第五十九話 景時と透馬の活躍劇
柚子が、孤軍奮闘している頃、九十九達は伯禮塔にたどり着いていた。
伯禮塔は、華押街からすぐ近くの場所にあった。
まさか、こんな近くを拠点としているとは思ってもみなかったようで、朧達は、内心、驚いていた。
「ここに、兄さんがいるんだよね?」
「だと思うがな」
「にしても……この塔、しょぼっ!」
九十九達の目の前には、引くほど、錆びた背の低い塔であった。
壁はあちこち剥がれ落ち、屋根もボロボロ、今にも崩れるのではないかと思うほど、まさにおんぼろ状態であった。
本当に、ここが妖の拠点なのかと疑ってしまうほどに……。
「人間が建てたとは思えないわね……」
「そりゃそうだ。あいつが、自分の為に部下に作らせたからな」
九十九曰く、あのおかまの妖は自分も塔を持ちたいと見栄を張って作らせたという話だそうだ。
だが、建ったのは、おんぼろ塔であり、見栄を張るどころか、残念な結果となってしまったのであった。
本人は、完璧だと言い張っていたようだが、内心、嘆いていたという噂も聞いたという。
「ねぇ、九十九君、ここにいる妖って本当に……」
九十九の話を聞いていた景時は一応尋ねてみる。
伯禮塔にいる妖の事は移動しながら九十九から聞かされたが、どう考えても想像できない。いや、したくない話だった。
だからこそ、半信半疑のままここにたどり着いてしまったのだ。このおんぼろ塔に。
このおんぼろ塔に例の妖がいるのが信じられないくらいだ。
九十九は、堂々と答えた。
「おう、おかまだ」
「おかま」、このたった三文字の言葉を聞いた朧達は、正直、引いていた。
もちろん、おかまの人間だっている。見たこともあるし、聞いたこともある。だが、おかまの妖は全くもって初耳だ。
聞かなければよかったと後悔するほどに。
「本当におかまの妖っているんですね……」
「ちょっと、想像したくないわね……」
特に綾姫と夏乃は、存在を否定したくなるほど、引いていた。
そんな妖に女性達が連れ去られたと思うと吐き気がしそうだ。柚子をおとりにしてよかったと内心、思っているが、とてもではないが、言葉には出せない。特に柚子の前では……。
朧達は、連れ去られてしまった柚子を哀れに思い、心の中で謝罪したのであった。
「実際に、会ったら吐き気がするぞ」
「そ、そうなんだ……。九十九は会ったことあるの?」
「まぁな。九十九の女になるとか宣言したことがあったからな。それ聞いた雪代が殺しにかかったことがあったって聞いたことあるぜ」
「そいつ、よく生きてたな」
あの四天王の雪代に殺されかけたというのに、生き延びたというのが不思議だ。
そのおかまの妖は、四天王のように強いというわけではないらしい。九十九曰く、雑魚程度。自分なら瞬殺できるほどだという。
やはり、どうやって生き延びたのであろうかと考えたが、答えは全く出てこない。
そうこうしているうちに、物音が響き始めた。
「ねぇ、見て!誰か来るよ!」
朧が指をさす。
その方向には女性達が必死に走っている。塔から逃げてきたようだ。九十九達は、柚子がうまくやってくれたのだと確信した。
だが、後から大量の妖達が、迫ってきていた。
「もしかして、さらわれた人達か?」
「みたいですね。でも、妖まで来てるみたいです」
妖達は、九十九達の元へ迫ってきたが、狐に化けた九十九は、舌打ちをした。
「これじゃあ、暴れられねぇな」
「ええ、外ではね。でも、皆、逃げてるはずだから、中ならいいんじゃない?」
「言いやがる」
この大胆不敵なお姫様は、恐ろしいことを言い放った。
柚子がいたら、ため息をついている頃であろう。
