4.
そんなことを考えているうちに他の生徒たちがぽつぽつと登校してくる。
次第に増える人の気配、取り交わされる挨拶の声。
教室の壁を隔てて喧騒がさざめき立つ。
我が教室にも一人また一人とクラスメイトたちが入ってくる。
――が、不思議と謎の目玉模様に対して大きなリアクションを見せる生徒はなく、これといった疑いを持つ者も誰もいないようであった。各人机上のプリントを手に取って最初は不審の目を向けるのだが、ほどなくすっと意識を逸らし、おのおの自習や雑談に移っていく。
*
ふむ。やはり、あえて騒ぎ立てるようなことは何もなかったのだ。
クラスメイトたちの対応を見て、僕は自身のとった行動に確信を得る。
怪異とは、それを怪異と思う人がいてはじめて怪異となる。
つまり変事を感じ取っている人間がいない以上、これは日常的人為の範疇なのだ。
そのように解釈した。
*
そういえば。
と、僕はふと思い出す。
昨日、図書室で取りまとめていた怪異話のひとつ――、
『教室の最後列窓側隅の席は幽霊が座っているから空けておかなければならない』
その教室に憑く幽霊生徒の噂がこのクラスの話であると、
……あれ、それって僕の後ろの席ではないか。
*
どうして今まで何も気づかなかったのか。
布津が当たり前のように知っていたということはつまり、僕以外のクラスメイトには言わずと知れた話であったということだろうか……? 残念なことに、クラスの会話にろくに参加したことのない僕には判断できない。
妹以外の他者と交流を持ってこなかった弊害がこんなところで表出しようとは。
まったく不覚であると言わざるを得ない。
*
そこで折よく、隣の席の男子が登校してきた。僕は何となしを装い、彼に後ろの席の子のことを知っているかと尋ねかける。
すると彼は訝しみながらも、
「何言ってるんだ、そこは
と答え、わざわざ座席表まで示して教えてくれた。見れば四角い線で囲われた表の中には、「
――なんだ、ちゃんと在籍者があるのではないか。
そして表によれば、教えてくれた彼は「
ありがとう跡木君。これを機に、今後はクラスメイトの顔と名前を覚えておくよう善処したい(なるべく)。
*
兎にも角にも。
教室の最後列窓側隅の席が禁忌の空席ではないことが判明したわけである。
しかし新学期が始まって
はて。
もののついでと言ってしまうのもなんではあるが、その賀井藤さんというのはどういう人物かと跡木君に訊こうとしたのだが――、
「――暮樫ッ!」
……なんだか酷く既視感のある流れだ。
*
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