あかいみはじけた 2
『君達に会えた喜びはこの海を駆け抜けて星を一周し俺の心に届いてる!アイラブ君達!ユーラヴ!?』
『『『ロックゥゥゥ―――!!!!』』』
なんだこの茶番は。勘弁してくれ。リウはげっそりとした表情でソファに腰掛け、ノイズ交じりのブラウン管を凝視していた。本当は背もたれに寄り掛かりたい位だったが、このバネの突き出た拾得物でそんなリラックスした姿勢はとても無理だった。曲げた膝が当たるほどの低い距離にテーブルがあり、その上には『俺の綿毛にノッていけ・雑草魂ワンマンライブinシーサイドドーム』のDVDケースが転がっている。
『今日もロッキンな夜をウィーゴーしてヘブンに行こうぜ!』
「いやそこはゴーか行こうで統一しろよ!っていうか何で二回行こうって重ねてんだよ」
『『『キャアァ―――――♪』』』
「だからなんでその台詞にテンション上がれるんだよ……」
死んだ魚のような目をリウは何度も擦る。何故自分は録画された映像に此処まで突っ込めるのか、突っ込んでしまうのか。
「だって……これ完全俺だもん……」
スポットライトに照らされ、波のようにうねる観客に囲まれているのは、紛れも無く自分。顔だけは自分だ。
「にーもえもえだねえ♪」
横では床に座り、これもまたゴミ捨て場からの拾得物である積み木で遊んでいたクーが、何時の間にか目をキラキラとさせて一緒に画面を見つめていた。
「あのなクー。これはリウ兄じゃないんだよ。わかる?俺クーとずっと一緒に居るだろ?」
説明するも四歳児に何が分かろうか。画面で踊る兄にそっくりのアイドルに「きれーねぇ」と視線が釘付けだ。
リウは此処だとばかりに深呼吸をして、びしりと右手を銃の形にしてクーに突きつけた。四方八方に置かれている集めてきた罅割れた鏡に、DVDで見ていたままの雑草魂のボーカル・ロク(愛称ロック)の偽物が無数に映り込む。
不知火の曜に仕事を引き受けてから四十八時間、不眠不休でDVD及び録画されていたMTVのロック出演回をリウは見続けていた。すでに木蓮の曜、決行の日は明日へと迫っている。根が真面目なリウはじりじりと消化されていく時間への焦りから、一睡もせずにさらにテレビへと齧りつくようになっていた。そんなリウの徹夜明けの目には、罅割れ曇った鏡の鈍いきらめきもミラーボールの光と見紛ってしまう。
自分はロックだ、自分はロックだと自己催眠をかけ続けていたリウは、ついに現実を書き換えるべくその手を狭い室内に舞わせた。
「ヘイ!そんなスモールな俺を見つめてないで、こっちを向いてよハニー☆」
「きゃう♪にーかっこいい!」
白いぼんぼり頭を揺らして喜ぶクーに気持ちの良くなったリウは、勢いのままにさっきまで見ていたDVDの台詞をポーズと共に妹に披露する。普段なら絶対に言えない薄ら寒い言葉も、笑うクーだけが観客ならば意外とノリノリで真似出来きるのが恐ろしい。
「トゥナイトはまだまだ終わらねえ!さあ次の曲は――」
天を指差すリウの後ろでコンコンと戸を叩く音。振り返れば開きっ放しのドアに凭れ掛り、口元を押さえ笑いを堪えるエルザがいた。
「あらら?結構上達してるじゃない♪」
はち切れる寸前の風船のごとく膨らむ頬から、ぶふっと耐え切れなかった笑いが漏れ出る。リウは無言で超高層ビルの成れの果て、その三十四階から天国行きの透明なエレベーターに乗るべく硝子の無い窓枠に足を掛けた。
「エルザ。ゼロにミッションインコンプリートってテルしといてくれ……さあ、これが俺のネバーエンディングストーリー!!」
「待った待った待った!キャラが抜けきってない挙句、混乱しすぎて言ってること意味わかんないよ!」
「やめろー殺してくれ!!こんな哀れなルシファーの俺を見ないでくれ!」
「ぜんっぜん、意味わかんないんだけど!?」
リウのジャケットの裾を引っ張り安全圏まで連れ戻したエルザは「ごめんごめん」と顔の前で手を合わせる。その頬がまだ木の実、いやこの場合笑いを溜め込んだ栗鼠のように膨れていたがリウは努めてそれを見ない振りした。自分についた心の傷にも。
「でも良かった!ずーっと雑草魂のDVDとかテレビとか見てるだけで全然練習して無さそうだったから。もうばっちりじゃない……くくっ」
顔を真っ赤にしてリウがエルザの小さく丸った背を、何かを決意した目でリウはトンと押す。
「あんま引っ張ると俺、目撃人なんていませんでした、っていう状況を作り出すために犯罪に手を染めちゃうかも……」
「物騒だなあリウくんは~そうそう!」
ひらりと身をかわしてリウの右側に回りこむと、彼女は魅力的な丸い目でリウを覗き込んだ。
「その一夜漬けの成果、一回確認しとく?」
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