だが、今は、女性達を助けなければならない。綾姫と夏乃は、宝器を取り出した。
「私と夏乃であの人達を助けるわ。結界を張ったら、お願いね」
「了解」
景時は、こう言った状況でもにこやかに手を振っている。
綾姫と夏乃は、うなずいて、構えた。
「夏乃、行くわよ!」
「承知いたしました!」
綾姫が、結界・水静の舞を発動し、妖の行く手を阻む。
続いて、夏乃が、聖印能力、時限・時留めを発動して、時を止め、一気に淡雪で妖を切り刻み、凍らせた。
その氷が、さらに他の妖の行く手を阻み、その隙に夏乃が、女性達を誘導した。
綾姫の元へ駆け付けた女性達。
彼女達、全員が、自分の元へ来たと確信した綾姫は、さらに、自分達の周りに、綾姫が、結界・水静の舞を発動し結界を張った。
夏乃も、綾姫の元へ駆け付け、綾姫と女性達を守るように前に出て、構えた。
「全員、無事に助けましたよ!」
「了解!んじゃ、いっちょやるか!」
「そうだね~。ほら、天次君、出番だよ!」
景時は、石を放り投げると石から天次が現れる。
氷が砕け散り、他の妖達が九十九達の元へ迫ってくるが、天次に天狗嵐を発動させ、妖達を吹き飛ばす。
続けて、透馬が、聖印能力・聖生を発動した。
聖生は、同じ宝器を一瞬で何本も作りだすことができる能力であり、一度で一気に妖達を討伐できるほどの効果がある。
その能力で、何本もの岩玄を空中で作った。
それが、聖印能力と岩玄の力を掛け合わせた技、聖生・岩玄雨であった。
岩玄が雨のように降り注ぎ、妖達を全て討伐した。
「すごい、全部倒したね!」
「いや、上からも来たぞ!」
九十九が妖気に反応し上を見上げると上空から、翼を生やした妖達が現れる。
こう言う妖は厄介だ。
彼らにとって不利な状況でしかない。
だが、なぜか景時は余裕の笑みを見せていた。
「こう言うのは、僕に任せて」
景時は、手に持っている弓矢・風切を構える。
そして、矢を放ち、一瞬で妖を撃ち落としたのであった。
景時は、弓の名手。命中率は百発百中だ。空を飛ぶ妖でさえも、一発で射ることができる。それほどの実力を持っているのだ。
次々と矢で妖を討ち落とし、空中にいた妖全てを討伐した。
これで本当に全ての妖の討伐を完了した。
「よし、完了だな!」
「いや、まだだ」
再び、妖気を感じた九十九が告げる。
すると、一人の女性が塔から逃げ出した。その後を再び大量の妖が追いかけている。
その女性はなんと凛であった。
凛を一目見た透馬は、口をぽかんと開けていた。
「か、かわいい……」
透馬は、凛に見とれている。どうやら、一目ぼれしたらしい。
だが、どう考えても、見とれている場合ではなかった。
彼の様子に気付いた綾姫は、ため息をついていた。
「ちょっと、見とれてる場合じゃないわよ!」
「あ、わ、わかってるって!よし、やったるぜ!」
「おっ、とーま君、威勢がいいね」
透馬は、何が何でも凛は自分が助けると決意し、気合が入ったようだ。
景時は、のんびりとした口調で話してはいるが、すでに構えている。
何本もの矢を放ち、矢が妖を捕らえた。
そのおかげで凛は、妖に襲われかけていた寸前であったが、助かり、逃げ切っていた。
「今だよ~。とーま君」
「いっくぜ!」
透馬は、飛びあがり、岩玄を握りしめる。
すると、凛と妖の間に、岩が出現する。
岩玄の技、
技を発動した透馬は、すぐに凛の元へ駆け寄った。
「こっちだ」
透馬は凛の手をつかんで、連れ出した。
そして、透馬は、聖生・岩玄雨を再び発動し、全ての妖達を討伐した。
討伐し終えた透馬は凛の方へと振り向いた。
「大丈夫だったか?お嬢さん」
「あ、はい」
