2.いないいない妖怪屋敷

1.プロローグ

1.



 わたくしは化け物と縁があると見えて、その後も化け物屋敷と言われる家に四度住んだが、この化け物屋敷第一号が、昼間はふしぎに明るく最も魅力的で、夕方からは妖気がただよい、本物の化け物屋敷らしいものに思われた。


                       (佐藤春夫『詩文半世紀』より)



                  *



 今回は前日譚から始めよう――。


 僕が引っ越してきたアパートは近所でも評判の妖怪屋敷だった。


 いわく――、


 不気味な声が聞こえる。

 電気が突然点いたり消えたりする。

 廊下で肩を叩かれたので振り向くと誰もいない。

 家具と家具の隙間から視線を感じる。

 地震も起きていないのに部屋だけがガタガタと揺れる。

 蛇口をひねると血のように真っ赤な水が出る。

 浴槽に大量の髪の毛が浮く。

 寝ていると金縛りに遭う。

 枕元に女が立つ。

 深夜に子供が走る気配がする。

 開かずの間がある。


 あとはそうだな、住むだけで呪われやがて死に至る、なんていうのもあったかな。

 ともかく、怪しい噂を挙げれば切りがなかった。



                  *



 このアパートには何かがいる。

 恐ろしい何かがある。


 訪れたひとは必ずそのように言う。

 程度の差こそあれ、その証言に例外はない。


 だが、何よりも問題の核心は、住人である僕にそれらの怪現象が認識できないことだった――。



                  *



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