あかいみはじけた 6
「やあ!ロックじゃないか!」
唐突にかけられた声。二人はびくっと肩を跳ねさせると素早く振り返った。
「あ……お取り込み中だったか?それにしてもお前はいっつも違う女といるよなー」
逆光の中、こちらに手を上げているのは柔和な顔をした若いヒトの男だった。黒髪には天然なのか緩くウェーブがかかり、着慣れた舞踏服は細かく縫い取りがされた如何にも高級な代物だ。
「あぁ」
エルザに肘で脇腹を突かれた。横目に見ると彼女も緊張で唇が微かに引き攣っていた。どうやら本当に想定外の事態らしい。
「長居し過ぎたわね。適当に流して逃げるわよ」
堅い声にリウの鼓動が更に高まる。だが最高の練習試合だと思い直しごくりと唾を飲み込むと、男に向かってリウは笑顔で手を振り返した。
「よう、見ての通りこれから海辺でアバンチュールだ」
「またか。程々にしとけよ、お前この前も隠し撮りされてただろ。いくら交雑(セックス)で種に革命を!なんて掲げても保守派からすればただの乱痴気騒ぎだ。しかもその子、ヒトじゃないか」
「そのアドバイス、肝に命じておくぜ」
そう言ってエルザの剥き出しの背中に手を添えると、男の横をなるたけ自然に通り過ぎ、大広間を通り外に出ようと足を進めた。走り出したい気持ちを抑えるので精一杯だ。
「もうちょっと……!」
入り口付近がざわざわと騒がしい。人ごみの中をすり抜けようとすると、陽光のように輝く黄色い花弁が視界を過ぎった。
「お?」
「へっ?」
そこには、着崩した黒いタキシードに身を包んだ、リウと全く同じ顔があった。
「うっわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
終わった。
頭が真っ白になったリウは思わず叫んでいた。咄嗟にエルザが悲鳴のバトンを繋ぎつつ、手首に巻いていたブレスレットの宝石を指で押し込む。
「火事っ、火事よぉぉ――――!!」
それが引き金となり、仕掛けていたテーブルの裏の小箱から、凄まじい勢いで白煙が吹き出した。会場は軽いパニックが沸き起こった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
人間の、その中でもプランツの叫び声が大きく響く。それは火を絶対的に恐れる者の本能が発させる悲鳴。場はさらに混沌さを増してパニックは周囲に伝染する。
「いやぁぁぁぁぁ」
「慌てないで、プランツの皆さんを優先して外に!」
係員の声も無視して人々が出口に殺到する。人でごった返す中、エルザと離れてしまったリウはもみくちゃにされながら外へ出ようとするが右も左も分からない。そんな中、急に伸ばされた手がリウの手首を掴んだ。人垣を強引に割りながら引き摺られ、人の塊から何とか生還する。
「こっちだ!」
混乱した思考のまま、相手の背中を追う。
夜の帳は、ますます濃く喧騒を包んでいた。
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