もえないひと 08
常緑血(エヴァーグリーン)だ。痛みで今にも意識を失いそうになりながら、リウは呆然として黒コートを見つめる。
プランツが最も恐れる、己の堅い細胞壁の下を循環する液体。今自分の額を伝うのと同じ常葉の雫。ヒトの血は最初から赤いが、プランツの血は火を以って赤を呈す。常緑血(エヴァーグリーン)で発生するのが低温度炎とはいえ、プランツを焼殺するには十分であり、ヒトであっても火傷させる程度には十分な熱を孕んでいる。その血液を身に宿し、プランツは生きている。何という生物としての欠陥かとよく言われるが、そんなことは火を嫌悪するプランツが一番わかっている。
「ぎゃははははは!!お前もこれで丸焦げだぜ!!」
だが黒フードは慌てる事もなく軽く頭を振った。僅かに常緑血(エヴァーグリーン)は散ったが、かえってその動きはずっしりと液体を吸ったフードの重みを伝えるだけだ。周囲で低い笑いが起こる。勝利を確信した、下卑た笑い声だった。
「常緑血(エヴァーグリーン)常備とかホント最近のグループってえげつねえのな……お仲間から献血でもしてもらってんのかい……まあ好都合だけどよ」
黒フードはそう言って一つ溜め息をつき、おもむろにパーカーに突っ込まれていた右手を抜き出した。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」
「はっ……!?」
ジャージのポケットから取り出したるは、プラスチックの百円ライター。
黒フードは回転ドラム部分に親指を乗せ、相手に見せびらかすようにぐっと腕を突き出す。その手からも、被った常緑血(エヴァーグリーン)がぽたりぽたりと垂れている。
「俺は魔法少女じゃないから、これが無いと変身できねえんだ」
柄の悪い男達は顔を顰めて黒フードを睨んだ。
「……頭いかれてんのか?」
そりゃあそうだ。この状態で点火しようようものなら、一瞬で火達磨になる。
だが、黒フードは不敵な笑みを浮かべたまま男たちに声をかけた。
「逃げねえんだな?じゃあ行くぞ」
じりっと親指が弾かれ、回転ドラムとフリントが摩擦し炎が生まれた。リウが目を見張る。
ぼうっ!
一瞬で周囲の酸素を取り込み、全身に染み込んだ常緑血(エヴァーグリーン)が燃料となって、火柱が彼を包んだ。
熱された空気が辺りに広がり、真紅の炎がゆらゆらと人型に踊る。
「うっ……うわぁぁぁぁ!?」
「こいつ、まじで火ぃ付けやがった!!」
少年達は黒フードの凶行に驚きを隠せない。自分達が火を付けるつもりでいたところを、本人が自ら火を放ったのだ。度胆を抜かれてもしょうがない。どうすることも出来ずに狼狽える一人のヒトの少年の肩に、真赤に燃える手が掛けられた。
「あっつ!?」
頬を舐める熱気に慌てて振り返ると、そこには炎を纏った真っ黒な影が立っていた。
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