Stage05 濁った水色は深い底にて何を語る?
※ ストーリーの都合上語り手のキャラクターが変わってます。
俺が部活をサボったのは初めてだ。
この演劇部に入部してから実は一度もサボることなんてなかった。
だって、俺が1年の頃から部活らしいことはしてこなかったし、上の学年は部室に来ても、スマホいじったり、雑談してることぐらいしかなかった。
最初は戸惑ったし、他に同級生がいなかったこともあり、俺は1人部室の隅でじっとしていることが、多かった。
演劇部というよりは、ただ暇つぶすだけの集団でしかない。
1回、練習とかやらないんですか? と言いたかったけど、どうも言える雰囲気ではなかったので言えないでいた。
そもそも、3年生とかは幽霊部員が多く、当時の部長ですら誰だか分からなかった。
時間と日にちが経つにつれ、自分もこの状態に慣れてしまい、何もせずじっとしていることが日課になっていた。
俺が2年生になっても、相も変わらずだらだらと過ごす日々。
2人新入部員が入部してもスマホいじったり、喋ったり、何も変わらない。
それにいらだちを感じた、新入部員の1人東四音が、先輩たちに物申した。
「あのここ、演劇部ですよね、なんで部活動しないんですか?」
その場にいた先輩たちは、表情が険しくなった。
こいつ何言っちゃっての? 馬鹿じゃねーのかみたいな。
直接口にしなくても、そんな風に聞こえた。
俺はどうしたらいいのか分からず、周囲から目を逸してしまった。
その後、先輩たちは部室に二度と来ることもなく、自然に辞めてしまった。
多分、俺の推測だけど、あの人たちは内申点が目的で部活入っていれば点数稼ぎになるだろうって思っていたんだろう。
最初から演劇に興味なんてなかったんだ。
まあ、俺も興味あるかと問われて、あると言ったら少し嘘になる。
けど、俺が演劇部に入ったのはある理由があったからだ。
変わりたかった。
なぜ、変わりたかったのか、それは中学まで遡る。
◇
中学生の俺は、地味ながらも5人ぐらいのリア充グループに属していた。
まあ、俺の場合はリア充というよりも、中心的なリーダーにひっついて寄生するキョロ充的立ち位置でいた。
でも、スクールカーストの底辺にいるよりはマシだった。
自分を押し殺し、リーダーに合わせていくことしかできない。
そんな中学時代の日々。
それでも、心から何でも話せる相手が俺には1人いた。
そいつは、親友と言っても過言じゃない。
同じグループで俺と同じ立ち位置の存在。
グループでいることも多かったし、そいつと一緒に2人でいることも多かった。
「滝水、一緒に帰ろう」
「え、みんなは?」
「部活と塾だって」
「そっか」
いつもと変わらない日常が、ずっと続けば良かったのに。
良かったのに・・・
でも、壊れた。
一瞬で。
きっかけは、理科の授業で先生に決められた班で作業していたときだった。
他の友人や親友とも違う班になってしまい、詳しいことは分からないけど、その時だったと今にして思う。
作業が進まず、だらけて俺は親友のいる班に目を向ける。
親友は、親友と同じ班の女子と楽しくお喋りしていた。
俺はうらやましいと思いつつ、女子と喋れるってすごいなあと思いつつ、それ以外は別に気に留めることもなかった。
◇
「え、告られたの」
「そうなんだ、滝水」
「すげえ」
「どうしたらいい?」
親友はその授業からその女子と仲良くなって、相手に告白を受けた。
「えー、付き合えばいいじゃん」
そう、軽く言った。
「でもさ、僕みたいなやつが女の子と付き合って、大丈夫かな?」
「なんで」
俺は頭に疑問符が浮かぶ。
「多分グループで浮くと思うし、よく思わないんじゃないかな」
そうかな?
「滝水は相変わらず能天気だな、けど僕あの娘に好きって伝えるよ」
「いいじゃん」
おめでとうの意味で親友の背中を叩く。
「いたいよ」
「ごめーん」
親友と別れて、家に帰ると携帯から着信音がした。
珍しくグループのリーダーからのメールだった。
たった一通のメールなのに、その内容に愕然とした。
どうしよう、親友に伝えないと。
でも、それがすんなりと出来ない自分がいた。
伝えてしまったら、全ての世界が壊れそうな気がする。
今思えば、学校いや教室という世界で息をする自分にとって、あの頃の俺は、グループの和を乱し、孤立してしまうことを無意識的に怖がっていたんだと思う。
でも、親友がこのままだと、惨めな思いをしてしまう。
どっちも大事なモノだから、どうすればいいか。
あの時いろいろ考えたが、空っぽの俺の頭じゃいい案は浮かばなかった。
◇
「ねえ、次の授業終わったらさ、放課後だから、やっぱりついてきてくれないかな」
親友の願いに少し戸惑う。
「えー、1人でいけよ」
なんとか、いつも通りに振る舞った。
「うーん、じゃあさ、隠れたりして遠くでいいからさ、不安なんだよ」
「え・・・」
この時点で言うべきかと思ったけど、親友は初めての告白で浮かれてるし、リーダーたちはこっちを静かに睨んでいる。
「分かった、見えないとこで見守るよ」
「ありがと」
ごめん。
親友。
本当にごめん。
そして放課後、体育館の裏には親友と女の子、そしてその場所から離れたところにある木の陰には同じグループが2人の様子を隠れて様子を窺っていた。
俺は1人、校舎と体育館間の渡り廊下から不安になりながらうずくまっていた。
「あの、僕も好きです、付き合ってください」
「はい・・・、って言うと思った、きゃはは」
「え」
ああ。
「いえーい、デッデてーん、ドッキリ大成功」
「ザンネンでした」
「うわ、悲しそうな顔、ウケる」
そう、実は彼が事前に計画したいたずらドッキリだった。
親友はそれに気づかず、彼らの思うままにまんまと引っかかってしまった。
なぜ俺だけ、前日まで知らされなかったというと、仲が良いからすぐバレると思われてたからだ。
「あれ、泣きそうじゃん、もしかしてショック受けてる?」
「マジで、私あんたのこと、タイプじゃないし」
女の子はあざ笑いながら言う。
もうだめだ、耐えられない。
「空井くん」
「滝水・・・」
たまらず渡り廊下から飛び出して、声をかける。
親友の目には、微かに涙が浮かんでいた。
「知って・・・いたのかい・・・」
「俺は、昨日メールで、でも」
「そうか、自分だけ馬鹿みたいだ、全てに失望したよ、特に君には」
そう言って、親友はゆっくりと静かに去っていく。
その場に残された俺は、失望という言葉が胸に刺さって動けなかった。
あれから、親友と言葉をかわすどころか目も合わせてくれず、お互い中学を卒業した。
だからあの頃思ったんだ、変わりたいと。
なのに俺は何も変わっていない。
また現実から逃げてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます