もえないひと 19

「紛れも無い事実で、君等雑草プランツには夢のような真実だ。この燃え盛る太陽(サニーサイド)からの唯一無二の逃げ口なんだからな」

 嘲笑される覚悟で問うたリウの言葉を、あっさりとゼロは肯定した。

「ただ、その月(ムーンサイド)行きの航空便のチケットの値段が、下々の者達からすれば目の玉がお空のお月様にまで飛んでっちまうほど高いんだけどな」

 肩を震わせてゼロが笑う。

「そんなに高いのか?」

 恐る恐る聞いた金額は、成程、自分のような雑草プランツには一生掛かっても到底手に入らない金額だった。

「ちなみに、この子売ればお前一人分位のチケットにはなるぜ?」

 何時の間にかゼロの肩を滑り降りたクーが、傍らに座り込み船を漕いでいる。リウはゼロの言葉に血相を変えてクーを抱えこんだ。

「駄目に決まってんだろ!月(ムーンサイド)に行きたいのは、クーを自由にするためなんだ!!」

 黄色い花弁を逆立てて睨み付けてくるリウに「やっぱり似てる……」と呟くゼロ。長くだぶつく黒い袖から骨と皮ばかりの細い手を出して、害意は無いとアピールする。

「凄いね。白花個体の保育者(ガーデン)なんて荷が重いだけだろうによ。そんなに必死になって」

「五月蝿い!」

「大体花の色が違うなら少なくともリウとクーは別株なんだろ?自身の継代(コピィ)に繋がらない子なら変に知恵をつける前に売っ払って……」

「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!ヒトに何がわかる!クーは絶対に誰にも渡さない!クーは俺の……!!」

 寸での所で口を噤み、リウは大きく息を飲み込んだ。目に、僅かに怯えを覗かせながら。

「なーる。わかったわかった。まあ可愛くてしょうがないよな」

 ゼロが酷く納得した表情で頷いた。その言葉に目を見開いたまま固まっているリウに近づき、その肩に手を掛ける。

「お前の覚悟と理由、よーく分かったぜ。悪いな古傷まで引っ掻き回しちまってよ」

 さっきまでの人を揶揄する響きは何時しか剥落して、ただ真摯にゼロ言葉を並べていく。

「お前は良い兄貴だよ」

 眠るクーを抱き締めたままのリウの黄色い瞳をゼロは覗き込んだ。

「丁度タンポポを探してたんだ。リウ、お前凄くいいよ。だから、俺はお前にこの話を持ちかける。目的を前に最も効果のあるベットは覚悟と願望だからな。まあ欲求と狂気でも賄えなくは無いんだが」

「何の話だ……?」

 リウにはまるでゼロが死神に見えた。

 危険だ。危ない。

 だけどその囁きは、リウの心の一番弱いところにするりと蛇のように入り込む。

「二人で高飛びできるほどの大金を一気に手に入れられるお仕事に、興味は無いか?」

 するりと、入り込んでくる。

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