青空とダイヤモンド

瑠璃・深月

青空とダイヤモンド

青い空を美しいと感じたとき。それは、自分の中で自分が変わった瞬間だ。

いつしか自分の前に敷かれた道さえ見失い、そこにあるはずの美しい景色さえ見えなくなっていた。青い草原も、森も、その先に広がる雄大な山脈も、そこから流れる清流も。

 私は、その時確かに別の場所にいた。きらびやかな宝飾品や有名ブランドのハイセンスな小物、美しいドレスや服飾品がある、四角い倉庫の中にいた。

 その倉庫には青空も草原もない。ただ、きらびやかなものだけがたくさんある空間だった。私はしばらくそれに見とれていたが、ついに我慢ができなくなって、その部屋のものを使ってみた。服を着て、バッグを提げ、アクセサリーを出来るだけつけた。すると、何もないところから新しいものが湧き出てきた。どれもこれも素晴らしい宝飾品ばかりだった。いい気分だった。鏡があったから、そこに映し出される自分を見て満足した。

 しかし、そこは魔法の空間だった。どんなにたくさんの豪華な衣装を身につけても、満足できない。そのうち、増え続ける豪華なものに埋もれて、この部屋にあったはずの出入り口も、窓も何もかも、塞いでしまっていた。

 この倉庫には、もう入口も出口もないことに私が気がついたのは、豪華なものに飽きてきてしまってからだった。

 私は焦った。

 焦って、そこにある宝飾品も服飾品も全てどかした。部屋の中央に物を集めるようにして出口を探った。しかし、全てどかしても、そこにあったはずの出入り口も窓も、すべて、壁になってしまっていた。

 私は嘆いた。どうしてドアがなくなってしまったのか、分からなかった。ただ、ここから出たかった。そのとき、嘆いている私の横に、何かが落ちてきた。宝飾品の山の中からこぼれ落ちてきたのだった。

 それは、きらびやかなものに混ざっていた、ただ一つの、私自身の持ち物だった。随分長い旅の間一緒になってくたびれていた、ひとつのカバンだった。私はそれを見て、なんだかひどく安心した気持ちになった。嬉しくて涙が出た。自分自身のいた証がここにあったのだ。私は、きれいな服を脱ぎ捨て、山の中から自分の服を探り当てて、再び自分の姿に戻った。すがすがしい気分になった。すると、いつの間にか、私の背にあった壁に、ドアが出来ていた。私はそのドアを押し開けて外に出た。眩しい陽の光とともに、目の前に飛び込んできたのは、青空だった。そのあまりの美しさに、私は涙を流した。

 宝飾品はどれも素晴らしいものだった。私は、あの部屋にあったものを忘れないだろう。ただ一つ、あの部屋が私にふさわしいものではなかった、それだけのことだったのだ。宝飾品も、青空も、価値などは変わりはしない。

 あの部屋は、待ち続けるだろう。私ではなく、あの部屋にとって本当にふさわしい主人を。太陽の降り注ぐ青い草原も、輝くダイヤモンドも、素晴らしく美しいものに変わりはないのだから。

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青空とダイヤモンド 瑠璃・深月 @ruri-deepmoon

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