5.
その声音にも既視感があると思えば……、それは昨日、
「おはよう
はきはきと挨拶してきた彼は、名前をええと……そう、
平均よりやや上背のある、引き締まった体躯。清潔に整えられた短髪。
何よりそのくっきりした目鼻立ちと、キラキラした笑顔。
なんだか存在が目に眩しい。
「私もいるよっ」
と、その背後からこちらもまた陽気な感じの女子がぴょんと飛び出る。
茶褐色系の髪をサイドテールにして右肩に垂らした彼女は……
その二人が並んで、にこにこと何か期待に満ちた様子で僕を見る。
押しのけられた跡木君が視界の外で「誰だお前ら」と言ったのを聞いた気がした。
*
「
「どうだったどうだった?
どうだったかと言われてもな……どうなのだろう。
相談を受けるには受けたが、昨日の段階で何か進展があったとも思えない。
肝心の須奧さんとも、今朝はまだまともに話せてもいないのだ。
「須奧ならほら、もう来ているじゃないか」
「え?」
*
洞ノ木君が肩で示した先を見ると、須奧三埜奈が教室の前列で机に向かっていた。
僕が考え事をしているあいだに、いつのまにか登校していたらしい。
しかし他の女子の多くが友人らとの談笑に花を咲かせている中、ひとり縮こまるようにして席に着く彼女は、周囲から少し浮いて見えた。
……いや、決して一人でいるのが悪いというのではないし、僕が言えた義理ではないことは重々承知なのではあるが。それでもそこに座る須奧さんの後ろ姿は、どこか寂しげにも思えたのである。
*
「須奧はさ、病弱っていうのじゃないんだが……、少し不安定なところがあってさ」
僕の思考を読み取ったかのように洞ノ木君が言う。
彼によると、須奧さんは一年生のときから欠席がちで、今でも保健室登校が主なのだという。それゆえ友人も多くなく、クラスにもあまり馴染めていないのだと。
「それで三埜奈ちゃん、ひとりで悩んでる感じだったからね、ちょっとね、私たちが気づいて聞き出したんだけどね!」
烏目さんが補足する。
それは須奧さんの相談では出なかった事実であった。
彼女にはもう少しよく話を聞く必要があるかもしれない。
それに、クラスへの馴染めていなさなら僕も負けてはいないつもりだ。
意外なところで彼女に親近感を覚えた。
*
「それで、結局どうだったんだ、暮樫」
洞ノ木君が重ねて尋ねる。それはやや焦るような、
仲介した立場からの責任感みたいなものもあるのやもしれぬ。彼の気迫に圧されて、訊かれるままに僕は昨日図書室であったやり取りの一部始終を語った。
「――そうか、自分が幽霊だって……彼女、そんなふうに言っていたのか」
「うん。すぐに否定していたみたいだったけれど」
「三埜奈ちゃんらしいねっ!」
「そうだな、須奧らしい言い方だな!」
何か納得している洞ノ木君と烏目さん。
……なんだろうか。
*
「で。どうなんだい、暮樫」
洞ノ木君がずいと顔を寄せてくる。
距離が近い。
「どうって、何がだい」
「須奧の話を聞いてさ、暮樫自身はどう思った?」
「ううん、具体的なことは何も言えないのが正直な感想なんだけど……」
「そう言わずさ、今分かることだけでいいんだ、な!」
などと訊くものだから、躊躇しつつも僕は先ほど教室で考えていた自説――幽霊のお悩み相談ストーリーの王道パターンがどうのというあれだ――を、掻いつまんで述べた。それを聞いて洞ノ木君と烏目さんは、
「なるほど、感動系のシナリオだな……」
「どうかなどうかな、いけそう?」
「悪くないかもな」
「私はいいと思うよ!」
と何やら話し合っていたが、ある瞬間に洞ノ木君のほうが、
「よしっ、それでいこう!」
ぱんっと両手を打って宣言した。
本当になんなのだろうか。
*
「暮樫」
「ああ、うん」
「俺はさ、俺たちはさ、須奧には何としても頑張ってほしいと思っているんだ」
洞ノ木君は語気に熱を込める。
「須奧は不登校気味だったこともあって話下手でさ……。これからもあいつの話には意味の取りにくいことが出てくるかもしれないが……そのときはどうかいい感じに察してやってほしい」
それは難しい注文だ。
「須奧はたぶんさ、そのたびに何か言い訳っぽいことを言おうとするだろうけど、まあそこはあまり気にしないというか、深くは詮索しないでやってくれ、な」
それは得意だ。
「俺たちも可能な限りサポートする。だから暮樫も力になってくれないか」
「三埜奈ちゃん応援し隊結成、だね!」
机のまわりを二人に囲まれて、断ろうにもできる空気ではない。
「だから、どうかよろしく頼む」
そう言って差し出された手を、僕は黙って握った。
*
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