EXTRA FINAL 締結、太陽系融和条約



 ヒュビネット戦役終結から役一ヶ月後となるその日。

 火星から木星に及ぶ人類生存圏での、あらゆる人道的支援に軍事支援が功を奏し、宇宙人そらびと社会へ少しづつ、安寧への道筋が見え始めていた。


 だがその程度で、戦禍が齎した被害以上に深い、民の心の傷はすぐに癒やされる事はない。

 それを踏まえた作戦こそが、戦役終結を導いた救世艦隊の、これから担う新たな使命でもあったのだ。



 木星圏より先んじて、BSRスピリットRスーパーフレームにて各宙域を渡り歩いた蒼き英雄クオン双光の少女ジーナは、後詰めで到着を見た禁忌の聖剣キャリバーンが、初開通した国際宇宙港へ接舷する様を見送っていた。


「部隊の指揮官から、キャリバーンの艦長へ……か。実感が沸かないな。」


「ほんとですよね。あ、BSRの方はお任せです! エクちゃんとドッキングした状態であれば、私がいつでもクオンさんの元へ飛ばせますから!」


「ああ、そうだな。今はジーナへ、安心してΩオメガと言う禁忌を任せられる。おっと……さあ、来られたぞ。」


 が、すでに蒼き英雄は禁忌の聖剣キャリバーン艦長となる通達を受け正式移譲を待つ頃。

 そして、調律騎士カツシによる正式な宣言の元、破天荒皇王直属となる親衛隊のクラウンナイツとしての地位を経ての今。


 双光の少女に至っては、彼に付く禁忌の機体専属オペレートパイロットと言う座に収まっていた。


 そうして現在、矢継ぎ早となる騎士拝命もそこそこに、授かった地位を必須とする会談が行われる事となっていた。


 そこは月面宙域――

 地球現代では初となる、太陽系人類の友好的な交流の元に建造された、準ロスト・エイジ・テクノロジー製となるマスドライブ・サーキット型の国際宇宙港擁するソシャール内。

 集中管理センターの一室である。


 と銘打たれた要因としては、その施設の大半へとある外宇宙技術が流用された経緯があり、その過程に英国で任務を熟していた地球側三神守護宗家の御家も深く関わっていた。


 ヒュビネット戦役と前後する時期、地球圏では二つの一大危機が渦巻いており、中でも取り分け地球の命運を直接的に左右したとされる邪神の審判事変では、外宇宙より訪れた邪神生命により地球滅亡一歩手前の事態が訪れていた。


「初めまして。私はクオン・サイガ大佐であります。そちらのお噂はかねがね……あの邪神勢力であるクトゥルフ邪神群の脅威を退けた事は、すでに耳にしております。」


「か、かたっ苦しいのはやめてくれよ(汗)。俺は確かにそれを退けはしたけど、ここにいるシエラさん……じゃなかった。シエラ少佐を初めとした、マスターテリオン機関の皆とドールズがいたからなんとかなったんだ。」


「……界吏かいり君、あれほど会話に注意と釘を刺してたでしょ? はぁ……申し遅れました。私は只今彼……草薙 界吏くさなぎ かいり君から紹介がありました、マスターテリオン代表にして英国は円卓の騎士会ナイツ・オブ・ラウンズはガウェイン家嫡女であるシエラ・ガウェイン・シュテンリヒ……よろしくおねがいします。」


 蒼き英雄が待ち侘びた影。

 それは二人の男女であるが、彼らは国際宇宙港建造の立役者にして、地球存亡を回避した機関所属の重要どころである。

 そんな彼らの義に溢れた挨拶は、一部で偏見として広まる地球地上人が被せられた汚名など吹き飛ぶ、義にあふれる清々しい雰囲気が伺えた。


 そして――


「まあ、義理の弟に当たる訳だが。感慨深いな、サイガ大佐。この様なえにし……世界は広いようで本当に狭く感じている。息災で何よりだよ、。」


「ああ、本当に君とは久方ぶりだよ。君があの時声をかけてくれなければ、間違いなく今のオレはいない。本当に感謝している……地球の三神守護宗家は草薙家現当主。草薙 炎羅くさなぎ えんら……。」


