もえないひと 14

 この世界は円い大陸と、それを包みこむかのような三日月型の大陸。その二つだけで構成されていた。

 太古の昔は円型の一つの大陸で、プランツだけがそこに生きていたらしい。石や土や草木を用いて家屋を建て、簡単な象形文字を生み出し、音を発してコミュニケーションを交わすことで彼らは文明と呼べるものを形成しつつあったそうだ。

 その大陸は長い時間をかけた後、地殻変動によって三日月型の大陸と、その窪みの部分に当たる、元々の大陸の三割ほどのサイズの円状の大陸に別たれた。それから気の遠くなるような時間をかけて、二つの大陸はプランツを乗せたまま海を隔てて離れていった――山岳部の洞窟に残された壁画や、発掘された化石の類似性からも、現在それはほぼ定説となっている。

 二つの大陸がお互いの姿を認識できなくなるほどに距離を開けた頃、小さな円状の大陸にヒトが生まれ、そして栄えた。元々の住人であったプランツは、その頃森林や湿地帯に好んで住んでいたため、ヒトとの棲み分けは自然と成されていたかのように見えた。

 しかしその均衡は、ヒトの文明が火を生み出したことで一変する。

 プランツの弱点である火を操る事で、ヒトはプランツを迫害し始める。ヒトよりも頑丈な身体を持っているとはいえ、その有意差は文字通り灰と化してしまったのだ。

 ここからプランツは暗黒時代に入る。彼らは水と光と僅かな栄養剤で使役可能な労働力として、ヒトに酷使された。使い物にならない者や反抗する者は見せしめに燃やされた。

そしてヒトの総量に匹敵する労働力を手にした事で、ヒトの文明レベルは飛躍的に向上した。皮肉なことに、使役関係が生まれた事で種族間でのコミュニケーションの必要が生まれ、お互いの言葉は交じり合い、ハイブリッドとなった言語は世界の公用語となった。

 その発展が、後のプランツの解放の大きな要素となることなど誰も気づかずに。

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