第3話「株式会社 GRAY ZONE」
タックス・ヘイヴンとは、「租税回避地」のことである。一定の課税が著しく軽減、または完全に免除される国や地域を、タックス・ヘイヴンと呼ぶのだ。
噛み砕いて説明すると、税がかからない、若しくは非常に安い国や地域に、外国企業が資本を移すことで、かかる税金を抑えるのだ。
21世紀最大のリークと言われている『パナマ文書』には、このタックス・ヘイヴンを利用している大企業や資産家の名前がずらりと記載されていた。この文書をリークした人物は、匿名で金銭的見返りを一切求めなかったことも、このリークの闇の深さを示している。
そんな納税者にとっては天国、税務調査官にとっては地獄のような場所である、タックス・ヘイヴン。そして、この異世界の名は、「タックスヘヴン」。何の因果か分からないが、これは俺への試練なのかもしれない。
エルフの女の子に連れられ、俺は「株式会社 GRAY ZONE」の社内を歩いていた。この女の子の名前は、エバンというらしい。
「会社というより、お城の中を歩いてるみたいだなー」
社内の雰囲気に呑まれ、つい社会人としての喋り方を忘れしまっていた。慌てて、訂正しようとするが、エバンが待ったをかける。
「私には、そんな堅苦しい喋り方はしなくていいですよー。ただの一社員ですし、正直こっちも疲れちゃいますから」
相手がただの一社員だろうが、礼儀を忘れた振る舞いをしていい理由にはならない。だけど、まあ、異世界だし、いいかな……と、何の言い訳にもならない理屈をこねて、俺は、エバンに砕けた調子で話しかける。
「そうか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。ところで、ここは、何をしている会社なんだ?」
「そうですね、主に魔道書の出版をしています。最近は、農業にも手を出してます」
多角経営にしては、角が尖りすぎだ。魔道書の出版と農業の共通項が見当たらない。
社内を見渡すと、確かに眼鏡をかけたエルフや竜人、果てにはスーツをビシッと決めたアンデッドが、忙しなく本を持ち、動き回っている。
アンデッドのスーツは、クリーニングが大変そうだな……。
「農業ってのは、農作業の機械を造ったり、農薬の開発をしたりしてるのか?」
「いいえ、実際に作物を作っているんです!」
「作物? 何の作物を作っているんだ? それに農場はどこにあるんだ?」
「人食い草の『大食漢』という
「な……、人食い草だと? それは合法なのか?」
エバンは、商売人の悪どい笑みを浮かべた。
「来年度から、法改正があって人食い草の栽培は、違法になるんですけど、今はまだ合法です。だから、今のうちに作るだけ作って、売っちゃおうかなと思ってます」
流石は、株式会社GRAY ZONE。名前に違わず、グレーなことをやっているな。
ていうか、行政の判断はどうなってるんだ。人食い草なんて、100で違法だろ。法改正が遅すぎる。
そんなことを考えていると、社内の中でも、一際、豪勢な扉の前にたどり着く。
「ここが、社長室になります。社長は、いつも音楽をかけているので、あまり気にしないで下さい」
扉を開き、社長室に足を踏み入れる。
フカフカしてそうな椅子の上には、10歳ぐらいの妖精が座っていた。
室内に流れている楽曲が変わる。GLAYの曲からZONEの曲に。
「いや、GRAY ZONEって、GLAYとZONEのことかよ!」
初対面の社長の前で、ついこんなツッコミを入れてしまう。税務調査官を始めて、1番の失態を犯してしまった。
10年後の8月、俺はこの失態を笑い話にできてるのかな……?
ペーパーカンパニーのオフィスは異世界にありました ごんの者 @gongon911
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