「炎羅でかまわないよ。」


「そうか……ならオレもクオンと。」


 相まみえるは地球と木星と言う、遠く離れた地で人生を歩んだ盟友同士。

 かつて失意の底にあった英雄へと手を差し伸べ、立ち上がらせたのは彼……現在守護宗家の全体を統括する草薙家当主。

 そして彼もまた、地球は日本国へと現れた異形を相手取り、戦い抜いた地球救世の存在。

 が、奇しくも、すでに周知の事実であった。


 今彼らの道は、一つ所へと終結した。

 これより太陽系の命運を左右する、条約締結に向けた会談のために。

 そこより程なく、新たな世界への道筋を作り出した英雄は旗艦へ。



 彼も覚悟を決めた、想像を絶する因果との戦いを成していくため、家族のいる場所へと舞い戻るのだ。



》》》》



 太陽系融和条約は、今まで文化的な格差が齎す危機的悪影響を鑑み距離を置いていた宇宙人そらびとと地上人社会が、双方でリスクを慮りながら歩み寄ると言う、次世代を見据えた星間友好条約とも呼び表された。

 現在差が開きつつある技術的、文化的、さらには精神性格差を、これ以上広げないための処置でもあるそれは、奇しくも三神守護宗家とその代役として選ばれた者達の橋渡しにより終える事となる。


 そしてその邂逅は、かつて心を通わせ合った友人同士の再会を意味し、両者が心根に持っていた正しき義こそが世界を繋ぐ役割を果たす事となった。


 それより時を置き――

 条約締結となった宇宙そら側勢力、救世艦隊であるクロノセイバーはその旗艦となる禁忌の船へ新たな艦長を迎え入れるべく、寄港した月面衛星軌道上の国際宇宙港にて正式な譲渡式を執り行った。


 艦全長が400mを超える禁忌と呼ばれた聖剣キャリバーン。

 艦艇母艦と言う特殊な出で立ちのそれを、初船出時より見事総監仕切ってみせたのは月読 慶陽つくよみ けいよう准将。

 すでに旧艦長たる彼を中心とした者が、艦内大ミーティングホールで新たな艦長を賜る英雄登場を待ちわびる。


 しかしその会場には艦内幹部クラスだけではない、艦運用に関わる全ての者が一同に介していた。


 それは至極当然。

 これより巨大艦運用にあたり、それを成すためには軍部の上層だけでは成り立たないがゆえ。

 宇宙そらを渡る長き航海には、艦を直接運用する者以上に、その運用をサポートする裏方や生活を支える民間部門に加え、もともと救急救命を生業とした艦運用上必須となる医療チーム含めた全てのクルー無しには語れない。


