もえないひと 21

 だが大改革(オールリセット)は偽りの改革だ。五百年たっても自分達雑草プランツはそう叫ぶ。所詮プランツの解放はヒト側の都合によって起こった出来事。肝心のプランツの感情など置いてきぼりで進められた為に、プランツは種の希少価値によってヒトの手で一方的に階級が割り振られ、その恩恵を受けたのは美しく珍しい種の者だけだ。じゃあ奴隷のままでよかったのか、とヒトは論じるが、奴隷制度など知らない現代の自分達に比較は難しい。だからといって現状に対する不満を、体感していない過去によって払拭することはできない。

「死神オルカだ」

 小さくも棘を含んだ声にリウは知らず俯いていた顔を上げた。周りを見ると、ゼロを見た瞬間に死んだような顔をしていた者がそそくさと逃げだしたり、ひそひそと囁いたりしている。

「またオルカか」「まさに海の悪魔だ……早く在るべきところに帰ればいいものを」「いや、亡霊だろ?」「火の海を泳ぐ海獣だよ」「いや火を操る死神だよ……恐ろしい……」「ああ、恐ろしい……」「死神だ、目を合わせると燃やされるぞ」「殺されるぞ」「こわいこわい」

 肩を震わせてゼロは笑う。可笑しくて仕方ないと言うように。

「もう二つ名ってレベルじゃねえよな。ブレッブレじゃん」

「悪魔だとか亡霊だとか、お前どれだけ怖がられているんだ?」

「っていうか都市伝説?見たいなもんか?皆、俺が実在してるって思ってないみたいだし」

「こんな図々しい都市伝説があってたまるか。もう少し存在感を希薄にして言いなよそういう事は」

「言うねえ、死神に」

 その引き攣ったような笑いさえも周りの恐怖を増長していることに本人は気付いているのかいないのか。生きた伝説は悠々と通りを抜け、東側の中流区画に入ろうとする。

 その時、空気を裂き絶叫が空を駆けた。リウとゼロが跳ねるように顔を声の元へと向ける。店舗の間の細い路地に、火柱が一つ上がっていた。

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