2.いないいない妖怪屋敷
1.プロローグ
1.
わたくしは化け物と縁があると見えて、その後も化け物屋敷と言われる家に四度住んだが、この化け物屋敷第一号が、昼間はふしぎに明るく最も魅力的で、夕方からは妖気がただよい、本物の化け物屋敷らしいものに思われた。
(佐藤春夫『詩文半世紀』より)
*
今回は前日譚から始めよう――。
僕が引っ越してきたアパートは近所でも評判の妖怪屋敷だった。
いわく――、
不気味な声が聞こえる。
電気が突然点いたり消えたりする。
廊下で肩を叩かれたので振り向くと誰もいない。
家具と家具の隙間から視線を感じる。
地震も起きていないのに部屋だけがガタガタと揺れる。
蛇口をひねると血のように真っ赤な水が出る。
浴槽に大量の髪の毛が浮く。
寝ていると金縛りに遭う。
枕元に女が立つ。
深夜に子供が走る気配がする。
開かずの間がある。
あとはそうだな、住むだけで呪われやがて死に至る、なんていうのもあったかな。
ともかく、怪しい噂を挙げれば切りがなかった。
*
このアパートには何かがいる。
恐ろしい何かがある。
訪れたひとは必ずそのように言う。
程度の差こそあれ、その証言に例外はない。
だが、何よりも問題の核心は、住人である僕にそれらの怪現象がひとつも認識できないことだった――。
*
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます