あかいみはじけた 11
『ねえリウ。月(ムーンサイド)に行けば、淫らで汚れた灰被りなんて言われなくなるのかしら?』
彼女は生まれつき花弁の色が白っぽい形質のタンポポだった。だけど俺はその優しい色が、柔らかな月の光のようで好きだったし、実際に何度もそう言って彼女を褒めていた。
二人の住む町は中央の息がかかった保守派が権力を持つ街で、そんな中で蒲公英の形質を純正に保っていない彼女は蔑まれるべき対象とされた。馬鹿みたいに黄色い自分を、彼女は何度か羨んでいたのを覚えている。
それでも塞ぎこむ彼女を慰め、それならば二人でお金を溜めて月(ムーンサイド)に行こうと提案した。種の優劣など存在しない其処に行けば、彼女が悲しむような事はなくなるとリウは思ったから。
彼女の蔵書の中で一番ぼろぼろになるまで読まれていた童話の、嘘と本当とも知れぬプランツの楽園を指差して、一生懸命リウは彼女を励ました。
『無理よ。私達のお給金だけじゃ一生掛かっても月(ムーンサイド)になんて行けないわ』
なら、何代かかってでも俺が連れて行く。そうリウは彼女に誓った。継代(コピィ)を続けてもずっと彼女の傍にいて、必ず何時か君を月(ムーンサイド)に連れて行くと。半信半疑だった彼女も、その言葉にやっと微笑んでくれた。
『じゃあ、リウが継代(コピィ)するときは必ず私が保育者(ガーデン)になるわ。だから私が継がれる時、絶対傍にいてね』
それは、呪いにも似た誓いだった。
後にプランツ同士が結婚をしない一番の理由が、その言葉に集約されていたと知って、リウは思わず笑ったのを覚えている。連綿と続く継代(コピィ)というシステムに耐えられる程、プランツの精神の方はまだ堅牢に進化していなかったのだ。
だが当時そんな事等知らなかった二人は、少しずつお金を溜めて、日々を幸せに紡いでいた。
この手を離さないで。
彼女は冗談のようによくそう言って微笑み、リウの手を握っていた。
彼女はリウと暮らすようになって、弱くなった。
恋を知って愛を知って、とっても弱くなった。
この手を離さないで。
彼女自身もそれを理解していた。
だけど彼女は、それを一度も恨むようなことは言わなかった。
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