対魔学園 第二生徒会の聖騎士
石狩晴海
第1章 “亡者事変”
第1話 XXX第二生徒会検閲削除XXX
第2話 青果が落ちる
放課後の
『この放送が聞こえる生徒は、至急第二生徒会室に集合してください』
それは普通の生徒には聞こえることのない特別な放送だった。
十数分後。
時逢学園の第二生徒会室に集まった執行委員たちに、体格の良い三年生が声をかける。
「よくぞ生き残ってくれた。我が精鋭たちよ」
「この前古い動画を無理やり見せたのはこのためね」
生徒会長
「はいはい。バカに付き合っている時間はないわ。
聖王国騎士団からの正式な
ひとまず、このメンバーを先遣隊として出すわ。
隊長は昭島。現地のガイドはアレサンド卿。
各自
三迫が現代の建物には違和感
一年生の
「先行します!」
一言残して、生徒会役員の先輩たちが止める間もなく扉を抜ける。
視界を塞ぐ光だけの空間。
上昇しているのか落ちているのか不思議な浮遊感覚。
多分第二生徒会室では三迫が何か言ったかもしれないが、次元を隔てる石の扉の先には届かない。
一瞬だけ五感を失って、軽い落下の衝撃。
足の裏にしっかりとした感触を確かめ、周囲を見渡す。
全景に遮るもののない開けた視界。
広い広い草原地帯、脇には石畳で整備された街道が伸びる。
近くには日除け庇とベンチだけの小さな休憩所。横には数頭の馬が留め置かれている。
悠斗は休憩所の横、召還用の魔法陣が画かれたレジャーシートの上に立っていた。
風景から、ここが学園内どころか日本でもないことがわかる。
石扉を通って、沢馬悠斗は放課後の学園から異世界へと転移していた。
休憩所にいた数人のグループから髭を生やした年配の男性やってきた。転移してきた悠斗に話し掛ける。
「ようこそ、異界の聖騎士殿」
鎧姿の男性は、聖王国の騎士アレサンド卿。異世界の案内役だ。
魔法陣から出た悠斗が問い返す。
「怪魔はどこだ?」
「街道先の農村を襲っていると、巡視隊より報せが入りました」
「わかった」
聞いた端から悠斗は走り出す。
ブレザーのポケットから一辺2センチ程の正三角錐を取り出すと、指で弾いた。
「[駆けろ]」
半透明の正三角錐が光って消えた。同時に悠斗の姿を微かな“煌めき”が覆う。
バッと砂埃を上げて悠斗が加速する。その速度は陸上短距離走の世界記録より速い。
みるみるうちに悠斗の背中が小さくなる。
報告の続きを言う間もなく、相手をなくしたアレサンドは少し眉を寄せる。
魔法陣の上に光の柱が立ち上り、新たな人物が転送されてきた。
「おまたせしました、アレサンド卿」
出てきたのは、一年生の
透き通るような金髪が特徴の留学生だ。
即座にアレサンドは臣下の礼を取る。
「エスメルダス姫様
「畏まらない下さい。今のわたくしはただの生徒会執行委員ですわ」
この異世界からの留学生である王女様が微笑む。
エスメルダスの後からも、次々に
最後に現れた生徒会長昭島大知がアレサンド卿に挨拶する。
「今回もよろしくおねがいします。
ところで鉄砲玉はどこヘ行きましたか?」
「既に目的の村へ走って行かれました。
独断専行とは、いささか聖騎士としての自覚に欠ける少年ですな」
「実に面目ない。
しかし、許してください。
彼は先だっての“亡者事変”に巻き込まれたので、
昭島会長が異世界のガイドに頭を下げた。
エスメルダスは不安に揺れる瞳で街道先を見つめている。
背景を察したアレサンドは渋面で馬の準備を始めた。
「ならば、急ぎ彼に続きましょう。
怪魔の規模はまだ未確認です。
少年の手に負えないとも限らない」
「はい。お先に失礼します」
昭島会長は半透明の正多面体、正六面体を取り出すと握りつぶした。
“煌めき”がその場にいる執行委員たちを取り込む。
「[移送]」
異世界の聖騎士たちが、地面の上を高速スライドする!
