もえないひと 22
「きゃあぁぁぁ!!」
「離れろ!燃え移るぞ!」
道を歩いていた人々が叫び逃げ惑う。特に顔面を蒼白にして算を乱すのはプランツ達だ。自身の燃え易さ故に本能的に炎へ拒否反応を示す為、大の男であろうとも走り出さずにはいられない。
「がががっ……ぎゃぁぁ……!!」
火柱の中に見える黒い人影は、壊れた機械のような声を気管から漏らしながらよろよろと路地から通りへと進み出た。助けを求めるように両腕を突き出すが、燃焼は止まることなくぐずぐずとその影を小さくしていく。
「クーッ!」
リウは急いでクーを抱き寄せた。小さな頭を自分の胸に押し当てて、その凄惨な光景を見せまいと背中を丸めて蹲る。
「こんな白昼堂々焼殺とはねえ」
火柱を中心に放射線状に人が逃げ出す中、ゼロは波に逆らって泳ぐように、その中心へと向う。
「ゼロ!?」
リウの叫びを他所に炎の前まで近づいたゼロは、そっと燃える人影に両手を差し出した。
「来いよ。一人で燃え尽きるなんて寂しいだろ?」
「うっ……うぅ……」
その声を頼りに、真っ黒に炭化した腕が伸ばされる。ゼロは躊躇いなくその腕を取って抱き締めた。慈愛さえ含んだ穏やかな笑みが彼の顔に浮かぶ。
死神が亡霊を抱き寄せる、不思議な光景だった。
「おやすみ」
一瞬にして腕の中にあった身体は、ゼロの身体をすり抜けるように崩れ落ちた。
「……バイバイ」
地面に僅かに積もった灰はまだ燻って白い煙を吐き出している。その煙が消えきるまで、ゼロはその場に立ち尽くしていた。
「ゼロ!大丈夫か!?」
駆け寄ったリウに肩を揺らされ、緩慢な仕草でゼロの顔が持ち上げられる。
「大丈夫だ」
淡々とした動作で服に付いた灰を払うゼロ。フードの縁から僅かに覗く白い頬や、服を叩く手には火傷一つ見つからない。服に焦げ目さえも付いていなかった。
「これ耐火スーツなの。特別製」
視線に気が付いていたのか袖を揺らし、ゼロはリウを見ることなく言い訳じみた返事をする。気味が悪いと思いながらも、リウは彼が無傷だったことに安堵した。
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