あかいみはじけた 13
水と光さえあればいい、と彼女は言っていたが、ビルが立ち並び日照面積が着実に狭くなっている今、現実的にはそれだけで生きていけない。
「にー!クーはピンクのがいい」
「はいはい」
クーの小さな手に栄養剤の注がれた蓋付きのコップを持たせる。突き出たストローの先をクーが吸って嬉しそうに目を細める。日光を浴びられない不足分を、プランツは栄養剤の添加で補って生きている。安くて粗悪な化学合成品ばかりを摂取することは身体に悪いと分かっているが、ジャンクフードになれた兄弟はついついこんな物ばかり摂取してしまう。
「あまいのー」
「甘いのか。兄ちゃんは甘くないのがいいな」
そう言ってリウは精製水を手に取った。景気付けにエタノール含有のものでも頼もうかと思ったが、夜までに酔いが抜けなかったら目も当てられないので流石に控える。
「良いもん食ってこいって言われても、こう注目されちゃあなあ」
縁眼鏡と帽子で隠しても尚、偶にじろじろ顔を見られる事に辟易したリウは外食をする気にもなれず、結局スーパーで固形肥料や水を買い込み早々にアジトに戻ることにした。膨らんだ紙袋を抱え、スラムへ足を向ける。だんだんと人気が無くなっていく中、クーが急に声を上げた。
「にー!みどりのテープだよ!あかちゃんだよ!」
路上の隅に赤い三角コーンが並べられ、緑色のKEEPOUTと印字されたテープがぐるりと張り巡らされていた。よくある継代(コピィ)の光景だ。
「にー。なんであかちゃんできるの?」
テープを見つめながら、クーが不思議そうに首を傾げた。
「うーん……」
リウは言葉を濁す。
それを説明するということは、生まれる、と同時に死ぬ、を説明することになるからだ。
プランツは出産をしない。
だから人間のように結婚という正式な制度も無い。ただ、保育者(ガーデン)制度があるから愛は知っている。
ただ、何をどうしてもプランツの間には子供は生まれない。
それでも、プランツは絶滅しない。
出産はしないが、赤子は生まれるからだ。
その理由が継代(コピィ)だった。プランツはその身から命が失われ骸となったその時、自身の肉体を苗床に変化させ、自身の分身ともいえる種をその中に抱く。遺伝子的に全く同じ、だが記憶がまっさらの状態に戻った自らを生み直すために。
「にー!クーあかちゃん見たい!」
クーがとてとてとテープに近寄っていく。慌てて追うと、そこには苗床と、それに寄り添う青紫の花弁を垂らしたプランツが居た。擦り切れたシャツとジーパン、溝のなくなったボロボロのスニーカー。自分達と同じ雑草プランツだ。
「あかちゃんまだ?」
「ああ、あと一寸で出てくる……ってあんた!?」
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