▽□◇□▽
それがいつの時代から始まったのか。正確にはわからない。
だが、残された文献では二つ目の幕府政権勃興まで遡ることができる。
現在の組織体系に整えられたのは、学園創設時の百数十年前。
旧陰陽庁の陰陽師練成を目的にする部署が半独立し運営を開始した。
この時に異世界『ガムドネジスタ』との関係を取り持つ権利も引き取ったことが、記録に残されている。
さらに近年、こちらの世紀超えを境に用語や名称が再検討され、現代風に変えられた。
それが
異世界の聖騎士たちだ。
彼らが異世界『ガムドネジスタ』の聖王国フォスニアで、聖騎士として活動する理由は明確だ。
異世界での怪魔の動きが、現実の世界でまさしく
異世界『ガムドネジスタ』で凶事が起これば、現実にも災害が発生する。
フォスニアで炎の怪魔が暴れれば、現代世界で大きな火災となって顕現する。
それも規模を倍化したものが起こる。
六百年以上前から記され続けてきた組織の活動記録が、この事実を裏付けている。
大厄災を未然に防ぐことが、彼ら第二生徒会執行委員たちの重大な使命である。
△□◇□△
高速走行する悠斗は、村の名前が書かれた案内看板を横目に見て速度を緩める。
ここは現実世界では存在しない果物を特産品とする果樹農村のようだ。
村の全周を林檎園のような木々が囲っている。
栽培されているオレンジのような柑橘系の果物がところどころに見える。現代の物との違いは、外皮が青1号で染められたのではと疑うような色をしていることだ。
悠斗がブルーオレンジ農園の途中で走るのを止め、ポケットから取り出した
そのまま村の方へと脚を進めると、嗅ぎ慣れたくない臭いが鼻の奥まで届いてきた。
血の臭いだ。
臭いを頼りに出元へ急ぐ。
辿り着いた先にあったのは、血溜まりを広げる一本の腕だけだった。
袖に通された左腕が肘より少し上の部分で分断され、幾つかのブルーオレンジと一緒に転がっている。
破かれたブルーオレンジの収穫袋も近くにあったが、他に人らしき気配はない。
腕の主がどうなったのかはわからない。
わからないが、間に合わなかったのは明白だった。
「ちくしょうっ!」
悠斗が怒りに震える。
こんこん、からころ、かんころ。
地面から複数の黒い石が衝突音を鳴らしながら連なって出てきた。
地上に出たそれは幾つかで纏まり、人の形に繋がった。それが三体。
「罠のつもりか」
怒りのまかせ悠斗は雑兵に殴り掛かった。
拳が“煌めき”、石人形を叩き砕く。
この輝きこそ聖騎士の証、
人間が怪魔と戦うための力。
霊殻は異世界『ガムドネジスタ』では誰しもが持っている生命の輝きだ。
霊殻を高めれば、身体能力は何倍にもなり、物理法則を超えた現象さえ起こす。
現代に住む
そして覚醒した現代の人間の方が『ガムドネジスタ』の人間より
これこそ悠斗たちが次元を超えて招聘される理由だった。
聖王国には怪魔と戦えるだけの霊殻を扱える人間もいる。
だが、遥か南方の暗黒大陸より侵攻する
今、悠斗が殴り飛ばしたポーンパペットでも、まともに戦える人間は何人いるだろうか。
なので、
現代では災厄を事前に防ぐため、異世界では世界を守るため。
両者の利害は一致し、
最後のポーンパペットが、肩を軸に右腕を背中から回して振り下ろす。人体では無理な関節駆動の不意打ちだ。
悠斗は咄嗟に全身の
「グッ、ッ……!」
痛撃に悠斗が苦悶し、血潮が飛沫しぶく。
有り得ないことに、攻撃したはずのポーンスケルトニクスの腕が砕けていた。驚くべき
「消えろっ!」
反撃のミドルキックで石人形の腰も砕く。
残心、呼気一拍。
立ち眩みが治まるまで少し佇む。
額の血を拭った悠斗は、散らばった黒い石の中で一番大きいと思わしきものを選ぶと拾い上げた。
すると、黒い石が収縮して斑柄の小石に変わった。
「雑魚でも
出来上がった粗製輝石を爪弾き、
