もえないひと 11
「もう十分楽しませてもらった……そろそろ終わらせろ」
そこには、腰から下をポールで滅多打ちにされた男が這い蹲っていた。足首も膝も太腿も区別がつかない。まるで蛸か烏賊のようにぐちゃぐちゃに潰れた下半身を引き摺って逃げようとする男の横で、ダークスーツを着たプランツが血に染まったポールを大きく振り上げている。
「やめっ」
反射的に少年が叫ぶ。だがプランツは全くその制止に反応することなく、ポールを男の頭へと振り下ろしていた。
ガッ、と骨を砕く音。
「やはりこの場所は素晴らしい。塀と、囲むビルの高さが絶妙なのだろうか――音が幾重にも反響して、まるで百人の死が鼓膜を震わせるような錯覚を覚えるよ」
青年は目を閉じて路地裏の鈍い残響を聞き入っていた。
「あっ……あぁ…………!!」
動かなくなった男を前に、少年は腰が抜けて地面に座り込む。それに合わせてしゃがみ込んだ青年が、少年の肩に手を置いた。
「気分を害してすまなかったな、君は……あぁ」
青年は少年の襟元に手を伸ばす。そこには金色に光るバッヂがあった。躊躇うように触れられた事に少年は安堵する。これはお守りだ。黒い権力の盾であり、危険を髣髴とさせる印だ。青年はこれで去るだろう、そう思いながら少年はしこりとなってわだかまっていた言葉を思い出した。
先程出遭ったあの黒フードは、このバッヂを見て何か言っていなかったか?それを思い出す前に、青年は少年の付けていたバッヂをくるりと上下逆さに指で回していた。
「知っていたか?これは、世界の末端まで根を張り、世を蹂躙する樹を刻んだものだ」
大きく枝葉を広げていた木の姿が、地下深くに根を張り巡らせる木の形に変わる。
「お前、ユグドラの正規のメンバーではないな」
青年の茶色い目が、少年を捉えた。泥水のように濁った、心の読めない瞳だった。
少年は恐怖で失禁し、動くことも出来ずに座り込んでいた。青年がプランツの男を呼ぶ。血の滴るパイプを引き摺り男が少年の正面に聳え立つ。
少年はただ男を見上げることしか出来なかった。
男がパイプを振り上げ、それが少年の即頭部を薙ぎ払うまで。
ただ、目を開いていることしか。
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