もえないひと 09
信じられない。普通は肌を焦がす熱に正常な思考など保つことはできない。精々地を転がって炎を消そうとする判断能力が残るかどうかだろう。
ぽかんと火柱を見つめていた少年は、炎の壁から飛び出した拳を腹に受けてあっけなく吹き飛び地面を転がった。じゅっと嫌な音を立てて、化学繊維で出来たシャツに黒い拳の型が焼き付く。
「なあ、ヒトも燃えるんだぜ?」
驚くべきことに、その黒い影から、揶揄するような声が発せられた。揺らめく熱気に煽られて滲む声音が、地獄から這い寄る死の声音に聞こえたのだろう。少年は絶叫して脱兎の如く逃げ出す。纏う服に僅かな炎を宿したまま。
「ほらほら、次はどいつだ?」
驚くべきことに黒フードは、炎に包まれた状態で自由に動き、言葉まで発していた。逃げ惑うヒトの背中を炎に包まれた足が蹴り倒し、プランツへはホラーハウスのお化けのように両手を広げて威嚇する。突如現れた怪物に、路地裏は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
「ぎゃあああああああ!!」
「逃げろ!燃やされる!燃やされるぞ!」
「化け物だ!殺される!」
少年達が蜘蛛の子を散らすように退散していく。特に炎を嫌悪するプランツは、ゴミに足を滑らせ壁にぶつかりながらも必死の形相だ。
「覚悟が足りねえなあ」
残された黒フードは、面白くなさそうにその場でクルクルと円を描いて舞っていた。尾を引く炎から火の粉が千切れ飛ぶ。自由になったリウは、走り寄ってきたクーを抱き締めて、その姿に見惚れていた。初めてリウは、火を美しいと思った。脳内で逃げろと叫び暴れる本能は吐き気を催すほどだったが、クーの横顔を赤く照らすその赤の揺らめき一つからさえ目が離せなかった。
「燃やすなら、燃やされる覚悟、当然いるよな?」
回転するうちにフードが外れ、その顔が炎の向こうに現れる。
「俺はいつでも、灰になる覚悟があるのによ」
揺らめく炎の幕を挟んで尚、炎よりも赤い輝きを認め――そこでリウの意識は途切れた。
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