他にも怪魔が居ないか気配をさぐりながら、ポケットの中の輝石を指先で数え直す。
純粋に
輝石は多面体の形をしており、聖王国の教会が生産販売している。
個人でも
しかし、
慣れた者でも現地調達の“素材”で作れる輝石は、粗製もよいところ。どうしても精度が見劣りしてしまう。
概ね現地調達の“素材”とは
粗製加工で戦闘に使え得る強度の
また、見た目の目安として
さらに
悠斗が扱う
周辺にはもう
その背後で、不可思議が出来事が起こった。
地表から三角の
音もなく回遊する謎の背鰭。悠斗が気づくこともない。
背鰭は得物との距離を縮めると、バガッと地面から飛び出した。
鮫だ。地面から飛び出した巨大な鮫の口が背後から悠斗を狙う。
感づき振り向いた悠斗だが、時既に遅し。
口内にびっしりと並んだ鋭歯が、獲物を嘲笑っているようだった。
「[イーグルストライク]ッ!!」
巨大鮫へ、太陽を背負った大鷲が中天からの落下蹴りを御見舞する。
土飛沫を上げて巨大鮫が地面に沈んだ。
飛び降りてきたのは、二年生の鷲崎健三郎。別名
鷲崎は呆然とする悠斗の襟首を締め上げると、力の限り殴った。
派手に倒れる悠斗。
鷲崎が捨て吐く。
「生徒会長は前の事件に関わったってことで、お前に甘いからな。
だからオレが殴った。
殴った意味は言わないぞ。痛みで知れ」
鷲崎のパンチで再び額の傷が開き、口の内側も切れていた。
後から走ってきた
「
逸る気持ちはわかりますが、ルールを破ってよい理由にはなりませんわ」
治療のため
二人が咎めているのは、悠斗が
第二生徒会によって厳しく管理されるべきもの。
悠斗が準備もなく転移の扉に入ったことで、無断携帯が露呈した。
悠斗は血の混じった唾を吐き捨て、鷲崎に食って掛かる。
「それでも間に合わなかった!」
おそらくはあの地中鮫の食い残しであろう血溜まりの左腕を指す。
鷲崎は手の平に
「
オレたちは雇われ騎士であって、神様じゃない。
出来る事と、そうでないことの判別ぐらい割り切れ」
構える悠斗を見もせず、鷲崎は見事なクイックフォームで火球を投げた。
火球が音もなく地面から生えてきた背鮫の鰭に命中する。
「手応えがねえ……。深く潜りやがったか?」
爆炎に抉れた大地を見て鷲崎が呟く。
「姫さん、あの化け鮫を地上に引っ張り出せるか?」
「……ごめんなさい。具体的な方法が思いつきません。
地中を掘るのではなく潜っているので、
「それなら攻撃を当てて
「どこに出るかわからない土竜叩きでは、命中させるのは困難です。
接近されて噛み付かれたら、海の鮫と同じ結末になりますし」
「そのまま地中に引き釣りこまれて、窒息死させられると……」
二年生の聖騎士が少しだけ思案する。
「なら、しょうがねえ。
馬鹿も見つけたし360度警戒しながら本隊と合流するか」
鷲崎は自分より頭の回る人間がノーと言ったのを素直に受け入れ、この場での撃退を諦める。
ブルーオレンジの収穫袋と被害者の左腕を見ていた悠斗に、ある考えが思いつく。
一番近くに転がっているブルーオレンジまで歩いて、拾い上げる。
鷲崎が荒れた口調で止めようとする。
「おい、沢馬! 勝手に動くんじゃねえ!」
「あの鮫は人間を食べる。なのに左腕は残したままだ。
もしかしたら、あの鮫は果実が苦手なのか……?」
悠斗はブルーオレンジを握りしめる。
「おっ、なるほど。
そういうことなら、利用させてもらうとするぜ」
さっと身を翻した鷲崎が、散らばるブルーオレンジを拾い集めながら、収穫袋を回収しようとする。
ザバッと地中から飛び出した鮫怪魔が、鷲崎を食べようと顎を広げた。
「ぬおっちぃっ!!」
果実を放り出してダイビング回避。なんとか凌ぐ。
エスメルダスが小首を傾げる。
「そもそも果樹園の村が襲われたのですから、栽培している果実を苦手とするのはおかしいですわ」
「そういやそうじゃねえか!
