Stage02 色とりどりの部員たち


 静寂は短くとも長く、長くとも短い。

「そうだ、みんな自己紹介しようか」

 伊東先生はパンと両手を叩き、提案する。

「じゃあ、1年生から」

「ちょっと待ってください先生、普通上の学年からでは?」

「普通じゃ、つまらないでしょ、それに2年生の東さんは順番的に関係ないし、なんなら先にやる?」

「いや、いいです」

 つまらないって、そんな理由で?

 まあ、1年生には悪いけど、トップバッター流石に無理だし。

「というわけで、1年生の2人から自己紹介お願いします」

「「は、は、はい、い、い」」

 2人共緊張で、おかしな返事になってる。

「どうする、どっちからにする、アイちゃん?」

「アカネちゃん先やってよ~」

「えー、私もヤダ」

「じゃあさ、じゃんけんで決めよ」

「うん」

「「最初はグー」」

 じゃんけんが始まったのはいいが、連続あいこが9回続き、最後の10回で勝敗が決まった。

 つーか、長えよ2人共、どんだけ仲良いんだよ。

「えー、これって負けた方から?」

「当たり前じゃん、ほら」

「えー、ちょっと、もう」

 彼女は、大きく息を吸い、吐く。

「長岡藍那です、これから、よろしくおねがい、しましゅ」

 最後噛んでしまったな、まあしょうがない。

「ああ、こちたこそ」

 え、西谷さんもへんな発音になったよね。

 わざとかな?

 この人なりの気遣いだろうけど、真顔で言うから、空気がより重い。

「あはは」

 滝先輩、その愛想笑い、逆効果です。

「新発田茜です、よろしくおねがいします」

「ああ、よろしく」

「特技披露します」

 え? アカネちゃんここで!?

「変顔します」

 ちょっと待って、変顔伝え辛いから、やめて。

「では、行きます」

 首を傾け、白目を見開き、口を半開きした。

 変顔するなら、せめて笑えるやつにしてよ。

 サイコパスかよ、ホラー映画の殺人鬼じゃん。

「これは、なかなか」

 え、いいの?

「以上です」

 顔を戻し、アカネちゃんは一礼する。

 ああ、今度私たちか。

「どっちからにする、りのちゃん」

「ここは四音ちゃんでしょ」

「私? わかった」

 私は姿勢を西谷に向ける。

「東四音です、よろしくおねがいします」

「で?」

 で?

「君は何かないのかい」

「いやあ、わざわざここで披露することでもないし、必ずやれってわけでもないし」

 ん? 待てよ、何かやんないとだめか。

 しかし、何をすればいいんだ。

 私、これといって、一芸を持ってるわけじゃないし。

 どうする。

「何もないなら、いい」

「あ、はい」

 これは、これで、印象悪いな。

「じゃあ、今度は私ですね、イエイ」

 りのちゃん、テンション高くね?

「桃屋りのです、初めまして、好きなのはバナナ、チェリー、下ネタです」

 この状況で何言ってんの!?

「おいバカ、桃屋空気読め」

「空気嫁? えー、滝先輩えろーい、誰もオ○ホの話なんかしてませんって、空気読んでください」

 ノリノリで爆弾発言しやがった。

「いやだから、そうじゃなくてな、今真面目なとこだから、下ネタぶっかけるなって」

「ぶっかけるって、先輩いやらしい、変態ですか?」

「おい待て、なんで俺が変態扱いされなきゃならないんだ、俺何一つ変態発言してねーからな、そもそも変態じゃねーし」

 滝先輩、変態変態うるさい。

「え・・・、その歳で、イン・・・」

「はいストップ」

 強制終了。

 これ以上はやばい、ていうかこっちまで恥ずいというか、気まずいというか。

「うむ、とても面白かった、夫婦漫才」

「夫婦じゃねーし」

「そうですよ、滝先輩みたいなむっつりタイプじゃないですし」

「むっつりでもねーよ、俺は紳士だ」

 どこが紳士だよ、そんな要素これっぽちもない。

 もうなにこれ・・・。

「って、次俺か!?」

 滝先輩は大袈裟に周りを見渡す。

 いや、そりゃそうだろうよ。

 3年生はあんた1人しかいなんだから。

「えっと、滝水翼です、唯一の3年で、この演劇部の部長やってます、これと言って特になにもないですけど、去年この学校の非公式イケメンコンテストで7位のドイケメンです、よろしくおねがいします」

 いや堂々と言ってるけど、7位って結構微妙だから。

 しかも、顔がドヤってるし。

「ついでに私は、去年の非公式ミスコンで3位です!」

 りのちゃん、しゃしゃり出ないの。

「ハハ、よろしく」

 これで全員の自己紹介が終わったわけだけど。

 これからどうするんだろう。

「よし、これでみんなのことが少しわかった」

 西谷さんはそれぞれの顔を見る。

「明日から本格的に指導を行う、今日はここまでにしよう」

 自己紹介だけ!?

 でも、部活が終わるまで、まだ時間がある。

「あの」

「なに、東四音さん」

「明日はどんなことするんですか?」

「それは当日知らせる、とりあえず各自ジャージ用意するように、ではまた明日」

 ゆっくりと杖をつき、西谷さんはその場を去っていった。

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