第2話

こうなったのは仕方ない。まず、宿と仕事を見つけよう。これは、ゲームの基本だな。何もない初期状態で戦闘は流石にマズイからなぁ。さすがに、二つ返事で承諾したことにちょっと後悔する。

「まぁやるしかないか。魔王討伐」

はぁ、とため息をつく。

ザッ、と草影から音がした。何か嫌な感じがする。

「グルァァァァァァァ!」

「まじかよ!やっぱモンスターか」

とりあえず逃げなくては。声とは逆の方に走り出す。草影から何かが飛び出してきた。むこうも俺が逃げ出しているのに気が付いたのだろう。ちらっと、後ろを見てみる。あれは、姿形から察するに、ゴブリンだな。ゲームでは下級モンスター設定のことが多いが、この世界ではどうなのか分からない。それに俺は0レベだ。

「つまり、レベル0の俺<ゴブリン.….死!?」

てか、ゴブリン足早すぎだろ!もう追いつかれるっ!

「あっ.….」

石に躓き転んでしまった。やばい、殺られっ.….

「エレクトロ・ショック!」

青白い稲妻が頬の横を駆け抜けて行く。

「グルァァァーー!?」

稲妻を受けたゴブリンはその場で倒れる。

「あのー、大丈夫ですか?」

声のするほうを振り返ると、可愛い女の子がいた。優しく微笑み手を差し出す。

手をとり、起き上がる。ふと幼い頃にも会ったように、懐かしい感じがした。

「あっ、どうも。助けていただきありがとうございます」

「あなたは、旅の人ですか?行くところがないなら、お茶でもどうですか?」

嘘になるけど、旅の人と言った方がこの先めんどくさくなくなりそうだな。

「はい、旅のものです」

彼女は俺に冷たい視線を送り、はぁと深くため息をつく。

「あなたが悪いんですよ。私に嘘なんかつくから」

一瞬にして後ろに回り込んだ彼女は耳元でそう囁き、俺の意識は途絶えた。


____男に殴り飛ばされる。痛みがないので、夢なのだろう。

「裕太、助けて!」

女の子が叫ぶ。

「うるせえぞ、ガキ!黙ってろ!」

男は威圧するように言った。

女の子を助けるためにぼくは立ち上がり、男の腕に噛みつく。が、簡単に振りほどかれ、また殴り飛ばされる。

「やめて、お家に帰らせて!」

「うるせぇって言ってんだろうが!!」

男が何度も女の子の腹にポケットから取り出したナイフを突き刺す。

「オラ、オラァ!どうだ?痛いか?」

嘲笑しながら何度も、何度も同じような言葉を繰り返しながら、刺すのを辞めようとせず続ける。俺はしばらくの間何も出来ずにただ見ていた。自分の無力さを呪いながら。憎い。何も出来ない自分が。あの子を殺したあいつが。ただその感情でいっぱいになる。ふいに転がっていた鉄パイプが目に入り、手に取って強く握りしめる。目の前が歪み、俺が現れる。

「ぼく、本当に殺すの?」

目の前に現れた俺が言う。

「あぁ、殺すよ」

すると、俺は不満そうに言った。

「それなら、ご自由に」

「あぁ」

ゆっくりと近づき、女の子を刺し続ける男の背中に思い切り鉄パイプを突き刺した。


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勇者になったらLv0でした(泣) 気分屋p @gassy147

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