この野郎、嵌めやがったな」
「早合点したのは先輩だ」
白を切った悠斗が、クラスメイトのお姫様に尋ねる。
「合流場所は、俺が
「はい。そうです。
ユウトさんが先鋒の仕事をしてくださったおかげで、執行委員会の移動と展開が的確に出来ました」
制服の土を払いながら鷲崎が舌打ちする。
「ちっ。そこだけは認めてやるよ」
「生徒会長は先遣隊を3つに分けて、中継点確保、周辺探査、そしてユウトさんとの合流を指示されました」
エスメルダスが
「近くの
マユさんたちは村人たちと接触しました。彼らを護衛しつつ拠点に移動しています。
ユユカさんの本隊も中継点に転移してきました。
全体指揮権を生徒会長にまとめて、御自分はマユさんの迎えに出るそうです」
異世界の王女は直接的な戦闘力では劣るが、こうした補助系統の能力を得意としていた。
聖王国フォスニアの貴重な戦力である。
異世界の聖騎士たちと共に聖王国を守護する王女。
その立場と能力から、エスメルダスの人望はとても高い。
王国の女の子たちの間で、杖を持った王女の物真似遊びが流行りになっているほどだミラクルライト。
鷲崎が羨望の眼差しを王女に送る。
「やっぱ
オレもなんかほしいぜ」
「なんかと言っている間は、
これは長く礼拝に使っていた道具ですから、わたくしに力を貸してくれているのです」
エスメルダスが微笑みかえす。
むしろ
体外から追加される
基本は長く愛用し続けた道具が
となれば他人の物は使えない。
例外は、所有者がいなくなった
所有者を無くした
なんにせよ
聖王国で
王族で金髪美少女で侍祭で聖騎士で
正直属性の盛り過ぎだ。存在が高嶺の花すぎる。
第二生徒会執行委員でなければ、クラスメイトとはいえ会話すら交わさずにいたかもしれない。
悠斗の視線に気付いたエスメルダスが笑いかけてくる。
「どうかされましたか? ユウトさん」
「い、いや。べつに……」
彼女から目線を逸らす悠斗は、偶然に鮫の背鰭を見つけた。
今度はエスメルダスが狙われている。
「あぶないっ!」
叫びより速く身体は動いていた。
咄嗟にエスメラルダを抱えジャンプ。
巨大な顎がガチンと
安堵しながら着地する。
「あ、ありがとうございます……」
エスメラルダが顔を赤くしながら礼を言う。
王女様を地面に下ろすと、いきなり怒鳴られた。
「てめえ、姫さんをお姫様抱っことは良い度胸だオラッ!」
見ればなぜか鷲崎が首を上下にカックンカックン動かしている。
「姫小路を助けただけなのに、どうして先輩が怒っているんだ」
「助け方の問題なんだよ。
王国民が知ったら黙ってねえぞコラッ!」
首をカックンカックン。細めた目でじろじろと睨めつける。
あれ以外にどうやって避けろっていうだ。
悠斗は閉口する。
だが、一つ光明も見出してた。
もしやあの地中鮫は、直前に
最初の自分は、ポーンパペットとの戦闘で。
次は、火球を投げつけてきた鷲崎を狙い。
今度は、探知と念話をしたエスメルダスに捕食しようとした。
それなら……。
「少し試してみたいことがある。
二人とも少し離れて」
エスメルダスと鷲崎から数メートルの距離を開けると、悠斗は
“煌めき”が悠斗の身体から溢れ輝く。
意思や心によって形状や色彩を変える力。そしかして
虹色に光る沢馬悠斗の運命。
悠斗は
運命を見ている悠斗には、それがひどく餓え自分を狙っていることもわかった。
しかし、食われてやる訳にはいかない。
登ってくる邪悪をギリギリにまで引きつけて……。
「今だっ!」
高めた
土煙が間欠泉のように吹き上がった。
その中には、巨大な鮫の頭もある。
悠斗のカウンターが見事に当たり、
鷲崎が喜色の歓声を上げる。
「よくやったぞ。沢馬。
これでまな板の上の鯉じゃなくて鮫だ!
