Stage04 水色の空に雷


 うちの学校には秋になるとマラソン大会が行われる。

 大会本番は4.5km走るが、大会前の練習として体育の授業だと2km走る。

 授業で走るコースは大体学校の周りを1周走らされる。

 つまり今私たちは、マラソン大会が近いわけではないのに走れというのだ。

「とりあえず、1年生はコース分かんないと思うから、りのと私と一緒に走ろうか」

「はい」

「お願いしまーす」

 西谷さんは私たちに近づく。

「なんですか?」

「悪いがしばらくは、体力づくりに専念してもらう」

 覚悟しろってことか?

 やってやろうじゃん。

「毎日ですか、分かりました」

「ああ」

 きっと、この人にはこの人なりの考えがあるはず。

「じゃあ、四音せんぱーい、コース覚えたら自分のペースで走っていいですか?」

 アカネちゃん余裕そうだな。

 まあ、知らないから無理ないか。

 それぞれ、準備運動をして、スタートラインに立つ。

 よーい、スタート。


 ◇


 走ってからしばらくすると、ペースが掴んできたがいかんせん息が苦しくなる。

 後半に差しかかってくると、体からあちこち悲鳴が聞こえてくる。

 久しぶりに走るけど正直死にそう。

「四音先輩、苦しそうですね」

「そういう、アカネちゃんは、平気そうだね」

 息とか上がってないし、表情もさほど普段と変わんないし。

「中学の時、テニス部だったんで、ランニングとかやってましたし、まあレギュラーになれず、ずっと補欠でしたけど」

「へえ」

 中学テニス部だったんだ。

 でも、この子なんで演劇部入ったんだろう。

「アイちゃん、大丈夫?」

「はい・・・」

「どうした、りの、アイちゃん?」

 走りながら、後ろで走っている2人に顔を向ける。

 アイちゃんがしんどそうな顔をしていた。

「いままで・・・、運動・・・、とか、してこなかったから・・・」

「無理しないで、それに喋ると余計辛くなるから、喋んないほうが・・・」

「アイちゃん、中学の時部活何してた? 帰宅部?」

 おいこら、ただでさえ体力無さそうなアイちゃんに話しかけんじゃねえ、体力消耗するだろうが。

「び・・・じゅつ・・・ぶ」

 言い方が死に間際の言い方だよ。

 しかし、美術部か。

 絵とか、得意なのかな。

 だったら、舞台のセットとか期待できそう。

「あっ、次曲がるよ」

「はい、ってこの道」

 アカネちゃんが戸惑う。

 まあ、私も初めてこのコース走る時思ったから。

「砂利道じゃないですか」

「そうだよ」

 黒羽高校は周りが住宅地と田んぼに囲まれている。

 故にランニングコースに田んぼと田んぼの間のあぜ道がある。

 舗装されているわけでもないし、土だけならともかく、砂利だらけで走りづらい。

「まあ、足つぼだと思えばいいか」

 ある意味、ポジティブだな。

「この道まっすぐ走って、あそこ曲がれば校門前ですよね、あとは自分のペースで行きまーす、ではお先」

 さすが、元運動部。

 万年補欠だったけどな。


 ◇


 走り終え、クールダウンのストレッチを軽くする。

「アイちゃん、大丈夫?」

「はい・・・、なん・・・とか・・・」

 そうは言ってるけど、地面にへたり込んで1ミリとも体が動けなくなってる。

 まあ、最初はキツいよな。

 去年の私もあんな感じだったし。

「ああ、久しぶりとはいえ、体が鈍ってるな」

 対照的にアカネちゃんは軽く息切れしてるだけで平気そうだ。

 見るからに、体力有り余ってそう。

「もう、走るの苦手なんだよね、おムネ揺れて走りづらいし」

 りのちゃん、自慢か、ちくしょう。

 胸が邪魔なら少しでもいいから、分けろってんだ。

「ついでに私の胸のサイズは、エクセレントなEカップです」

「どうでもいい情報晒すな」

 つーか誰も聞いてないし。

 ああ、私は言わねーぞ。

 どうせ、損しかないし。

「これで、全員走り終えた・・・はずだよね?」

 一応、人数を確認する。

 ひー、ふー、みー

 あれ、1人足りない。

「はあ、ぜぇー、ぜぇー」

 え、滝先輩。

 とっくにゴールしてたと思ってた。

 先輩は走り終えた瞬間、地面に勢い良く倒れ込む。

 ウソでしょ。

「先輩、大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁ、もうダメ」

 声が微かで聞き取りづらい。

 体力無さそうだなって、思ってたけど。

 女子より遅く着くだなんて。

 しかも、ビリケツ。

「おい、滝水立て、誰が休めって言ったか?」

 それは何でも。

「ひどいですよ、その言い方」

「東は黙れ」

 西谷さんに睨まれる。

 こうなると従うしかない。

「自分で立てないのか、滝水じゃあ」

 西谷さんは、滝水先輩の後ろ襟を掴み、無理やり起こす。

 そこまでするかな、少しでも休ませたらいいのに。

 滝先輩はふらふらしながらも、立ち上がる。

「さて、次は筋トレ」

「え!」

「な!」

「うっそ!?」

「中学の時のテニス部かよ」

 まだ、やるの?

 私もう無理。

「・・・ふざけんなよ」

 滝先輩?

「どうした滝水」

「こんな、醜態晒して今度は筋トレだぁ? ふざけんなよいい加減にしろよ、俺達は運動部じゃねえ、悪いけど俺はもう帰る」

 そう感情を露わにし、叫ぶ。

 本当に、滝先輩はその場から去っていった。

 初めてかもあんな風に怒る姿、いつもはおちゃらけていて、楽しそうにしていた人が。

「あんだけ言えんなら、筋トレぐらい余裕だろうに、そうそう脱落するとはな」

 この人は人の気も知らないで。

「よし、筋トレ始める、腹筋30回、背筋30回、腕立て20回」

 うわあ、走ってあとなのにキツい。

 まあやるしかないよな。

 いやいやながらも、その場にいる私たち全員は言われた通りにやる。

 翌日、放課後の部活に滝先輩は来なかった。

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