6.



 須奧すおうさんが相談に至った事情は何となく理解した。

 それでもなお気にかかるのは……、彼女の漏らしたあの一言である。


『――


 須奧さんが口下手だというのは分かる。

 しかし、言葉を選び間違えただけであのような台詞が出てくるものだろうか。


 そして何においても。


 あのときの須奧さんの真剣な眼差しを、僕は覚えている。彼女の目はとても嘘やごまかしを言っているようには見えなかった。妹に普段から散々に鈍感と責められている僕が言うのもおかしな話ではあるかもしれないが……。


 何かがひっかかって仕方がなかった。



                  *



「ははあ。やっぱり暮樫くれがし的には須奧の幽霊発言が気になる感じか」

「ああ、うん」


 洞ノ木どうのき君の問いに、僕は曖昧に答える。

 とは言え、それが彼女の相談の中でどの程度の重要性を持つかは分からない。

 あるいは本当に何の含意もなく、話慣れしていない須奧さんがたまたま言い間違えただけ――という可能性も大いにあるのだ。



                  *



「いや――、いいのじゃないか。疑わしいというのなら検証してみよう」


 洞ノ木君が言った。

 しかし、検証とは。


「え。だけど、僕の思い過ごしかもしれないし……」


 僕は戸惑いを隠さず伝える。

 しかし洞ノ木君は意に介するふうもなく、


「でも、暮樫はそこが気になるのだろう?」

「それはまあ……」

「なら、確かめてみればいいのさ」


 そう言って、にっと笑う。


                  *



 そして彼はやや思案して、


「そうさな。やりやすいのはまず……、だろうな」

「写真……?」

「そうさ。昔からオカルト検証の定番と言えば、心霊写真と相場が決まっている!」


 洞ノ木君の提案に、烏目からすめさんも「心霊写真!」と瞳を輝かせる。



                  *



「ううん、それで何か分かるかなあ……?」

「なんだ暮樫。先月の怪談騒動のときは、怪異を撮影した写真を暮樫が検分して解決に導いたって聞くじゃあないか」

「それは……」


 あったような気もする。


「今回も同じさ。須奧が彼女の言葉の通りに、写真に撮ってみるんだ」

「それを暮樫君が見て、真偽を判断すればいいってことだね」

「そういうことだな!」

「そういうことだね!」


 つとめて明るく強調する洞ノ木君と烏目さん。

 ……つくづくよく分からないテンションだ。



                  *




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