x=8 僕は------②

 そろそろ桜が咲いてもおかしくはない季節になりつつあった。軽装を試したくはあるが、スーツが一番落ち着き、何よりも教師らしく僕は感じるのでいつもの服装で学校へと向かうことになる。滝原高校へと電車で向かう最中が何よりも僕の楽しみである。

 学校の生徒は確かに年度ごとに卒業し、そして入学し、決まった流れはあるものの、この単位制高校ではどこか別の高校で馴染めなかったりして、外部編入者の数は少なくない。かくいう僕だって、その一人だった。

 高校生の頃の僕は、入って間もなくしていじめの標的にされた。母親に大きな負担をかけたくないと思い、黙っていたのがあんな結果を招いたんだと思う。僕は自殺を決意し、自宅のベランダから飛び降りた。十二階だったから、地面に直撃していれば間違いなく死んだに違いない。

 けれど、僕は階下に植え付けられている雑木林に落下し、それらがクッションの代わりを果たし、助かった。夜中で真下を注意深く見ていなかった。ほとんど無傷だった。

 僕は実を言えば、その事実さえも母さん隠そうとしていた。だが、見ていた近所の人がいた。母さんは泣きながら僕に学校をやめてもいいと、言ってくれたのだ。

 滝原高校で僕はそれから二年半勉強をしながら、大学進学を試みた。

 そして、今教師になりたいという志はどうにか叶えつつあった。

 先生になると、生徒の嬉しさを共に味わうことができる。悲しみもあるだろうが、それを僕たち教員が支えることだって可能なのだ。


 今日、僕のクラスの生徒が二人大学受験の報告をしに来るだろう。

 川原君と原田さんは、将来教師になりたいと言ってくれた。

 特に川原君は高校生の頃の僕と似ていて姿を重ねることもある。だからこそ、今は駄目でも生きていく過程で少しずつ変われることを知って欲しかった。

 教員室の扉を騒々しく叩く音がした。

「谷川先生、どうにか僕たち二人合格しました」

 その報告だけで僕はとても嬉しく思う。

 これからも頑張れ、と僕は大声で言った。

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