なぜかはわからないが、透馬は恰好つけて、凛に問いかける。
凛は、戸惑っていたが、透馬が一目ぼれしていることなど全く気付いていないようだ。
彼の様子を見ていた綾姫達は、ため息をついた。もちろん、景時を除いて。
「逃げ遅れたのは、君だけかな?」
「い、いえ。柚子……じゃなかった。柚月さんが……」
「柚月?柚月のこと知ってんのか?」
「はい。助けてくれたんです。もしかして、柚月さんのお仲間さん、ですか?」
「そうだ。俺が、柚月の仲間さ。もう、心配ないぜ」
さらに、透馬は無意味に格好をつける。
だが、それをかき消すかのように、または邪魔するかのように(思っているのは透馬だけ)、再び、大量の妖が出現したのであった。
「あれあれ?まーだ、いるみたいだね」
「ちっ。邪魔しやがって。お嬢さん、下がってな!」
透馬に言われ、凛は言われるがまま、下がった。
おそらく、透馬は、自分はかっこいいところを見せたと確信しているようだが、凛は、未だに気付いていない。
景時と透馬は、構えた。
「このままだと、塔に入るのに時間がかかりそうだぜ」
「そうだね~。あ、いい案を思いついたよ」
大量の妖が何度も出現し、柚子を助けたくても助けられない状況であり、柚子の身を案じた透馬であったが、景時がまた案を思いついたらしい。
また、突飛な案ではないかと透馬は内心、心配していたが、景時は気にすることなく、笑みを浮かべたまま、朧と目を合わせた。
「朧君、九十九君を連れて、こっちに来て~」
「あ、はい!」
こんな状況でも景時は手を振って、朧と九十九を呼び寄せる。
朧は言われるがまま、九十九を連れて、景時と透馬の元へ駆け寄った。
だが、なぜ、呼ばれたのかわからない九十九なのであった。
「なんだよ、どうしたんだ?」
「あのね……」
景時は、妖が迫ってくる中、小声で作戦を話し始める。
正直、空気を読むべきなのだが、作戦を聞かされた九十九達は、なぜか、感心したような顔つきであり、遠くから見ていた綾姫達は何が起こっているのかさっぱりわかっていないようで、あきれていた。
「おお、いい考え。さっすが、景時!」
「それなら、俺も暴れられそうだな。その作戦、乗ったぜ」
「うん、じゃあ、天次君、いくよ~」
景時は、天次に命じ、天次は再び、天狗嵐を発動させる。
妖達は、吹き飛ばされて、倒れた。
隙ができ、透馬は、岩壁を発動し、岩の壁で妖達の行く手を防いだ。
すると、続いて、九十九が、岩を駆けあがり、飛び降りた。飛び降りる途中、妖狐へ戻った。
死角を利用して、九十九を塔へ潜入させようとしていたのだ。
岩壁であれば、凛や女性達には気付かれない。九十九も暴れることができると考えたのであった。
妖狐に戻った九十九は、勢いに任せて、妖達を吹き飛ばし、塔の中へ入った。
「よし、待ってろよ!柚子!」
九十九は、明枇を石から取り出し、肩に担いで笑みを浮かべていたのであった。
これで暴れられる、と。
その頃、柚子は、異能・光刀で迫りくる妖達を蹴散らし、階段を駆けあがっていた。
「なんとか、倒せたな。武器も手に入ったし。正直、心もとないが、ないよりはいいか」
柚子は、妖を討伐している途中、刀を拾い上げた。
妖が使っていた刀であったが、妖刀ではない。ただの刀だ。宝刀や宝器ではないため、威力は期待できないが、あったほうが心強い。
あのおかまの妖を倒すためには。
「そろそろ、あのおかま野郎を倒しに行くか」
柚子は、階段を駆けあがった。
最上階にいるおかまの妖をぶっ殺しに行くために。
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