もえないひと 26
「きゃっ、あの人超萌えるんだけど!」
「ホントー!!でももう一人の人萎え萎え~声掛けにくい~」
「っていうかあのタンポポのヒトもしかして……」
刺さる。視線が。
爪楊枝のようにちくちくと。
「……なあゼロ、さっきから俺異様に見られてる気がするんだけど……」
やはり服の着方がおかしかったのだろうか。重ね着など防寒の為ぐらいでしかしたことがない。間違えているとしても許してほしい。リウは俯いて着ていたコートの襟を口元まで引き上げる。
「ん――やっぱり俺の思い込みじゃあないみたいだな。よかったよかった!」
ゼロはポケットからニット帽とサングラスを取り出して「つけとけ」とリウに投げる。
「にー?」
まるでこれから押込み強盗でもしようかというリウの変装に、真新しい白いワンピースの裾を揺らしながらクーが不思議そうに瞳をくりくりと動かした。先ほどの美容院で伸び放題だった花弁は木の実のように丸みを帯びたボブに整えられ、そのシルエットと合間ってシロツメクサに見えなくも無い。どうやらゼロが気を利かせたオーダーをしてくれたようだ。その本人といえば、どれだけ高級そうな店に入ってもフードを一度も下ろすこと無く、今も遠巻きに道行く人から不審な目を向けられている。
「そろそろ説明してもらおうか。ゼロ」
金の入る仕事の事、急に身なりを整えさせられた事。まだ何も詳細は聞いていない。
サービスだ、などと言われてはいるものの、それが何の意味も持たないと信じられるほどリウも呑気な性格ではない。
「おー。もう一人仲間が居るからよ、とりあえず待ち合わせ場所についてからな」
程無くして着いたのは、青空を突き刺すように聳え立つ高層ビルだった。
「おっ……おい。こんなとこ」
「今の君等の見た目ならなんら問題ない」
「いや、ゼロ、お前が問題大有りだろ!」
「だーいじょうぶ。俺は此処顔パスだからよ」
パスも何も、そもそも殆ど顔を隠してるじゃないか、というリウの心中での突込みなど露知らず、ゼロは磨き抜かれたガラス張りの自動ドアを潜る。驚くべきことに両サイドに立っていた屈強な体躯のガードマン達は、不審者丸出しの彼を拘束することもなく軽く会釈し通した。
「な?」
「あんた……一体何なんだ?」
「なんでもない、善良な一市民さ。善良過ぎて、此処のオーナーの奥さんが襲われているところを咄嗟に助けちまうくらいにはさ」
エレベータに乗って目的地に辿り着く。
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