第2話 Normal

ここは


正常な私、正常じゃない世界?


正常じゃない私、正常な世界?



 眼下に広がる碁盤の目のような世界…


どこまでも続く同じ形で同じ色の家々…


世界全体が無機質でどこか透明で変化のない世界の情景に私は飽き飽きしていた。



 今日も同じ日々が続く…


生きること自体が定常業務のようにすら感じる。


独自性も有期性もないこの社会で人々はただ“生かされている”のだ


社会に、時間に、機械に、政府に、家族に、仲間に…etc 


きっと上げたらキリがない


虚像に縛り付けられ、惑わされ、騙され、搾取され


そうやって私たちはただ命というエネルギーをガソリンのように浪費し続けんだ


私たちは人間ニトロでしかないのである。



 鉄塔の下から眺める社会の光景はとても気持ちが悪い。


誰もが同じ服に身を包み、兵隊の如く、手足をそろえ、同じ方向に歩いていく。


まるで山〇ン工場のベルトコンベヤーに載せられたクリスマスケーキが如

く唯々流されていくのだ。


そんな平等で、平均的で、一般的で、規範的な社会を良いものだという。


どこを切っても同じ顔が出てくるまるで金太郎飴のような社会をだ。


“君は金太郎飴のAだよ”と言われて喜ぶ世界


不健全で、不自然としか到底思えない


でも、それでも社会は正常なように動き続ける。


私たちから搾取し続けながら。


私たちには自由に太ることも、寝ることも、好きな子と付き合うことも、


何もかも欲望を満たすことさえ奪われて蹂躙され踏みにじられている。



 AIがシンギュラリティを迎えたのは私たちが思うほどずっと早かったという。


私の祖父の時にはすでに社会はAIによって統治され、より効率的な社会に置き換わった。


時は流れ私たちはAIの奴隷となった。


正確には民意の奴隷となった。


AIは民意にマジョリティに応え社会を構成した。


だから、均一的な社会が生まれたんだ。



しかし近年自殺者が増加していることを殆どの金太郎飴達は知らない。


きっと私の目の前にいる男女の集団もそうなのだろう


旧電波塔の上から自らに唯一残された自由を手にするために旅立つのだ


自分たちが今まで抑圧されて来た物を最後の晩餐として謳歌している。


ご飯や、酒や、たばこだけではない。SEXも、殺人も、略奪も、情欲も、

何もかもを得るために彼らはいとも容易く自然状態に戻るんだ。


そして、最後は自然状態から自然に戻る、いや返る。


私の知らない誰かが飛んで、それから一斉に残りも飛んで時速100㎞を超えたころに、地面に蠢く金太郎飴達にぶつかって自然に返る。


下でその光景を目にした金太郎飴達はもうすぐ処分されるだろう。


巻き添えを喰らった誰かのことは誰も気にしない。


だってそれでも健全に、何の問題もなく、1ミリの歪みもなく社会は回るから。


ひどい言いようだけれど、そんなものだ。


臭い物に蓋をする。


そうやってこの社会は成り立っているのだから。


この世界は規律的で、模倣的であるが故に正常すぎるがあまり、きっとそ

れがかえって不自然で、偽物なのだろう。


正常でありすぎることが正常ではない。


矛盾や摩擦を減らし過ぎるが故に歪みが生じる世界そんな世界に私は生きている。


 

もう一度問うことにしよう


正常な私、正常じゃない世界?


正常じゃない私、正常な世界?


まあどちらでもいいか。


そして私の体は虚空に浮かび重力加速度によって速度を上げ時速100㎞に近づいていくのだ。


ベチャリ…


不愉快な肉の潰れる音と共に世界は終わった。



‐‐‐‐‐GAME OVER ‐‐‐‐‐

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狂気な日常 御憑 狐華 @mitukikoharu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