もえないひと 18

 『僕達が生まれたから、君達も生まれたんだね』

そう言って、詳細なデータや計算結果を提示しつつ説明したプランツは嬉しそうに笑っていた。新たな種の誕生を祝福する、友人のように無邪気な笑顔だったと、戻った冒険家が記した本には書かれている。

 最初の到達者(ファーストデパーチャー)は直ぐに太陽(サニーサイド)に引き返した。自分達が虐げているものが、自分達の生命線であることを一刻も早く伝えるために。

 その頃既に、被支配が千年近く続いていた太陽のプランツの数は、全盛期の半分ほどに減っていた。

 燃やしすぎたのだ。酷使し過ぎたのだ。そしてその分、富めるヒトという種は増え続けていた。

 真実を知り、太陽(サニーサイド)を統括している中央都市は月(ムーンサイド)を即座に聖域として不可侵とし、太陽(サニーサイド)に存在する全てのプランツの権利回復と、奴隷からの解放を宣言した。燃やすことを禁じて奴隷化を続ける案も出されたそうだが、元々プランツを奴隷化して酷使することに反対していた人道主義の派閥が、持ち帰られた情報を決定打として中央で決定を勝ち取った結果だという。その裏には、奴隷制度を継続することで権力者達によるプランツの寡占が起こることを恐れたという一面もあったというのが専らの噂でもあったが。

 そんな思惑が交錯した状態のまま、ヒトとプランツは『人間』として共に歩んでいく事が、議会で決定された。

 だが解放したからといって直ぐに、上下関係や差別までは消え去るわけではない。わだかまりを残したまま、引き続き悪い待遇での肉体労働に従事するプランツが大量に街に流れ出るのは目に見えていた。

 そこで、中央都市に鎮座する権力者達は、は太陽(サニーサイド)を一旦やり直すことにした。

 それがヒトとプランツ全てを巻き込んだ、階級制度の再構築だった。

大改革(オールリセット)と銘打たれたそれによって、ヒトもプランツも全ては掻き混ぜられ、縦に並べられ、整然としたピラミッドのように積み上げられた。確固たるヒエラルキーという段階的組織構造の完成は、二つの種族に等しく格差を作り出した。誰しもを等しく公平に扱うことはできない。それが、民主主義的の限界だった。

 ヒトはヒトらしく。プランツはプランツらしく。種の独自性を保ちながら、二種族間の公平を期する。『原理主義』と提言されたその理想論は五百年の後の現在、保守派と呼ばれる弊害を生み出すことになるが、それまた別の話。

 そして、中央の『原理主義者達』はみだらに月(ムーンサイド)に出入りできないよう法律を定めた。

残されたのは、僅かに数機のカモメ。そしてプランツのみが月(ムーンサイド)に降りることができるという特例だけだった。

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