第一章(3)

   三


 猿ノ助は片膝を立てたまま、猪口を片手に三人を睨め回した。


「おりゃあ、この村に何の義理もねえ。桃太郎っつう強い兄さんが、やるそうだって風の噂で聞いたから、うまくいきゃあ金銀財宝、遊んで暮らせると思って乗ったまでだ」


 犬吉と雉右衛門は異口同音に猿を非難した。


 猿は舌打ちをして、

「お前らの目的は、人情絡みのあだ討ちと、村の平和と村人からの称賛だろうが。俺は金目のものが目的なんだよ、何が悪い。こっちは命懸けて乗り込むんだ。相応の報酬が無けりゃあ、やってられねえ」

と言った。


 雉が即座に突っこんだ。


「命懸けるのは俺たちも一緒だ」


 猿も即座に応えた。


「桃の兄貴はともかく、お前らは頼りにならん」


 俺は確信した。


――この猿は、確実に、逃げる。


 しかし、猿の言い分も一理あるとは思った。


 鬼どもをやっつければ、村は平和になる。そうすればまた蓄財もできよう。そもそも鬼ヶ島の宝は、俺たちの勝利なくして、村びとに還る見込みのない財宝だ。命がけで勝利した俺たちが、それを元にどこかで潤いのある暮らしをしても許されるのではないか。


 俺は不覚にも猿ノ助を見つめたまま、思惑を巡らせていた。猿ノ助は、俺の心を読んだかのように不敵な笑いを浮かべて言った。


「みんな、自分に素直になろうぜ。なあ、兄貴」


――自分に素直に……。


 猿と犬と雉の、五つの目に突き刺されながら、俺は景光を手に立ち上がった。


「小便だ」

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