同じクラスの人の相談を受けていただけだよ」
「だ、か、ら。兄さんはそういうことにかかわらないでって、いつもいつも言っているじゃない」
「それはそうだけど――」
*
僕に怪異関係の事柄にかかわってほしくないというのは、かねてよりの妹の主張であった。僕が怪異に関する何事かに手を出そうとすると、毎回おおよそにおいて警告を差し挟んでくる。
しかし、だからといって怪異に関係しているすべてが対象というわけではないようで、そこには何か妹なりの基準があるようだった。
今回はその何かに引っかかったらしい。
*
「ええと。
そういえば、彼女にはまだ妹の紹介はしていなかった。
「ああうん。須奧さん、こっちは僕の妹の言鳥。ひとつ下の一年生で……ほら、言鳥もさ」
「………………暮樫言鳥です」
「あの私、暮樫君のクラスメイトの須奧
「……どうも」
須奧さんは友好的な態度を示すが、言鳥はつっけんどんに顔をそらした。
人見知り対応はデフォルトである。
*
「――って、そうでなくて!」
言鳥は声を上げる。
「教室にしかいられないはずのあなたが、なんでここにいるのですか!」
突然そう叫んで、天井の辺りをキッとねめつけた。
「今週から出られるようになった……って、高校デビューはそういう意味じゃない! 私はその理由を訊いて……ああもうっ、だから誤魔化さないでください!」
*
言鳥は空中に話しかけていた。
保健室の床と天井のちょうど中間の近辺、人の頭より少し上くらいの高さに向かって盛んに言葉をぶつけている。
……何をしているのかはよく分からないが、とりあえず保健室では静かにするべきかと思う。
*
「えっと、言鳥ちゃん、落ち着いて?
須奧さんが言鳥をなだめに入ってくれる。
「暮樫君、えーとこれはね……」
わたわたと狼狽する須奧さん。
彼女は僕にも対処を求めている様子だった。
「ああ。ごめんね須奧さん、僕の妹が」
「あのその、なんて説明したらいいか……って、え?」
「言鳥は小さい頃から何もないところに話しかける癖みたいのがあってさ。まあ、いつものことだから気にしないであげてよ」
「えっ。えっ。……暮樫君は、それでいいの?」
そう言われても、僕にとってはごく見慣れた光景である。
そこに良いも悪いもない。
言鳥が何を以て斯くの如き行動に至っているのかは皆目不明であるが、それが彼女の在り方だというのであれば、僕は受け入れる他にない。
*
「暮樫君がそう言うのなら……え、なあに梨々ちゃん。え? カメラ?」
その台詞とともに、須奧さんの視線が僕の片手に注がれる。
「ああ、このカメラ。そうだった」
相談解決の手がかりをつかむべく須奧さんと心霊写真を撮る――その目的を託されて、僕はここに来ていたのだった。危く忘れるところであった。
*
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