4.
「この話は確か……、明治だったか大正だったかの作家が郷里の話として伝奇小説に仕立ててもおりましたなぁ」
また、「ナアォ」と頭上の猫が返事をする。
「ああ……その小説は、僕もなにかで読んだ覚えがあります」
「ほほっ、さすが坊ちゃん」
だから坊ちゃんはいいかげんやめてほしいのだが。
「まあ、その皿屋敷の話に枝葉がつき、時代が変わるごとに更新され、本来のお話には関係のないうわさがさまざま加わっていった結果、このアパートは〝妖怪屋敷〟なんて呼ばれておるわけでございますけれども――、どちらかと言いますとここは、妖怪と人間、二つの世界を結ぶ境界のような位置にあるものと、私はそう自負しておりますな」
「二つの世界を結ぶ……?」
なんだか話の旗色が変わってきた。
再び、現実の曖昧さが増したようだ。
*
「私もこの業界長いのでね、それはいろいろあります。……坊っちゃんも
「はあ……」
「そもそもですね、私はシステム社のやり方にはつねづね賛同しかねるておるのですよアレは――その辺り、暮樫のお家は少々寛容すぎると言いますか、大雑把と言いますか……他人に関心を向けないのは家柄なのでしょうかねえ――ああ御存じない? いやしかしですな――」
*
不動産屋の語り口は次第に熱を帯びる。
いったい何の話をしているのだろう。
よく分からないが、実家を非難されている感じは何となく分かる。
――と、いよいよ話の胡乱さが勢いづいてきたと思ったその瞬間。
背後で、扉がガチャリと開く音がした。
*
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