一方的にボコってやるぜ」
後はのたうつ大型魚類を倒すだけ。
のはずが、巨大鮫はしっかりと四本の脚で立ち上がった。
「さめ……??」
鷲崎の両眉が疑念の波形に変わる。
鮫の頭の後ろには猫科大型肉食獣の胴体が付いていた。
地中の顎の正体は、怪魔
胴体は巨大鮫に合わせた大きさで、肩の高さが人丈ほどもある。
まるで丸太のような前足。それに付いた鋭い爪を振ってくる
「こんなのありかよ!?」
「ですが、また地面に潜られる前に倒してしまわないと」
王女の言うとおり、この好機が何度も続くとは限らない。一気呵成に攻め込みたい。
「俺が楯役に!
攻撃は頼みますよ先輩!」
悠斗が前に出て、圧し掛かる鮫頭獅子の攻撃を受ける。
中空にざっくりと四本の爪痕が残されるが、すぐに消えた。
大丈夫だ。前足の攻撃は悠斗の
二年生の鷲崎が臍を曲げた。
「お前が指示を出すな!」
「もう、ケンカは後にしてください!」
エスメルダスが戦闘能力補助の
「へっ、姫さんの前だ。これ以上は言わねえが自分の役目は果たせよ」
戦闘のタイプ分類では、悠斗が
三人は
鷲崎がポケットから赤い
「三回だ。キサマは三回の攻撃で沈む。
それがオレの
綺麗な赤く透き通る正三角錐。その一つが弾けて鷲崎の
「[コンドルランブル]!」
中距離の連続攻撃、両腕の
連続でありながら一撃一撃が重たい。
攻撃を受けた
「余所見するなよ」
悠斗は連続左ジャブを
鷲崎はもう一つ
「[ホークウィンド]!」
手刀を水平に振って、今度は焼き切れるような熱い烈風を出す。
熱刀で切りつけられた
「トドメだっ!」
最後の
ビリッと悠斗の
不可思議な感覚に捕らわれる悠斗。脳裏に翼を生やした怪魔が見えた。
ーーージャンプした鷲崎が落とされる。
幻覚の結末に向かって現実が動き出す。
悠斗は既に、一歩踏み出していた。
防御のために固めていた
「[弾けろ]っ!」
七色に光るアッパーカット。
衝撃が
大きな音を立てて、
「おおいっ!
お前が倒してどうすんだよ」
必殺技を空かされて不満顔の鷲崎が着地する。
自分でもよくわからず少し呆けていた悠斗が、はっとする。
「別に誰が倒したっていいじゃないか。
宣言通り三発で倒したんだし」
「掲示板のマーク数が変わるだろうが」
「俺は撃墜数競争には参加してないから」
「むっかつくな。お前。
あの攻撃も、完全に防御を捨ててるじゃねえか。
反撃されたらあぶなすぎるぜ」
最後のは鷲崎の言うとおりなので反論できない。
なぜあんなことをしたのが、出来たのか、自分でも不思議だった。
エスメルダスが二人の間に入る。
「お二人とも、ストップですわ。
ここ以外にもまだ強力な
中継点に戻って生徒会長の指示を仰ぎましょう」
「わかったよ」
「ちっ、しょうがねえな」
そっぽを向き合う悠斗と鷲崎。
「ではこの“素材”を精製してしまいましょう」
エスメルダスが倒れる
この三人で輝石の精製に一番通じているのが王女である。
悠斗と鷲崎は黙って結果を待つ。
見る間に小さくなってゆく
そして……。
「みてください、見てください。
これは良いものができましたわ」
珍しく興奮した様子のエスメルダスが光り輝く宝石を手にする。
鷲崎も感嘆する。
「ほぉ、すごいなこいつは」
二人に釣られて悠斗も目を向ける。
王女の手にあるのは、めったに見かけることのできない最高位の
全ての面が正五角形で作られた立体、虹色に輝く正十二面体の形をしていた。
▽□◇□▽
石の扉から順番に帰還してくる第二生徒会執行委員の聖騎士たちに、体格の良い三年生が声をかける。
「よくぞ生き残ってくれた。我が精鋭たちよ」
「この天丼のために、よくもまあ仕込んだものね」
生徒会長
果実農村を襲った
