アフター 閑話 プチ同窓会2
「ねぇねぇ、動画は撮ってないの?」
身を乗り出して霧島が催促してくるけれど、もちろん動画も撮ってある。それは黒川も同じらしく、嬉々として息子の動画を披露していた。
ちび早霧がテレビを見ている動画みたいだ。CMに入ったとたんにこっちを向いてにへらと笑っている。何が面白かったのかさっぱりわからない。でも少なくともちび早霧が可愛いことは確かだ。そのあとはひたすら歩き回るちび早霧を追いかける映像が続く。
「あはは、可愛いー」
歩き回るようになると目が離せなくなって大変なんだよね。大人しくしてる姿は見てると可愛いんだけれど。
「黒塚くんのところは?」
霧島に催促されるようにして、僕も動画を再生させる。最近撮った動画は……、これかな。二人目ができて大きくなったすずのお腹に、娘が話し掛けて耳を当てている。
『赤ちゃんなんて言ってる?』
すずの問いかけに難しい顔になる長女。一生懸命考えている表情は見ていて和む。
『……うーん。わかんない』
『あはは、そっか』
しょんぼりした娘にすずが笑いかけると、『でも……』と言葉を続けて笑顔になる。
『すごい元気だよ! 動いてるもん! ほら、今も動いたよ、見て見て!』
どうにかしてすずに伝えたくて身振り手振りを交えている。はたから見れば変な動きにしか見えないのがまた可愛い。
「なんだこの可愛さは……」
冴島が額を押さえながら呻いている。そうだろうそうだろう。みんな僕の娘の可愛さにやられるがよい。
「冴島も結婚すればいいんだよ」
「そうね。それがいいんじゃない?」
黒川と二人して勧めるけれど、当の本人は苦笑するのみだ。
「あはは、どこかにいい人いればね。……そういう霧島はどうなの?」
「えっ、私?」
急に話を振られて驚いているけれど、子どもの話をしているとこういう流れになるのは仕方がない。
「前に彼氏ができたって話は聞いたことあるけど、あれからどうなったの?」
「えっ? 彼氏いたの!?」
黒川が僕たちの知らない情報をぶっこんできた。でもその続きの話は僕も気になるぞ。
「あはは……、えーっと、実はですね……」
姿勢を正して僕たちに向き直ると、霧島から語られた言葉は衝撃だった。
「実は今度……、前から付き合っていた彼と結婚することになりました」
「「「「……ええええええ!!!」」」」
はにかんだ笑顔で語る霧島の言葉に、一瞬でその場が騒然となる。
「マジか!」
「おおお、おめでとう!」
「おめでとう、裕美ちゃん!」
「そりゃめでたい。おめでとう! ……あとはオレだけか」
がっくりと項垂れる冴島。うん、まぁ五人いて自分だけとなればそういう気持ちになるのもわかる。
「おめでとうございます! これはもう一度乾杯しないといけないですね……!」
ちょうどその時、店員さんが注文していた日本酒を持ってきてくれた。早霧もおかわりしているので五杯分だ。
「では、裕美ちゃんの結婚を祝して……」
「「「「「乾杯!!」」」」」
またもやグラスが打ち鳴らされる。本日二度目の乾杯だ。とうとう霧島も結婚かぁ。高校時代を思い出すと、大人になったんだなぁとしみじみ思う。今飲んでるのも日本酒だしね。
僕のところにやってきた日本酒は『三芳菊』というお酒だ。……さてお味の方は。
「おぉ……。パイナップルの風味がする……」
鼻を抜けるフルーティな香りがたまらない。本当に日本酒だろうか……。原材料を見ても米だけなんだけれど……。
「いや、日本酒だろ?」
「そうなの? ……ちょっと一口ちょうだい」
早霧と黒川が興味津々だ。二人にグラスを回しつつ、僕は早霧のグラスをいただく。なんとなく琥珀色みたいだけれど、これも日本酒なんだよね?
「おぉぅ……」
一口飲んでみたけれど、これはクセが強いね。好きな人はハマりそうな味だけれど、僕はやっぱり飲みやすいお酒がいいかなぁ。
テーブルを見ると他にも一升瓶が置かれている。『而今』『梵』『三重錦』『蒼空』とそれぞれラベルに書かれていた。
「……そういや、結婚式はやるのか?」
グラスを僕のところに戻した早霧が、身を乗り出すようにして問いかけている。
「うん。時期はまだ決まってないけど、式は挙げるよ。みんなも呼ぶから来てね」
はにかみながらも幸せそうな霧島を見ていると、嬉しくなってくる。僕たちも結婚式は挙げたけれど、やってよかったと思う。
「うん、わかった。楽しみにしてるよ」
「ねぇねぇ、どんな人?」
黒川は相手が気になるのか、霧島に詰め寄っている。
詳しく話を聞いてみると、相手はもともと同じ大学に通っていた同期らしい。学生時代に付き合っていたわけではないけれど、仕事で別のグループと一緒になった時にたまたま会ったとのことだ。
「へぇ、そういうことってあるのねー」
「はぁー、オレにもそういう出会い来ないかなぁ」
「冴島……、学生時代に『女の子が少ない』って愚痴ってなかったか?」
「あはははは!」
思わず笑いだす黒川。学生時代に少なかった女の子と仕事でばったり会うなんて、確率低そうだよね……。
「まぁまぁ、今はとりあえず飯食って飲んどけ」
早霧が慰めるように新しくやってきた料理を勧めている。焼きソラマメにはクリームチーズと塩が添えられており、とてもいい香りがする。もうひとつはなんだろう、アルミホイルに包まれてるけれど……。
ゆっくりと開いていくとでかい昆布が見えてきた。これだけでもすごく美味しそうだ。さらに昆布をめくると、そこには大粒の牡蠣がいっぱい並んでいた。よく見るとアルミホイルの底にも昆布が敷かれている。
「やべー、これもうまい。牡蠣の昆布蒸しだって」
さっそく牡蠣を食べた冴島は上機嫌になるのであった。
隣のお姉さんは大学生 番外編 m-kawa @m-kawa
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