ゴーストタクシーただいま送迎中だってば!

ちびまるフォイ

なぜかギャグに見えるホラー小説

タクシー会社に晴れて就職できた俺に待っていた役職は

『ゴーストタクシー』という聞きなれない仕事だった。


「ゴーストタクシーってなんですか?」


「まぁ、行けばわかるよ。くれぐれも深くかかわらないようにな」


「……?」


上司から渡された地図を頼りにタクシーを走らせる。

どんどん街灯はなくなり薄気味悪い場所へと入っていく。


「おいおい……こんな場所でタクシー待ってる人いるのかよ……」


今にも引き返したくなったとき、声が聞こえた。



"のせてください……"



女の声に車を止めて周りを確認しても誰もいない。


"ドア開けてもらえますか……?"


ドアを開けてもやっぱり誰もいない。

……と思ったが、バックミラーに女が映っていた。


「え!?」


「どうも……幽霊です……これゴーストタクシーですよね……」


「そういう意味かよ!!!」


上司の言っていた意味がわかった。

ゴーストタクシーって幽霊を運ぶタクシーということだったのか。


肉眼では見えないので、ミラー越しに幽霊と目を合わせる。


「どちらまで?」


「廃ホテルまで」


車を地元の心霊スポットの廃ホテルに向けて走らせる。

外から見たら「空車」に見えるんだろうな。


「あの……怖くないんですか……」


「怖いですけど、ここから逃げて後で仕事がなくなる方が怖いです」


「生人は大変ですね……」


「生人って……」


姿は見えないが声は聞こえるので会話はできる。

ふと気になったことを聞いてみることに。


「どうして、タクシーを呼んだんですか? 幽霊って怨念のある場所にいるんじゃないんですか?」


「普通はそうなんですけどね……。心霊スポットと特集されるとそうも言ってられなくて……」


「どういうことです?」


「昼夜問わずガラの悪い人がやってくるので、落ち着いてうらめしやもできないんです」


「た、大変ですね……」


「それで定期的に地縛場所からは離れて、今話題のスイーツショップに出かけたりするんです」


「女子か!!!」


思わぬ幽霊事情を聞いて少し考えがあらためられた。

でも思い返してみれば幽霊も同じ人間だったわけで無理もない。


「はい、つきましたよ。廃ホテルです」


「ありがとうございます……また利用させてください……」


幽霊を送迎してタクシーを会社へと戻した。

翌日、昨日幽霊が言っていたことが気になって廃ホテルを訪れた。


昨日は夜だったので気付かなかったがいたるところに落書きや壊された跡があり

ここだけアメリカのストリート以上に治安が悪そうな気さえする。


「ギャハハハ! 幽霊出てこいよ! オラー!」


「はーーい! 今、心霊スポットに来ていまーーす!!

 みんなライブ中継見てるー? いえーーい!」


「立ちしょんしようぜ! 立ちしょん!!」


なんかもう無法地帯だ。

会社に戻ると顧客リストからあの幽霊の連絡先を調べた。


プッシュ音の後に「44444444444」と入力する。


「もしもし?」


"その声は……こないだのタクシーの運転手さん"


「ちょっと協力してもらっていいですか?」


連絡した後で廃ホテルへとタクシーを走らせた。


 ・

 ・

 ・


「んだよ、せっかく生中継だったのに幽霊出なかったな」


「つか、こっから歩いて帰るのマジだりぃ」


「おま、肩になにか憑いてるんじゃね?」


「足が疲れたんだっつーの!」


廃ホテルで暴れまわった若者たちは満足そうに出てきた。


「おい、タクシーあるぜ」


ちょうどいい場所に止まっているタクシーが目に入った。


「おっさん、町までよろしく」

「金ないけどな」


「「「 ギャハハハハ!!!! 」」」


「かしこまりました」


タクシーは静かに発進して廃ホテルを後にする。


「お客さん、ところでなにしてらしたんですか?」


「聞く? それ聞いちゃう?」


「おっさん知らないかもしれないけど、俺たち人気のユーチューバ―なわけ。

 警察にケンカ売ったり、廃墟行ったりで超再生回数あげてんの」


「そうなんですねぇ。あ、でもタクシーは汚さないでくださいね」


「おっさん。俺たちを迷惑集団かなにかだと思ってる? んなことしねーって」


「いや、だって窓ガラスに手形がついてるじゃないですか」


若者集団はガラスをふと見ると、後部座席左右の窓に手形がびっしりついていた。

それも内側から。


「わぁぁぁ!! なんだ! なんだよこれ!」

「変なイタズラやめろよ!!」


「イタズラって……。私はさっきから運転してるだけじゃないですか」


「降ろせ!! 早く降ろせ!!!」


「いいんですか? ここは街灯もない森の小道ですよ。

 こんな暗い場所で道をまちがえでもしたらそれこそ……」


「わかった!! わかったから早く町まで飛ばせ!!」


「制限速度を守って、安全運転で送迎させていただきます」


安全運転で進むタクシーの車中は、幽霊にビビらされた若者で大騒ぎだった。

街につくころには失神した仲間をひきずりおろして、彼らは去っていった。


バックミラーにうつる幽霊は笑っていた。


「運転手さん、ありがとうございます……。

 これだけ怖がらせれば彼らはもうやってくることはないでしょう……」


「いいえ。これからもご利用ください」


「運転手さん……!」


それきり、廃ホテルへの送迎は依頼されなくなった。

迷惑をかける連中がよりつかなくなったので、地縛場所を離れる必要もなくなった。


「それじゃ、次の現場にいってくれ」


「わかりました」


タクシーを走らせると、有名な心霊スポットのトンネルへとやって来た。



"のせてくれ……"



環境音に紛れて聞こえる男の声にドアを開けた。

バックミラー越しに男と目を合わせる。


「お客さん、どちらまで?」


「……おい、どうなってんだ。空車って出してたじゃねぇか」


「え、ええ。空車ですよ」


「もう乗ってるじゃないか! 俺は相席なんて嫌だぞ!」


「え!? いないですよ!?」


バックミラーを何度も確かめるが男以外誰も乗っていない。




「助手席に乗ってるじゃないか!!!」




バックミラーを傾けると恥ずかしそうに座っている廃ホテルの幽霊がいた。


「ど、どうも……」


気難しい男の幽霊は怒って降りてしまった。

それより問題は助手席の幽霊。


「あれからずっと乗ってたんですか? びっくりしたなぁ」


幽霊はもじもじするばかりで何も話さない。


「お客さん。それで、どちらまで送迎すればいいですか?」



「あなたの家まで……///」




"深くかかわるな"と忠告した上司の言葉の意味がやっとわかった。

その後、俺の家は有名な幽霊屋敷となった。

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