あかいみはじけた 18

「初めて……盛ってるって言われなかったぁ~~」

 扉を閉め、緊張が思わず緩みそうになる心を叱咤してリウは直ぐに行動を開始した。もちろんプレゼントなど無い。自分は彼氏でもサンタでも無くただの泥棒なのだ。ハンナが在室していたときに一度引き返すための材料として用意した小道具だったが、役に立って良かったとゴミ箱にそれを投げ捨てながら感謝する。控室は壁一面が化粧台となっておりさっきまでハンナが過ごしていたのだろう、ファッション誌や飲みかけの高級な精製水が散らかりっぱなしになっている。そこに革張りのブランド物のバックがあるのをリウは目に留めた。明らかな私物、リウは飛び付いた。

「どこだどこだどこだ……!」

 大きな音を立てないように気をつけながら化粧台のバックを漁る。何時ハンナが戻ってくるかと思うと気ばかりが焦る。

「頼むから置いててくれよ」

 シンデレラティア、あれだけ大きな宝石だ。肌身離さず持っているとインタビュー記事にも載っていたし、此処にない可能性のほうが余程高い気がしたが、ゼロは絶対に楽屋に置いてあると確信していたようだった。今はその言葉を信じるしかない。

「あっ……!!」

 願いが届いたのか、奇跡は起きた。リウの爪が小さなボストンバックの底に掛かり、巧妙に隠された二重底を引き剥がしたのだ。そこには正方形の木箱。思ったより軽い。不安を覚えながらもリウは震える手でその箱を開いた。

「これが……シンデレラティア」

 青く輝く宝石が、花弁をあしらった精密な金細工の台座の上で輝いていた。

 急いでリウは木箱ごとコートの隠しポケットにシンデレラティアを突っ込むと、少しでも盗難の発覚を遅らせようと鞄の底を戻す。居住まいを正して楽屋を出ようとドアノブを握り、そこでゼロから再三に渡って念押しされていた事をリウは思い出し、ノブを回す直前でぱっと手を離した。

「そうだ、これが仕上げだっけ」

 リウはゼロから渡されていた瓶を取り出して蓋を捻ると、その中身を楽屋の床にぶちまけた。ライスシャワーを撒くような軽い音。

 中に入っていたのは、大量の小さな赤い粒だった。

「これ……」

 転がり床を跳ね回って広がって行く一粒をそっとリウは拾い、その正体を知って目を見開いた。

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