もぎ取られた夏
「——コニー・アシュレーさんの旦那さんですか」
「——でした、の方が正確かもしれないですがね」
僕は頷いた。
コンスタンス・アシュレー。現在、北米、オーストラリア、ニュージーランド、南アを含む英語圏のほぼすべての国でもっともよく使われている自動音声「コニー」の基礎となる音声データベースに声を提供した女性。
彼女の死は、確かに報道された。ほんの小さく新聞の片隅に。
その時初めて僕は彼女の顔を知った。
栗色の髪をした、少しはにかんだような笑顔の若い女性だった。音声提供時の写真とキャプションがついていた。
「お悔やみを申し上げます。——交通事故でしたね」
「まあ、もう2年も前のことです」
男性は肩をすくめた。
「ただ——」
——コーヒーのおかわりはいかがですか。
自動音声が男性の話に割って入った。
「まだいいな、ありがとう、コニー」
男性は静かに自動音声に応える。
「これがね。——気が狂いそうになる」
あれほどわくわくした最初の妊娠が流産に終わり——実は妊娠初期の流産率というのは非常に高いものなのだそうだ——私たちの生活は大人二人を中心とした静かなものへ変わった。
徐々に「話す家電」が増える中、私たちは頑なに話さない家電を選んでいたが、それを除けば、ごく普通の夫婦らしい生活だったと思う。別に原理原則があって自動音声を自宅に入れなかったのではない。単純に、同じ声があまりにもたくさん一つの家の中にあると混乱する、というだけの話だ。
コンスタンスはセカンダリー・スクールのスペイン語教師として日々出勤し——時折生徒に「先生の声って本当にコニーの声なんですね」と驚かれてはいたが——充実した日々を過ごしていたようだった。私は友人の弁護士事務所に勤めていた。
彼女の「声」は日々相当の収入を私たちの合同口座にもたらしていたが、コンスタンスはそのほとんどを寄付に回していたのではないかと思う。私たちは若くてお金のない一時期、持っていたものの一つを売ったけれど、それで必要以上の利益を得る必要はない、とコンスタンスは口癖のように言っていた。むしろ、金銭的な理由で教育を受けられない人が減るように、お金をそちらに回しましょう? いいかしら? あなた?
是も非もなかった。そもそも彼女の声だ。
本当に、穏やかな日々だった——コンスタンスが、突然老人の車にはねられるまでは。90に近い男性だった。すでに運転能力はおそらくなかったのだろうと思う。
全く唐突に私は自分が寡夫になったことを知った。
そして、それから数日後、私は彼女があの、若かった夏の日、交わした契約書の内容を、確認する必要に迫られることになる。
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