 宇宙そらを旅する家族が集ってこその、新たな艦長迎え入れであった。


「ではキャリバーン再運用に当たり、これより全ての権利を移譲する新艦長をここへ。」


 ホールへ響く旗艦指令月読の言葉は厳かに、だが新たな新世代到来を喜ぶ面持ちで全ての者の心を打つ。

 しばらくの護衛を経て、新たな部隊への配属が決まるΑアルファフォース、Ωオメガフォースも視線をホール入口へと移動させた。


 排圧を伴い開く扉より踏み出す影は、凛々しくも迷いなき足取りで旗艦指令の元へ向かう。

 最初にそれを見送るはナスティ、ペティアを中心とした民間一般部門、生活班を代表する者達。

 続いて医療代表とし、ピチカ、アレット……そして救急救命隊士であるクリシャと、彼女を部隊長に頂く各艦載艦艦長ら――

 俊英しゅんえい、シャム、ロフチェンコが進む影を誇らしく見送った。


 次いで、旗艦全体の整備を一手に引き受ける整備チームからはマケディと、技術部門チーフの肩書が板につくサダハルが羨望の眼差しを送った。


 そこからはブリッジクルー……オペレートの花達である翔子、テューリー、トレーシーに勇也が。

 さらに、引き続き艦の操舵を受け持つ事となるロイックに、今だ新参気分の抜けないディスケスが視線を熱く注いでいた。


 各支援隊の、アシュリー、カノエ、エリュトロン……クリュッフェル、パボロ、ディンの視線は言わずもがな。


 そこまでを視線に入れ、歩む足を止めたのは英雄。

 引き籠もった朽ち果てる寸前の人生から一転、太陽系を救う大活躍を成した男が視線を前へと向けた。


 ホール中央には、共に歩んだ霊装機セロフレームパイロット達であるいつき綾奈あやながすでに足を運んでおり、最愛のパートナーとなるジーナも満面の笑みの中で迎えていた。


「さあクオン・サイガ大佐、これから新しい門出なのです! 私も、この様な時が訪れ喜ばしい事なのですよ!」


 中央で飛び跳ねる様に喜びを顕わとする、技術管理監督官であるリヴが呼び、英雄はさらなる一歩を踏み出した。


『(長き戦いごくろうじゃったな。わらわも、お主を見い出した甲斐もあったと言うもの。じゃが……ここからが本番じゃぞ?)』


 同時に、小さな影から漏れ出る強大な気配と共に、意識領域へと流れ込んだ言葉はかの観測者たるリリスのもの。

 それに対し、上げた口角で「分かっている、覚悟の上だ」との意思を送り返す英雄がそこにいた。

 やがてその足は、旗艦長と言う座を明け渡す者が待つホール中央壇上へ。

 現艦長も、それを譲り渡せばさらに軍部上層全体を取りまとめると言う、今まで以上の重責が待ち受ける。


「八年の時、私も後悔しきりだった。だが、よくこの道を走り抜けたな……クオン。」


「ええ、その節は迷惑ばかりかけ通しで面目次第もありません。ですが……あなたがあの時、オレを見捨てず待ち続けてくれなければ今日への到達はありませんでした、月読つくよみ准将。」


 すでに旧友を地で行く二人は、あくまで上官と部下のやり取りに終止する。

 されど、もはや彼らは同じ地位から同じ世界を見据え決断を下して行く立場。

 英雄とそれを見やる、組織を越えた絆により繋がっていた。


 程なく英雄が、旗艦のマスターキーとなる認証タグを受け取り振り向いた。

 そこにいるクルーだけではない、これより先に待ち受ける途方もない因果を睨め付けつつ、口角を上げ挑む様な面持ちで。


「クオンさ……サイガ大佐がこれから始める新たな一歩。俺もその門出に間に合わせられたっす。」


いつき君たら、軍部に無理を言ってサーフィング航行を敢行する案をぶち上げたから、私も冷や汗ものだったわよ。けど……この光景を見る分には、軍部が許可を出すのは言わずもがなね。」


「はは……重いものを背負ってしまったよ。しかしそれも、君達……いつき綾奈あやながいてくれたおかげだ。感謝してる。」


 そして視界へ最初に飛び込んだ炎陽の勇者は、ソシャール施設群の修繕任務を熟していたはずも、わざわざこの日のために無理極まる案を用いてそこへ立つ。

 それにはさしもの、同行した双炎の少佐綾奈も嫌な汗に濡れる事となる。


 が、すでに頼もしさしかない二人へ感謝を送る英雄は、残る一人へ胸中に貫く決意を曝け出した。


「ジーナ・メレーデン大尉、よくこんなオレのためにここまでの任務を勤め上げてくれた。オレが自虐の牢獄から抜け出せたのは、君の努力が運んでくれた希望のおかげ。だから――」


「だからあと少しだけ、オレの因果の道中へ付き合ってほしい。その……この任務へ一時の猶予が訪れたその時は、改めて言葉にしたい。構わないか?」


 多くの苦難を乗り越えたはずの英雄が、らしからぬほどに口籠ったその意味を、理解出来ない者はそこにはいない。

 当の言葉を投げられた本人も、笑顔のまま頬を紅潮させて返答した。


 儚げで……それでいて、希望に満ち溢れた面持ちで。


「はい、サイガ大佐! クオンさん……あなたの言葉、先になっても構わないので、それは聞かせて下さい! では、行きましょう!」



 ――ネオJE 星暦 1263年代――

 ムーラ・カナ皇王国擁する中立ソシャール地区、アル・カンデ代表を賜ったクオン・サイガ大佐率いるクロノセイバー艦隊は、新たなる戦いのために部隊を二分しそれぞれの任へ就く。


 そこよりさらなる激動の時代が始まろうとは、まだ誰も予想だにしていなかった。

 そんな彼らの未来を憂いながら……そして賛美しながら――


 観測者と呼ばれた者の高次霊量子からなる歌が、太陽系のあらゆる次元を越えて響いていた。



――――



世界は憂う――

淀み、腐敗、退廃、混沌の只中で――


けれど蒼き不死鳥フェニックスは産声上げて、英雄と共に――

そして赤き巨人アーデルハイド燦然さんぜんと、勇者と共に――


世界は続く、ると――

世界は足掻く、ると――



――――





EXTRA FINAL                 〜〜Fin〜〜

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