Stage03 白は微かに濁る

「じゃあな、おつかれー」

「「おつかれさまでーす」」

 滝先輩はチャリを漕いで去っていく。

 先輩以外はみんな電車通学なので、私たちは駅まで歩く。

「アカネちゃんさっきは緊張したね」

「ねー、私心臓ぶっ飛びそうだったわ、つーか吹っ飛んだ」

「えー、ウソ!」

「ウソだよ」

「よかった」

 いやそこは普通にウソだろ。

 ていうか、あの状況で変顔した時、私が心臓ぶっ飛びそうだったわ。

「四音ちゃん、これからどうなるんだろうね」

「とりあえず、りのちゃんは下ネタ控えてね」

「りーむーからのむーりーです」

「反省して」

 まあ確かにどうなるんだろうな。

 空を仰ぎなから歩く。

「やっぱだめか、下ネタでもそれだとキャラが薄いからなあ」

「いや、あんたかわいいじゃん」

 知ってるだからな月に3回の頻度で、男女問わず、告られてること。

「だって、私のこのかわいらしい魅力を言葉で表現出来ると思う?」

「人のこと言えんが、メタ発言やめろ」

 ていうか作者もペンを投げるな。

 ちゃんとキャラの魅力伝えろ。

 ていうかいいのかキャラに下ネタ言わせても。

「はあ」

 今日はいろいろありすぎて、ついため息が出る。

 ポッケに手を入れた。

「あれ?」

 いつも制服のポッケにあるはずのものがない。

「どうしたんですか、東先輩?」

「いや、Suicaがない」

 一応カバンも確認するが、見当たらなかった。

「ごめん、学校戻るわ、おつかれさま」

「おつかれ、四音ちゃん、みつかるといいね!」

「「おつかれさまでーす」」

 私は走って戻る。

 今月小遣いピンチだから、出来れば余計な出費は避けたい。


 ◇


「あ゛ぁ、づがれだー」

 結局Suicaが見つかったのはいいが、走ったせいで息が荒くなる。

 大分暗くなったな、お母さんに怒られる前に家に帰ろう。

「どういうこと」

「ふん、お前には関係ない事だ」

 私は公園を通り過ぎようとしたら、やたら大きい声が聞こえた。

 この声は西谷さんの声だ。

 しかも、もう1人いる。

 野次馬根性で私はおそるおそる、身を潜め近く。

「復讐って、この前言ってたけど、アレ本気?」

 復讐? どういうこと?

 というか、もう1人の人どっかで見たことある。

 ような気がする。

「冬丸、私は本気だ、復讐も、演劇部の指導もな」

 あっ、冬丸で思い出した。

 地元出身の女優さんで、何年か前はドラマとか映画に出てた人だ。

 でも今は地元のローカル番組でしか見ないけど。

 何でこんなところ西谷さんと冬丸さん言い争っているんだろう?

「 ねえ、やっぱり10年前のこと・・・」

「冬丸凛夜、私を止めようしても無駄だ、それに10年前のことは口に出すな」

「・・・、私はただ」

「それより、自分のことを心配したら、どうなんだ?」

「どういうことよ」

「冬丸、女優なのに全然芝居の仕事がないらしいな、何なら私の力で局の偉い人にかけあおうか?なんなら、知り合いの監督にでも」

「冗談じゃない、もういい好きにすれば」

「そんなに、怒るなよ、冬丸」

 冬丸さんすげえ憤慨してるけど、西谷さん嘲笑ぎみじゃん。

 って、やばいこっち来る。

 退散、退散。


 ◇



 昨日の2人の会話が気になるが、私は部活に集中するため気合を入れる。

「おはよー」

「りのちゃん、おはよう」

 演劇部は放課後でも、最初に会ったらおはようと挨拶する。

 これ一体誰がやり始めたんだろう。

「今日はやる気だね」

「まあね」

 西谷さんと冬丸さんの会話で復讐だの何なの色々気になるワードが、頭から離れないが今は部活に集中だ。

 今日から本格的に部活らしいことが出来るんだ。

 やっと、やっと練習が始まる。

 これまでの遊んでいた日々ではない。

「りの先輩、四音先輩、おはようございます」

「おはようございます、先輩方」

 1年生2人が来た。

 あとは滝先輩だけか。

「ういーす」

 挨拶はおはようございますだろうが。

 ていうか、どこのチャラ男だよ。

「先輩おはようございます」

「もうみんな集まってんじゃん、よっしゃトランプしようぜ」

 全くこの人は。

「今日は部活に専念しましょう、先輩」

「えー、ちょっとだけ、ちょっとだけやろうぜ」

 ていうか、この人単に部活したくないだけなんじゃないのか?

 こんなやり取りしていると、突然ドアが大きく開く音がする。

「全員いるか」

 低音ボイスを部室に響かせながら、西谷さんが現れる。

「急いで制服からジャージに着替えろ、校門前で待っているからな」

「あ、はい・・・」

 まさに有無も言わさず。

 私たちは西谷さんの指示に従う。

 西谷さんはこの場を去っていき、私たちはジャージに着替える。


 ◇


 学校の校門前に演劇部全員が集まる。

 これから何すんの!?

「よし集まったな」

 西谷さんは、私たちに目を向ける。

 目の圧半端ない。

 これ、目で殺されるんじゃないか。

「いまから、学校の周りを1周して来い」

「え?」

 今なんて!?

「東は難聴なのか?」

「違いますよ」

 聞き返しただけです。

 ラノベの男主人じゃあるまいし。

 ってもう古いか。

「いきなりですか!?」

「無理です」

「反対」

 気持ちはわかるけど、各々で文句言うじゃねえ。

「もちろん、準備運動してからだ、でないと怪我するだろ」

 いや西谷さんそういうことじゃなくて。

「なんで、演劇部なのに走らなきゃならないんですか」

 滝先輩が西谷さんに食ってかかる。

「黙れ、もやし」

 滝先輩が、一瞬怯んだ。

「なんで力のないやつ揃いも揃って、ぎゃーぎゃー騒ぐな、特に滝水」

「・・・はい」

「貧相にして貧弱なやつが、威張ってんじゃねえ、私に楯突くならせめてマシな体力つけてからにしやがれ」

 滝先輩は苦虫を噛み潰したかのような顔をする。

 そんなそこまで言わなくてもいいんじゃないかって思う。

 でもこの様子だと、私たちに拒否権はなさそうだ。

 それでも、私の中でなんか先行き不安になってきた。

 

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