「報告書は明日の放課後までに提出すること。
いつも言っているけど締め切り厳守よ。
守らない人は『ガムドネジスタ』への転移を禁止するから」
いつもの
各々自分の
管理箱は鍵の数を確認した後、三迫書記が統制室に持ってゆく。
「悪いが、沢馬は残ってくれ」
昭島会長が悠斗を呼び止めた。
「……わかりました」
話の内容が想像つくので、大人しく従った。
第二生徒会執行委員たちがぞろぞろと退室してゆく。
おもむろに昭島会長が口を開く。
「……やっと二人きりになれましたね」
悠斗は逃げられる限り全力で後ずさった。
壁に背を付け前方への警戒を緩めず、出口へむかってにじり進む。
「冗談だ、じょーだん。そんなに引くなよ。
俺も去年、前生徒会長にやられて同じ様なリアクションしたもんさ」
あははと笑う昭島会長。
「今回はシャークパニックで大変だったそうじゃないか」
「たしかにサメの怪魔だったけど、混乱はしてない」
「そういう映画のジャンルのことさ。B級以下の悪い評価って意味もあるけどね。
あと、明日の新聞を漁り過ぎないように」
軽い口調で釘が刺される。
今日のフォスニアで起こった被害は、現実でもなにかしらに現れているはず。
しかし表沙汰になるのは余程の大事件のみだ。
小さなニュースを探してまで止められたはずと謂れのない後悔をするなと、泰磨学園第二生徒会最強の生徒会長が
「沢馬も俺のお袋から聞いただろ。
考るだけ無駄ムダむだ」
朗らかに笑う昭島大知は、
両世界間の
だが、生徒会長にはもう一つ隠された事情が存在する。
彼の母親は異世界『ガムドネジスタ』の大地母神。
半人半神が、彼の正体だった。
付け加えるなら、
大地を司る女神が1008番目の子供を産むという大事は、果たして大地震と因果を結んでいるのか……。
このままでは、はぐらかされそうなので悠斗から話を切り出す。
「……本題は、秘匿義務を破ったことですよね」
『ガムドネジア』の果実農村でエスメルダスに言われた通り、
世の混乱を避けるため、異世界の存在は秘匿されなければならない。異端の技術である
統制室に入れるのは生徒会役員のみで、ただの執行委員には許可されていない。
聖王国フォスニアとの連絡手段、支給される
それほど厳しく管理されている。
悠斗は重罰を覚悟する。
もしかしたら、永久に『ガムドネジスタ』への転移を禁止されるかもしれない。
……それでも良いと、心のどこかで考えている自分に苛立った。
沢馬悠斗は
だから規則を破り
なのに、今更見過ごす選択肢を選ぶなんて……。
自分でも意思混濁、動作混乱していると解ってしまった。
惑う後輩を憂う昭島会長が取り出したのは小箱。
「そっちも問題だが、沢馬の場合はこいつを先に片付けないと前に進めないだろうしな」
開封された小箱の中には、布が敷き詰められ中央に置かれた宝石を保護していた。
12枚の五角形と20枚の六角形で構成された切頂二十面体。サッカーボールといえば解りやすいだろうか。
聖王国フォスニアにおいても百個もない、
形も珍しいが透明度も高かった。中に入っている者がはっきりと見える。
宝玉を見た悠斗の胸の奥で、ズシュッと重たい刺し傷が再発する。
その
悠斗を
優しくて頼りになって、悠斗は彼女を慕っていた。
そして香川渚こそが、悠斗の
希少で
「彼女の封印を解く方法が、見つかった」
→[the end]
[to be next episode]
[return to prelude “Ghost scream”]
対魔学園 第二生徒会の聖騎士 石狩晴海 @akihato
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