3.
いま少し、
彼女は自分が「幽霊」だと言った。
また、お化けや心霊関係の相談がある、とも。
二人のクラスメイト――
話の真偽は分からずとも、彼女の誠意は本物であった。
では。
まず、ここまでの情報から僕が考えられることは何か。
*
幽霊からのお悩み相談、というのはフィクションのある種の定型である。
ひょんなことがきっかけで名も知らぬ幽霊の相談を受ける → 幽霊はこの世に何かしらの未練があるらしい → 紆余曲折あって未練を解消し成仏する……。
と、大づかみだがそういうストーリーが想定できる。
そしてそういった話では、相談者の幽霊は往々にして生前の記憶を失っている場合が多い。もちろんケースバイケースだが、わずかな手がかりを元に幽霊の未練の正体を探っていき、やがて記憶を取り戻した幽霊が行き着く最終地点が物語のエンディングとなる。そういう型がある。いわゆる王道パターンだ。
*
あるいはやや変調として「故人と思われていた幽霊が実は生霊であった」というのも考えられよう。本人の肉体は別にどこかの病院なりのベッドで眠りについており、すべての真相が解明された末に目を覚ます――そんな優しい終わり方だ。
*
しかしまた須奧さんは、それが「友達の話」だとも言った。
ある相手に伝えたい思いがあるが、言えずに困っている。
ある相手、というのはクラスメイトの男子でありかつ生きた人間である。
そう語った。
それは怪異というよりも恋愛的な関心に重点があるように思われた。
そうなってくると分野としては僕の範囲外だが……。
*
また次に押さえておくべきこととして、須奧さんは先の〝学校の怪談〟騒動の日に僕が助けた生徒であるらしいとは
なんでも「こっくりさん」に失敗して気を失っていたと。
だが、当の須奧さん本人はそのことを覚えてはいなかった。
*
実を言えば、「こっくりさん」と聞いたときには、何か僕にも介入し得る話の糸口があるだろうかとも期待したのだ。
以下は昨日、須奧さんが去った後で布津にも話したことなのだが――、
僕が愚考するに、現代のこっくりさんの話で重要なのは、それが本当に霊を呼んでいるかとか、占って出たメッセージに信憑性があるかどうかとかでは恐らく、ない。
どういう意味かと問う布津に、僕は応じて説明した。
「――言うでしょ、こっくりさんの途中で離脱すると祟りがあるとか、こっくりさんを怒らせたがためにその後に精神に異常を来たしただとかさ」
「それは確かによく言うな」
「だいたいの話にそういうオチがつくわけ。神様やら動物の低級霊やら……とにかく得体の知れないものを呼んだことで恐ろしい何かが起こるっていうね」
「それがどうしたんだ」
「うん。言うなれば、『怖いもの見たさ』。怪談としてのこっくりさんの本質っていうのはむしろそっちにあるのだと思うんだよ」
「そういうもんかね……」
――というような話をしたのだった。
そして上述のごとき意味で、須奧さんは話型的にはいわば【こっくりさんに失敗して心神を喪失した生徒】に当たるのである。
*
しかし、またここで問題が生じる。
彼女は自分が行っていたのは「こっくりさん」ではないと発言した。そればかりか「宇宙の意志」なるものと交信していたのだと。そしてそれがどうも彼女の相談内容とも密接に関係しているらしいことも
宇宙の意志……?
未知の単語の登場により、あえなく僕の思考は途絶されるのであった。
*
そもそもの前提として、僕が普段やっているのはあくまで怪異譚の蒐集だ。
オカルト的な能力や現象そのものの観測ではないのである。
そこの点どうか誤解なきようにお願いしたい。
その手の相談は超常現象の研究機関か、超心理学の専門家とかを当たってほしい。
……まあ、そういう先が身近にないからこそ、僕を頼ってきたのだろうとは思うのだけれども。
*
果たしてこれは怪異相談なのか、恋愛相談なのか。
それとも別種の何かなのか。
須奧さんの話しぶりや会話の流れからなんとなく恋愛寄りの話のような雰囲気はするが……だとすると、なおのこと対処の仕様がない。
どうしたものか。
*
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